基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

オーデュボンの祈り 伊坂幸太郎

あ、これ面白い。


あらすじ
思わずコンビニ強盗をしようとした伊藤は、昔の同級生、城山に逮捕されてしまう。だが、護送中に車が事故に会い、その隙に逃げたした結果、現代において鎖国を続けている特異な島、荻島に連れて行かれる事になる。



感想 ネタバレ無

なんか、ミステリーの賞をとったようであるから、カテゴリーをミステリーにしてみた。

確かにミステリーの楽しみ方もあるが、単純にエンターテイメントとして読んだ後に、そういえばミステリーな感じもあったな、と思い出すような読み方をしてしまった。

もっと真剣に考えながら読めばよかった・・・。なんか、こう、これはミステリーですよっというような雰囲気を出しまくる作品を読んでいる時は推理しないといかん、と気を引き締めて読むのだが、何の雰囲気も出していないと、頭が思考しないのか、ただただ文章を読み続けてあははおもしれーとなってしまうのだ。

長々と書いたが、全く間違いではない。

ミステリーの楽しみ方も出来るし、全く考えなくても楽しめる。

もちろんこの作品でも、奇抜なキャラクター、と設定がたくさん出てくる。

そのどれもが、物語において重要な役割を帯びてくるのだから、面白い。たんに意外性や、人気とりのために出しときゃいいだろ、のようなキャラクターではない。

ただ、言っている事がどの作品でもほっとんど同じなのは、どういう事だろう。そんなに伝えたい事なのか、それともそれしか伝えたい事を持ってないかだろうかと疑ってしまう。世界観を共有しているともいうし、そういうところではしょうがない事なのだろうか?

ネタバレ有

どう考えても、一番スカっとするシーンは、悪の限りを尽くしてきた城山が、桜に股間を撃たれるシーンだろうなぁと思う。

しかしこれは意外と簡単な作り方だなと思う、だからこそ、悔しい。物語のいたるところで、城山が残虐な事をするシーンが書かれている。恐らく、誰もが城山にかなりの反感を抱くだろう。 早く征伐されればいいのに、と思いながら読んでいた。そして、最後のシーンで余裕をかまして城山が桜に、拳銃を下ろせ、いう事を聞け といったのを、桜が、理由になっていないと一刀両断するシーンで、今までの鬱屈された感情が解き放たれるのだ。

非常に解りやすい図解だ。誰でも泣ける話というのが、意外と簡単に書けるのと似ている。 シンプルなほど、わかりやすいのかもしれない。

地獄に落ちても、全員が納得するようなヤツが、最後に悶え死ぬというのは最高に面白い。

桜と城山のシーンは、ある程度読めばこの結末に至るのはわかるが、最後のは予想外だった。

みんなに待ち構えられて、お前を待っていた!といわれたいとずっと思っていた静香と、島には欠けているものがあると、繰り返し繰り返し言ってきたものが、あそこで繋がるとは全く思っていなかった。 主人公が送っていた、君のアサルトサックスが聞きたい、というのも・・・。

これもある意味、鬱屈した感情を溜め込んでいたものが、解き放たれた時の感情と似ている。 繰り返し、この島には欠けているものがあると書かれており、当然読んでいるうちに、それはなんだろうと考える事になる。 考えても全くわからない。 それでも何回も出てくるから、考えざるを得ない。 けれども、わからない。最後の、最後に、今まで落ちていたヒントが積み重なって、音楽だったのか!と判明する。そういえば、あそこにも、あそこにもヒントがあったぞと思い出して興奮する。感情が、動く。

「ずっと君が来るのを待っていたんだ。ざっと」そうして日比野の顔を振り返る。
「どれくらいかな?」
彼はすぐさま「百年以上だ」と興奮した声で答えてくれた。
「百年以上」と僕も言う。「みんなが君を待っていた。さあ、どうだ」
 まるで挑戦するかのような気分で、彼女の顔を見た。これでどうだ。
 彼女も、いよいよこれはただの悪ふざけではないぞと思い始めていたのかもしれない。
 僕は抑えきれない声をそこで上げる。
「この島に欠けているのは音楽だ」

しかし、最後に少年が作ったカカシに優午が戻ってきたかのような描写があるんだが、そこはどうなんだろうか。まさか、戻ってくるとは思えないのだが・・・。 納得の死ぬ理由だったのに・・・・。

それとも、本当は全く死ぬ気なんかなくて、本当にアサルトサックスの演奏を聴くために、一時期移動していただけだったとかいうオチはどうだろうか。無いかなぁ。

ネタバレ無のほうに、言っている事が同じような内容が多くあると書いたが、そのうちの一つがこれ。

「死ぬ可能性が高まると、子孫を残そうと体が働くのだ。自分であって自分ではない。戦で死ぬかもしれないという時に、子孫を残せと命令を発している誰かが自分の中にいるのだ。それが怖い。自分の中には別の主人がいるのだ」

他の作品も読んだけど、似たような事を言っている。確かにそれは怖いが、性を否定したら、人間なんていなくなってしまうし、割り切るしかないなぁというどうでもいい感想。

「生きている価値のある人間はいるのか」
「人に価値などないでしょう」カカシははっきりとそう答えた。
「たんぽぽの花が咲くのに価値がなくても、あの花の無邪気な可愛らしさに変わりはありません。人の価値はないでしょうが、それはそれでむきになることでもないでしょう」

ここでいう価値っていうのは、なんだろう?辞書で調べてみると、一番近いのは(1)物がもっている、何らかの目的実現に役立つ性質や程度。値打ち。有用性。
かなと思う。何らかの目的実現というところがそもそも、人間基準だから、人間の価値なんていったら、それはもう意味がわからない事になってしまうのではないだろうか。

価値の定義がしっかりしないとここではよくわからない。

でもまぁ、読解力を駆使して考えると、生きている事でこの世界に何らかの貢献をしている人間はいるのか、という考え方にも聞こえる。極論でいうと、なんだってなにかの価値あるものにはなっているはずなのだが。

たんぽぽの花にも価値が無いといっている、から、少なくとも人間=たんぽぽの花ではあるみたいだ。まぁ、価値について考えるなんて、正直いって全く面白くないからやめよう。

勝手に始めて、勝手に終わってるんだからまったく世話がない。自分は自己完結型の人間なのだろうか?

最後に、考えを書いておくと、そもそもカカシは最初から死ぬ気なんて無かったんじゃないかという可能性だ。 少年にも、カカシから役割が与えられていて、その少年の手によってまた復活する気満々だったのではないかなーと。 まぁ、考えすぎかな。

最後に、ちょっとだけ好きなセリフ。

やるべきだと言われたことがあるのなら、それをやるべきだ。