基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

スプライトシュピーゲル4 テンペスト/冲方 丁

 

あらすじ
七人の証人を守ろうとする話。

感想 ネタバレ無

相変わらず面白い。やたらとこういった政治的な話とか、国ごとの関係みたいな話について真に迫っているのは、子供の頃シンガポールやネパールで暮らした経験故だろうか。特に民族紛争の話など、ネパールで暮らしていたら意識することしかりだろう。

そういえば昔マルドゥック・スクランブルをアニメ化するとかいっていてうれしく思ったな、という事を思い出して調べた見たら、アニメ化中止していた。こんなことあるんだな・・・。

今までこの文体、ひょっとして作者が楽をしたいだけなんじゃ・・なんて邪推したりもしたが、4巻を読んでいてやっと、この文体の方がいいかもしれないと思うようになった。明確な理由はよくわからないけど。
というか、この=とか/とかを使ったほとんど箇条書きみたいな書き方は、果たして普通に書くのと比べて楽なのか、それとも大変なのか、というのはよくわからんところだな。

今回みたいに次から次へと状況が入り乱れる場合だとこの文体のありがたさがわかるな。というか、別にこの作品に限って言えば今回だけがこんな状況だったわけじゃないが。

しかしマルドゥックからこの作品までずっとこの文体でやってきているわけだけど、この先普通に文章が書けるのかどうかっていうあれ。

あとやっぱり関心させられてしまうのは、二作品がほぼ同じ内容量で、同じ満足度を提供し続けるところか。よくそんだけあわせられるものだな。これだけは今まで培ってきた経験というやつか。

多才ぶりというか、色々こなすよなぁ。いっそのこともう小説家なんてやめて他の仕事やればいいのにと思うぐらい。いや、面白いから書いてほしいけど。この二作品を別々の出版社でやるっていうのも色々面倒くさい事が多そうだ。ページ数は極力同じにしなくちゃいけないし、片方だけたくさん宣伝するわけにもいかないわで。それをあえてやっているのだから、あとがきの最初の引用。


「俺はいわば赤信号だ。めちゃくちゃやることで、人々にこれが限度だと警告する」
                   ──映画『フィッシャー・キング

が、まさに冲方 丁という感じなのだよな。ただやはり格好つけすぎかな、とも思うが。
フロムディスタンスという冬真と鳳の話と、テンペスト七人の守る話でわかれているが、テンペストが濃すぎてフロムディスタンスがついていた意味をあまり感じないな。これから先、5巻6巻で終了とあるからおそらく次で何かでかい事件が起こって、二つの話が入り混じるようにして終わりに向かうのだろうから、冬真とのエピソードをはさめるのはこれが最後だったのかもしれぬ。

テンペストはちょっと中だるみした感があるが、それでもやはり最後はきちっとしめてきて文句ない出来。まったく関係ないけど、マルドゥックのカジノを思い出させるようなところがあって面白かった。実際どこが似ているってことはないんだけど、勝手に似ていると思っただけである。

特にラストの方は、やっと二作品が本格的にクロスしはじめたか、という気持ちがそのままワクワクに直結して大変面白かった。5巻にも期待がかかる。

その前にオイレンの4を読まないとな。


ネタバレ有

フロム・ディスタンスの方じゃ、冬真と鳳の距離が一気に縮まったのはどうでもいいとして、雛と水無月はどうなるのいうのか。日向と乙も。ていうか日向そのままじゃ完全にロリコンのごとき人間になってしまうのではないでしょうか。

ここでやっと両者がお互いをちゃんと認識して話し合うという一歩も二歩も進んだ展開になるのだが、戦力を考えてみた時にオイレン勢の方がよほど強そうに思える。絵のせいかとも思っていたがなんだか実際にもオイレン勢の方が強そうだ。まぁスプライト勢は単純な強さというよりも、「飛べる」というほうに価値があるのかもしれないが。スプライト勢とオイレン勢の単純な火力が比例していたら、空を飛べないオイレン勢は弱くなってしまうから当然のあれか?
でも瞬間的な火力だったら明らかにスプライト勢の方が高いんだよな。爆弾ばらまいたり機関銃掃射したり出来るんだから。しかも理屈はよくわからんが転送を開封──とかいってりゃ弾も武器もどんどん転送されてくるんだから、冷静に考えたら圧倒的にスプライト勢の方が強くなると思うのだが、描写を見るにオイレン勢強いな。まぁどうでもいいのだけれども。

マルドゥック・スクランブルのカジノのシーンを彷彿させたと書いたけれども、描写が似ているとか魅せ方が似ているとかいうよりも、そのどちらも違うのだけれどもわき起こる感情が似ている。何が起こるかわからないドキドキ、といってしまったら単純化しすぎだけれども、感覚としては似たようなものか。

そのシーンというのも、世界統一ゲームを遊ぶシーンなのだが。ていうかこれ、目的が違うだけで完全にCivilizationだよな。細かい違いをあげればキリがないけれどほとんど同じだ。

しかしここでのミッターマイヤーの存在感が強すぎて、のちにあっさりと、本当にあっさりと殺されてしまったから、思わず黒幕だと疑ってしまった。キャラが強すぎるというのも考え物だな。逆にほとんど目立たなかったおじさんが黒幕だったとわ・・・。


 「旧ユーゴでの虐殺を止めるため安保理の決議なしで空爆が実行されたのさ。そして決議1244において、その行為ではなく''結果''が承認された。そしてコソボ独立委員会は、今なお政界の出ていない、ある結論を発表した。あの空爆は決して国際法上''合法ではなかった''──だがしかし''正当であった''と」


ミッターマイヤーのセリフ。名前もあいまって格好よすぎる。

同じシーンの中で、最終的に全世界が水不足に陥り、ただ一国だけ真水を作る技術を持っていた雛国が、全世界のために水を作る技術を売った時に、自国の利益を損なったとしてクーデターが起き、暗殺されてしまうというくだりがあったが、正しい事をやったとしても死ななくてはいけないという現実を見たような気がしてちょっと泣いた。

それにしても、結局証人がほとんど死亡してしまうなんて、任務としては大大大失敗だなぁ。しかもその後が全く書かれていなくて、事件終了しただけだからこのあとの事を5巻でやるのかやらないのか・・・。

読んでいてずっと思っていたのだが、この大量のルビをふるのはなかなか大変そうだなぁという事だ。まぁそんなのは当然のことなのだが。
2008/7/5読了