基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

SF

冬眠研究の最前線──『人類冬眠計画: 生死のはざまに踏み込む』

人類冬眠計画: 生死のはざまに踏み込む (岩波科学ライブラリー 311)作者:砂川 玄志郎岩波書店Amazonフィクション、特にSFの世界では「人工冬眠」がよく登場する。意図的に人間を冬眠状態におくことで、人間の一生ではたどりつけない星に向かったり、現代では…

未来の社会に労働用ロボットが横溢した社会から人間とAIの融合を扱った作品まで、多様な可能性を見出すAI・ロボットSF傑作選──『創られた心』

創られた心 AIロボットSF傑作選 (創元SF文庫)作者:ヴィナ・ジエミン・プラサド,ピーター・ワッツ,サード・Z・フセイン,ダリル・グレゴリイ,トチ・オニェブチ,ケン・リュウ,サラ・ピンスカー,ピーター・F・ハミルトン,ジョン・チュー,アレステア・レナ…

男だけを殺す感染症によって男性人口が激減した時、社会はどのような変化を遂げるのか?──『男たちを知らない女』

男たちを知らない女 (ハヤカワ文庫SF)作者:クリスティーナ スウィーニー=ビアード早川書房Amazonこの『男たちを知らない女』は、クリスティーナ・スウィーニー=ビアードのデビュー作にして、もし世界に男だけを殺す感染症が広まって、社会の構成要員がほぼ…

誰もがテレポートを実施でき、距離が存在しなくなった世界をどこまでも追求する、エネルギーに満ち溢れた四年ぶりのSFコンテスト受賞作──『スター・シェイカー』

スター・シェイカー作者:人間 六度早川書房Amazonこの『スター・シェイカー』は、三回に渡って大賞が出なかった(優秀賞は出てたけど)ハヤカワSFコンテスト久しぶりの大賞受賞作にして、いかにもデビュー作らしく、荒削りながらも圧倒的な才能を見せつけてく…

軍拡競争が過熱し、もはや何が敵の攻撃によるものなのかもわからなくなった未来を描き出す、スタニスワフ・レムの初邦訳長篇──『地球の平和』

SF

地球の平和 (スタニスワフ・レム・コレクション)作者:スタニスワフ・レム国書刊行会Amazonこの『地球の平和』は、レムの最後の長篇『大失敗』と同じ1987年に刊行された、最後から二番目の長篇SFとなる。レムの代表作の一つ〈泰平ヨン〉シリーズの最終作でも…

造語「メタヴァース」を生み出し、数々の起業家の世界観に影響を与えた伝説のSFがついに復刊!──『スノウ・クラッシュ』

スノウ・クラッシュ〔新版〕 上 (ハヤカワ文庫SF)作者:ニール スティーヴンスン早川書房Amazonこの数年メタヴァース=仮想現実が盛り上がっている。Facebookが社名を「Meta」に変更し、OculusQuestやVRchatが普及し、フォートナイトでのライブ・生活体験が当…

弾圧が行われているとされる新疆ウイグル自治区で、実際に何が行われているのか?──『AI監獄ウイグル』

AI監獄ウイグル作者:ジェフリー・ケイン新潮社Amazonこの『AI監獄ウイグル』は、近年弾圧が激しくなっているとされるウイグルで、実際に何が行われているのか、150人以上のウイグル人の難民、技術労働者、政府関係者、元中国人スパイにインタビュー取材…

第一次世界大戦中にインターネットや携帯電話が発展し、高度な監視システムが構築されたIFのドイツを描き出す改変歴史SF──『NSA』

NSA 上 (ハヤカワ文庫SF)作者:アンドレアス エシュバッハ早川書房Amazonこの『NSA』は、ドイツを代表するSF作家アンドレアス・エシュバッハが18年に発表した、ドイツが舞台の歴史改変SF小説である。歴史改変ものとは、「もし歴史のあの時点で結果がこ…

はるかな未来から少し先のニューノーマルまで、パンデミック後の多様な世界を表現する韓国SFアンソロジー──『最後のライオニ 韓国パンデミックSF小説集』

SF

最後のライオニ 韓国パンデミックSF小説集作者:キム・チョヨプ,デュナ,チョン・ソヨン,キム・イファン,ペ・ミョンフン,イ・ジョンサン河出書房新社Amazonこの『最後のライオニ』は韓国の作家6人がパンデミック、感染症をテーマに短篇を書いたSFアンソロジ…

2020年の読むべき日本SF短篇が一冊であらかたカバーできる、竹書房文庫の年刊日本SF傑作選!──『ベストSF2021』

ベストSF2021 (竹書房文庫, お6-2) (竹書房文庫 お 6-2)作者:大森 望竹書房Amazon2020年に発表された日本SF短篇の中から、大森望が傑作をよりすぐったのがこの竹書房から刊行されたアンソロジー『ベストSF2021』である。2019年作品版の『ベストSF2020』が202…

砂漠の美しさ、サンドワームの神話的な恐ろしさを見事に表現してみせた傑作映画──『DUNE/デューン 砂の惑星』

『DUNE/デューン 砂の惑星』公開時にIGN japanに寄稿した映画reviewを、年末ですし、Amazonでも買えるようになっているのでブログ用に編集して投稿してます。おもしろいので観てね。DUNE/デューン 砂の惑星(字幕版)ティモシー・シャラメAmazon はじめに ドゥ…

『火星の人』の著者最新作にして、宇宙SF&宇宙生物学SFの傑作長篇──『プロジェクト・ヘイル・メアリー』

プロジェクト・ヘイル・メアリー 上作者:アンディ ウィアー早川書房Amazonこの『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は、火星に一人取り残されてしまった男の決死のサバイブを描くハード・宇宙開発SF『火星の人』でデビュー&大ヒットした、(リドリー・スコッ…

元NATO欧州連合軍最高司令官によって書かれた、ありうるかもしれない米中開戦を描く近未来軍事シミュレーション長篇──『2034 米中戦争』

SF

2034 米中戦争 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)作者:エリオット・アッカーマン,ジェイムズ・スタヴリディス二見書房Amazon近年、米国と中国の溝は深くなる一方だ。最近も、米国は中国の人権状況について懸念し、北京で開かれる冬季オリンピックを外交…

『三体』の劉慈欣による本邦初の短篇集、劉慈欣は長篇だけでなく短篇もおもしろい!──『円』

円 劉慈欣短篇集作者:劉 慈欣早川書房Amazonこの『円 劉慈欣短篇集』は、『三体』の著者劉慈欣による本邦初の短篇集である。中国での短篇集の翻訳かと思ったら、作品選択は原著者側によるもので、どのような意図があるのか訳者にもわかっていないらしい。た…

ハヤカワ文庫JAから700点以上が50%割引の大型セールがきたのでおすすめを紹介する。

SF

SFマガジン 2021年 12月号早川書房Amazon先日から早川書房から刊行されているSFマガジンではハヤカワ文庫JA全解説を3号連続で行っていた。僕も10点ぐらいの作品に解説を書いたのだが、その全解説がおわったこのタイミングで、ハヤカワ文庫JA700点以上の割引…

科学と魔法が混交した世界を見事描き出してみせた、ゲーム原作のNetflixアニメシリーズ──『アーケイン』

www.netflix.com 『アーケイン』を観た。ゲーム『リーグ・オブ・レジェンド』を原作とするNetflixのアニメ作品で、第一シーズンが配信されている。今月配信がスタートし『イカゲーム』を抜き去って各国でランキングの一位をとるなど盛り上がっているようだ。…

宇宙の創生から終局までを壮大なスケールと幻想で描き出す、オラフ・ステープルドン代表作の全面改訳版──『スターメイカー』

SF

スターメイカー (ちくま文庫)作者:オラフ・ステープルドン筑摩書房Amazon本書は、オラフ・ステープルドンによって1937年に發表された、壮大なスケールでこの宇宙と数多の文明の行末を描き出すSF長篇である。1990年に国書刊行会から刊行され、04年に新版が出…

謎の信号によって人類のDNAがハッキングされ、「終局」に至る様をノンフィクションとして描き出す、ファーストコンタクトSF──『ダリア・ミッチェル博士の発見と異変 世界から数十億人が消えた日』

SF

ダリア・ミッチェル博士の発見と異変 世界から数十億人が消えた日 (竹書房文庫)作者:キース・トーマス竹書房Amazonこの『ダリア・ミッチェル博士の発見と異変』は、2023年に銀河系のはるか彼方から届いたパルスが人類にぶちあたり、そこから一部の人々が重力…

地球温暖化が深刻化した未来を本職の地質学者が描きだすディストピアSF──『2084年報告書: 地球温暖化の口述記録』

2084年報告書: 地球温暖化の口述記録作者:ジェームズ・ローレンス・パウエル国書刊行会Amazonここ数年は毎日のようにSDGsや地球温暖化が話題になる昨今だが、この『2084年報告書: 地球温暖化の口述記録』はまさにそうした地球の気候変動をテーマにしたディス…

ネビュラ、ローカス賞を受賞した、内省的で連続ドラマが大好きな人型警備ユニットの活躍を描く新時代の冒険SF──『ネットワーク・エフェクト』

SF

ネットワーク・エフェクト マーダーボット・ダイアリー (創元SF文庫)作者:マーサ・ウェルズ東京創元社Amazon二年連続でヒューゴー、ローカス賞を受賞し、日本翻訳大賞も受賞したマーサ・ウェルズによる『マーダーボット・ダイアリー』。その続篇がこの『ネッ…

雑誌『家電批評』で「SFで読み解く未来のトリセツ」という新連載が始まりますという告知と今の仕事の整理

家電批評 2021年 11月号 [雑誌]晋遊舎Amazonこんにちは。冬木です。今月発売の月刊誌『家電批評』にて、「SFで読み解く未来のトリセツ」というタイトルの連載が始まるのでその告知になります。 そのまんまタイトル通り、SFを媒介にして未来の社会をいろいろ…

『三体』の二次創作小説でデビューした宝樹による、時間SF短篇集──『時間の王』

時間の王作者:宝樹早川書房Amazon次々と表現規制が行われており、今後中国の小説や漫画やゲームはいったいどうなってしまうのだろうかと戦々恐々と見守っている昨今だが、そんな最中でも中国SFは本邦で多数邦訳・刊行されている。劉慈欣の『三体』の二次創作…

ある日を境に誰も死ななくなった社会で、何が起こるのか?──『だれも死なない日』

SF

だれも死なない日作者:ジョゼ・サラマーゴ河出書房新社Amazonこの『だれも死なない日』は、ある都市の住人ほぼ全員がなぜか突如として失明してしまった状況を描き出す『白の闇』などで知られる、ノーベル文学賞受賞作家ジョゼ・サラマーゴによって2005年に刊…

資本主義以外の選択肢を模索する、経済学者・政治家によるSF経済書──『クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界』

クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界作者:ヤニス・バルファキス講談社Amazonこの『クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界』は、『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』などで知られる経済学…

テロと感染病の蔓延により、リアルに接触する機会が激減した未来を予言的に描き出したネビュラ賞受賞作──『新しい時代への歌』

新しい時代への歌 (竹書房文庫)作者:サラ・ピンスカー竹書房Amazonこの『新しい時代への歌』は、本邦では初紹介となる作家サラ・ピンスカーの長篇にして2020年度のネビュラ賞受賞作である。本作、日本でこうして邦訳作が刊行されるまえからすでにかなりの話…

アフリカの文化が色濃く反映された、様々な種族の文化摩擦と対立、その調和を描き出すSF長篇──『ビンティ ー調和師の旅立ちー』

ビンティ ー調和師の旅立ちー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)作者:ンネディ オコラフォー早川書房Amazonこの『ビンティ』は、米国オハイオ州生まれのアフリカ系アメリカ人作家ンネディ・オコラフォーによるスペースオペラ的SF長篇である。三作の中篇から構…

宇宙を支配する帝国の宮邸で繰り広げられる陰謀劇、ポリティカル・サスペンスが堪能できるSF長篇──『帝国という名の記憶』

帝国という名の記憶 上 (ハヤカワ文庫SF)作者:アーカディ マーティーン早川書房Amazonこの『帝国という名の記憶』は、アーカディ・マーティーンの長篇デビュー作。デビュー作にも関わらずヒューゴー賞を受賞、その他のSF賞にもバンバンノミネートされた注目…

数千年におよぶ進化と文明の発展を重ねた蜘蛛と人類の邂逅が描かれる、進化のダイナミズムが詰め込まれたSF長篇──『時の子供たち』

時の子供たち (上) (竹書房文庫 ち 1-1)作者:エイドリアン・チャイコフスキー竹書房Amazonこの『時の子供たち』は、イギリスの作家エイドリアン・チャイコフスキーのSF長篇である。刊行は2015年で、2016年にアーサー・C・クラーク賞を受賞している。それ以上…

主要SF賞を総なめにした『宇宙へ』の続篇にして、単独でも読める宇宙開発SFの傑作──『火星へ』

火星へ 上 (ハヤカワ文庫SF)作者:メアリ ロビネット コワル早川書房Amazonこの『火星へ』は、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞の主要SF賞を総なめにした『宇宙へ』の続編にあたる。話は繋がっているが、それぞれの巻で話はオチていて、違ったおもしろさ…

中国の思想と文化が色濃く反映された、傑作ぞろいの中国史SFアンソロジー!──『中国史SF短篇集-移動迷宮』

中国史SF短篇集-移動迷宮 (単行本)中央公論新社Amazonこの『移動迷宮』は近年躍進著しい中国SFの中でも、中国の歴史を扱ったSF短篇を集めたアンソロジーである。SFジャンルは近年それなりに市民権を得てきたといっても、特に翻訳ではまだごく一部の出版社(早…