短編集である。
あらすじ
短編といっても共通の世界観を持っている世界の短編集。 世界にはスキャナーと呼ばれる人間を辞めて機械になってしまった人間達が居る。 また猫がテレパシー能力を持った兵器として存在する。宇宙船は平面航法で二次元空間に入り込み、広大な星の海を渡っていく。が、星の海には恐ろしい敵が居た・・・。
感想 ネタバレ無
もはや世界体系を一人で作り上げてしまっている。時間軸が飛びまくるものの、その全てに過去と未来があり、恐らく全てが決定付けられているのだろう。どこまで決まっているのかはわからないが。
なんというか、世界体系が広すぎて圧倒されるんだな。
ちなみに収録されていた短編の中で一番すきなのはスキャナーに生きがいはない、次にママ・ヒットンのかわゆいキットンたち。
スキャナーに生きがいは無い だけれども感覚の無い機械人間=スキャナーの精神活動の書き方が良かった。一年に18日しか人間の感覚を取り戻せない上で人間としての感覚を持った愛しい人と結婚するという苦悩か。
スキャナーに感覚は無く、ただ大多数の人に奉仕するために存在する。
ママ・ヒットンのかわゆいキットンたちだが、かわゆいには特に深い意味はなかった。読めばわかるが。今でも普通にかわゆいとかいうけど、1981年にすでにかわゆいとかいう言葉を使ってるのが面白いな。
寿命を延ばすストルーンという物質を生成する謎多き星ノーストリリアに侵入する盗賊の話。
勘違い盗賊が可哀相で・・・・最後も悲惨だし。
全編を通して同じ世界観を共有してるが、独自の用語が頻出して、しかも説明が一切無いという徹底ぶりなのでここで自分用に解説を書いておく。
けもの
突然変異した知能の高い動物
マンショニャッガー
ドイツの殺人機械
猫
この世界での猫はテレパシーを使い、宇宙=空の向こうを航行する時同伴し、現れる思念体竜と闘う。人間のテレパスには竜と感じられるものが猫にとっては巨大な鼠に感じられる。
ストルーン
寿命を増やす薬。一つにつき40〜60年寿命が増える。全てノーストリリアにて生産され、ノーストリリアはそれによって莫大な利益を得ている。
人類補完機構
国家が無くなった宇宙空間での国家の代わりのようなものだと思われる。
ネタバレ有
年表にしろと作者にいったらできるんだろうなぁという整然とした時系列よ。歴史を作ってしまうというのは筒井康隆が虚航船団でもやっているが、虚航船団は世界史の痛ましい事件のみを列挙した壮大なパロディであるのにたいして、こっちは最初から最後まで創作の宇宙史だな。 スターウォーズもそうといわれればそうかもしれない。
スキャナーが英雄であるように言われているが、実際犯罪者も同じような環境におかれているわけで、英雄といっても待遇わるっというのが凄く思うな。
おんみこそ勇者の中の勇者、達人の中の達人。全人類はスキャナーに、あまたの世界のつなぎ手に、最高の敬意をささぐ。人びとがひたすら死を願う場所で、人びとのいのちを守る。スキャナーは人類のもっとも名誉ある者。補完機構の主任たちさえ、おんみには惜しみなく敬意を払う!
本文の中でこれほどまでに英雄視されているのが悲しい所か。実際は体の中の感覚 音味触覚嗅覚五感全て閉ざされて宇宙空間=空の向こうに放り出される存在なのに。
あと好きなシーンは、リーダー格の人間が汝、人狼なりや?みたいに問いを発してそれ以外の全員が唱和するっていうシーンがあるんだがそこがイイ。ヘルシングの少佐の演説より長いから少しだけ抜き出す。
「はじめて空のむこうを渡り、月に達したる人々は、そこになにを見いだせしや?」
「なにものもみいださず」
「変数のあまりに多きがゆえに。われら、なんによって第一効果をするか?」
「虚空の大いなる苦痛によって」
「ほかにいかなるしるしありや?」
「ひたすらなる、おお、ひたすらなる死の願いなり」
ひたすらかっこいいなりー。こういうの好きなりー。
まあ一人休暇中?で人間の感覚を取り戻していた一人によって、このスキャナー制度は崩壊するんだがな。最後のオチもうわぁって感じでよかった。
続いてママ・ヒットのかわゆいキットンたち
徹底した情報統制ぶりが恐ろしい。6歳ぐらいの少年が、自白剤を注入されても何も喋れないどころか、トラップ・キーを喋るようにされてるとか。ここで冒頭の文が効いてくる。
劣悪な情報伝達は盗みを抑制する。
豊かな情報伝達は盗みを助長する。
完全な情報伝達は盗みを抹消する。
明らかにこの星の情報伝達は完全で、盗みが抹消されてる。しかし真に恐ろしきはノーストリリアにおける防衛機構よ! 距離を越えてキットン達のテレパシーが盗賊の脳味噌をトロトロにしてしまうまで時間はかからないひどさ。 テレパシーで攻撃されたら宇宙を翔ける宇宙船であろうとも意味が無くなってしまうじゃないか。
実に楽しめた一冊であった。