基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

レッドサン ブラッククロス〈6〉―インディアン・ストライク /佐藤大輔

ショッキングなセリフから始まる。

「貴様たちの命の値段は一銭五厘にすぎない」

まるで終わりなき戦い。言っている内容はまるで違うが。インパクトのあるセリフを冒頭に持ってくるというやり方と、戦争ものであるという点が似ているだけだ。本書では多くのSFネタが扱われているので自然と連想してしまう。恐らく佐藤大輔も大のSF好きなのだろう。なにしろ征途の登場人物にSF作家の名前を使っているぐらいだ。

戦車や艦の説明が、さすがに2ページも使うのはまずいと判断したのか1ページに戻っている。妥当な判断だろう。もしくは前回はページ数が足りないという判断からの水増しだったのかもしれぬ。

6巻では主にインド洋での戦い、それからついにはじまった上陸作戦、その前哨戦である。
加藤はついに戦車に乗り込み、ドイツ人の巣窟に踏み込む。

5巻でイタリア軍の出番はほぼ終わったかと思いきやそんな事はなかった。いったい本番である上陸作戦を前にして、囮作戦だけでほぼ2巻使っちまうってのはどうなんだい? という気はするものの、でもやっぱりマランツァーノの活躍が見られるのは嬉しいのである。

 あきらめの悪い男はあえて艦隊司令官の方針を無視した。かれは、全艦隊を救うために、ここで敵の挑戦を受けて立つかまえだった。どのみち血を流さねばならぬのならば、ただ逃げているあいだに傷つくよりは、誰かのために戦っている最中、という方が聞こえがいいじゃないか、かれはそうおもっていた。
 マランツァーノは任務を遂行する指揮官というより、勇名を馳せる機会をつかんだ中世の地方領主にこそ似つかわしい意識で行動していた。おもえば、それこそイタリア人にふさわしい勇気の表出ではあった。

いけ! マランツァーノ! イエローモンキーをぶっつぶせ! ってイタリア語でいうとGialloScimmia←これでイエローモンキーらしいのだが発音がわからん。戦闘が激しくなるにつれて、日本海軍もイタリア海軍もここまでくりゃあとことんいけるところまでいってやるぜという心理状態に移行していく、その過程がまた震えるほどかっこいい。ワレは戦艦にあらず、とアホなこといって敵に突進していく大島艦長だったり、どうせ攻撃を食らうなら敵と戦って食らってやるぜ! と敵に喰いついて行くマランツァーノだったり、自分の目がつぶれたことにも気付かずに一心不乱に敵を撃破してやろうと命令を出し続けるイギリス海軍の艦長だったり、どいつもこいつもぼろぼろのぐちゃぐちゃになりながらある一点に向かって闘い続けている。ぼっこぼこになりながらも闘い続ける初雪。悔しいのは、ありすぎるエピソードを拾い上げることができない点だ。どの人間も、命を賭けて闘っていて、そのどれもが名場面となり得るのに、数が多すぎるために記憶から薄れてしまう。

清水はまたしても地獄を生き延びたわけだ。清水の、普段はくそったれと叫びながらもその実ピンチになると歴戦の勇士かのごとく行動を始めるその性質は、まるで主人公のようだ。実際数人いるメインキャラクターのうちの一人なのだから、あながち間違っちゃいない。

 胸ポケットを叩く。予備の筆記用具はきちんとそこにおさまっていた。清水は安堵した。自分がただの役立たずとはおもえぬ瞬間を自覚するのは気分のよいものだった。

確かに。たとえ実際の戦闘にまったく役の立たない作業が自分の役割だったとしても、そのやることが無くなってしまうよりはよほどましである。そういえば疑問が一つ。今のところメインキャラクターが陸海空と一人ずつ割り振られているが(加藤、清水、森井)清水だけ、やけに役割がしょぼい。ただの記録係である。もう少しましな立場の人間が、いくらでもいるだろうと言いたくなる。実際にはまわりの人間がバンバンしんで清水の役割も広がっていくのだが、あるいは清水は死神のごとく、この戦争を人の死を見つめていくキャラクターとして書かれているのかもしれない。すでにこの巻で、清水が未来に生き残っている事は確定された故。

ブルーアイス作戦が始まってからはノンストップでハイテンションが維持され続けている。自分はもちろんそうであるし、書いている本人もノリノリなんじゃないか、というようなセリフ回しである。ページをめくればそこにはいまにも死にそうな加藤が、森井が、清水がベルンハルトがマランツァーノが、味方の肉片やらなにやらがばらまかれた戦場で、味方の血がどろどろと流れ続ける戦場で、闘い続けている。すばらしい、これが戦争だ。どいつもこいつも自分が生き残ることしか考えていな。いかに勇敢な態度をとろうが、臆病な態度をとろうが、あるいは自殺志願としか思えない行動をとろうが、すべては戦争だから、の一言で肯定され得る、そのすばらしさ。どいつもこいつも人生とは何か、などということを考えたりしない、恋とは何か、夢ってなんだろう、そんな事を考えない。戦略的には利他的な行動だが、戦術的には利己的な思惑が交錯するその矛盾。さらにさらになにがおもしろいって、答えの出ない問いになんてわき目もふらずにただ一点、見敵必戦、いかに効率よく相手を殺すかのその合理的思考、判断、理想とする思考法、こういうストイックなところですよ、架空戦記の醍醐味は。ヘミングウェイとかになると悩んじゃうからね、色々と。答えの出ない問いを悶々と考え続けるのも、まあありっちゃありなんだけどね、こうやって答えの出る、そして答えの結果が相手を何人殺したかによってすぐわかる、そういうわかりやすい問いと答えっていうのもまた、ありだよねと思うわけで。

そんなこんなでここで終わり。