基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

夜市/恒川光太郎

死ね、この脇役!!
貴様の死を通じて人間的に成長してやる
                   神聖モテモテ王国


そういえばホラーてあんまり読まないな。ホラーていうか完全にファンタジーだが。表題作である夜市と、風の古道の二編収録。どちらも終わり方はハッピーエンドとは程遠い。そして最後に書かれているように、成長の物語でもない(らしい) 人の死を通じて成長する物語ならまだしも、何故神聖モテモテ王国のセリフを引用したのかは、ただたんに面白かったからどこかに引用したかっただけである。この作品にそんなギャグ漫画のノリで突っ込んでいったら全てが破たんするであろう。


簡潔な文章に、意外な伏線の数々があった(ようなきがする)夜市は、まるで乙一の作品を読んでいるかのような気分に陥った。どちらの中編でも、あまりに自然に、まるで銭湯にでもいくかのように平然と異界に紛れ込んでいく。結末はどちらも救われない。最近、お約束を大事にする作品ばかり読んできたせいかたまにはこういうのもよかった。お約束を大事にする作品とは、男女が出てきたら必ず最後にはくっつき、人が死んで、復活させようと旅に出たら必ず助けられる、というような一口でいえば努力をすれば絶対にかなうという系統の話である。ふむん、夜市だって、風の古道だって、どちらも助けたって展開的に何の問題もなさそうだがねん。まぁ風の古道は展開的にまぁありかなというだけで、この終わり方が最上という気もするが。どうも最近ハッピーエンド症候群とでもいおうか、ハッピーエンド以外認められないというような傾向が見えるような見えないような。何事も断言は避けるべきであるからこんなあやふやな表現になってしまうがやっぱりそんな傾向がある。

  • 夜市


この女の子はドアホウなんですかね? 男に呼び出されて、ほいほい夜の怪しげな公園につれていかれて、十中八九襲われてしまいますよ! 危機感が足りませんよ。しかもどこに向かっているんだと聞いたら、男が突然真顔で、異界を捜しているんだ、というようなことを言い出したのに、それでも逃げださないって、どんだけ信頼関係を築き上げてるんですか。自分なんかたとえ両親だってそんなこといいだしたら悲鳴あげて逃げるわ。ギャー! キチガイがいるうううう! いきなり、一ページ目から学校コウモリがファンタジるが(ファンタジーの世界に入り込む)、それ以上に女の子が素直にこの男についていくのがファンタジーだわ。
多分この女、容姿の描写はほとんどないが金髪で巨乳だな、間違いない。

そして、おどろおどろしい異界の門とか、なんかそういった儀式的なものは何もなしに突然市場に飛び出る。この、現実と異界なんて紙一重しか違っていないだよ的な呆気なさが、地味に恐怖を誘う・・・・ようなきがしなくもない。少なくとも自分は恐怖は全く感じなかった。


いきなり市場に、なんでも斬れる刀とかいうものが売られている。じゃあ絶対に切れない盾も、当然出てくるだろうとわくわくして読んでいたがそんなもの出てこなかった。そうだった、この作者御約束は守らないんだった・・・。でも読んでいた時はそんなこと知っているはずもない。そもそも何故、わざわざ主人公を助からないような展開にしてしまったのだろうか? この中編でも、風の古道でもそうだが、世の中には厳然たるルールが存在していて、それを破ったり守れなかったりしたならば絶対にそれに相応するペナルティが与えられる。奇跡は存在しない。


そういえばなんで主人公はわざわざ女を連れて市場にいったのかしらん? とか色々な謎が一気に解決した後半は良かった。しかしわざわざ女を連れて行く必要もあるまいに、ひょっとして友達いないのか? それから、若さを対価に自由を手に入れたが、若さってそんなに価値があるものかなぁとも思う。若さに価値があるのならば、老いだって売れるのではないか。そもそも、市場で物を売っている奴らはもう外に出て行く事が出来ない奴らなのではないか? それなのに若さを必要としているっていうのはちょっと疑問だ。それから何でそいつごときが、自由なんていう意味不明なものを売る事が出来たのか? ていうかこいつら商品をどこからかっぱらってきてるんでせうか?


最終的に、弟はまたあてのない旅に出る。これは風の古道でも言っているように人の世は旅のようなものである、という話と同じだ。そしてゴールは死である。ふむん、そして市場に取り残された主人公は、彼女に助けてもらえるのだろうか? さっぱり予想がつかない。因果応報が守られているのかと思えば、風の古道では全くの不条理の名のもとに、少年の相棒が殺されている。しかしさっきから少年とか主人公とか、まったく名前が思い出せない。それほどインパクトの少ない、悪く言えば個性のないキャラクター達だった。良く考えたらキャラクター小説ではないからそれでいいのかもしれない。最近キャラクター小説ばかり読んでいたからかなぁ。

  • 風の古道


ジブリの曲の、風の通り道をイメージした、主に名前だけで。中身も同じようなもんだ、と思うものの、自分の想像力は基本的に180度違う方向に飛んで行く傾向が多いので全く役に立たない。海をイメージした曲を聞いて、これは山をイメージした曲だね、と自信満々にいったり、古城をイメージした曲を聞いて、これはもののけ姫の森をイメージしたかのような曲だ! と断言したりともう自分のイメージ力にまったく信頼がおけなくなってしまった。だがそもそも曲をきいただけでイメージが合致するってどんだけ素晴らしい感性の持ち主だよ、と思わないでもない。さらにいえば、どこにいるトーシロだって理解できるようにするのがプロってもんだろうが! と逆ギレしてもいいぐらいである。


まぁそれはさておき、こっちも夜市に負けず劣らずいいねぇ。ただ夜市の時に感じた、乙一のようだな、という感覚はこっちの中編ではもたなかった。短いながらも張り巡らされた設定というか、伏線というかいい感じにまとまっていくというのとはまた別に、純粋に作品の持つ雰囲気だけで、読ませる。こういう話も出来るのか、とこれからの作品にも期待させるような、そんな作品であった。どちらの作品も、異界をテーマにしている。さらに後の作品も異界をテーマにしているらしい。ひたすら異界をテーマに書き続けていくのだろうか。言葉をテーマに書き続けている神林長平もいることだし、これは面白そうだ。


 これは成長の物語ではない。
 何も終わりはしないし、変化も、克服もしない。
 道は交差し、分岐し続ける。一つを選べば他の風景を見ることはかなわない。
 私は永遠の迷子のごとく独り歩いている。
 私だけではない。誰もが際限のない迷路のただなかにいるのだ。

しっかし夜市の方でもそうだが、どいつもこいつも人の死に対して淡々としすぎじゃないだろうか。モテモテ王国をことさら強調するわけではないが、もうちょっと成長もしくは変化してもいいんじゃないか? 身近な人が死んでも日々は過ぎるっていうことが言いたいのかもしれないが、死んだって道が分岐しただけだよーんてのはちょっと悲しい。とも思ったが、どちらの中編も、異界から戻った後は記憶があやふやになっている。そのせいかもしれないが、別にそんなこと関係ないのかもしれない。まぁどんなにショックを受けても、時間がたてば傷はいえる。読んでいる方はあわあわあわわわとオーバーリアクション気味に驚いてくれた方が楽しめるというものだが。なにしろ、この中編でも、少年の相棒が死んだと聞かされた時の少年の描写なんて、呆然としたの一行しか存在しないからな。非常に薄味である。


ただそういった淡白な描写の一つ一つが、この作品全体のいい感じの雰囲気を形づくっているともいえる。死が軽いというわけではないが、そこが異界だということを強く認識させられる。夜市でも入った瞬間にそこがどんな世界観なのかすぐわかるように店の店主は、いきなりゴリラなどが出てくる。ようするにこの軽い描写もイメージ戦略の一貫なのだろうか。というところで終わる。