基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

虐殺器官/伊藤計劃

円城塔と並んで評される事が多いので、難解なパズルのような小説なのかと思いきやそうではない。むしろ説明されすぎ、というぐらいに情報が多くて、蘊蓄やただただ喋っているだけの部分はこんなに面白いものだったのか、とはじめて思った。何の気はなしに、ハリウッドのようだと感じていたが(ハリウッドというか、自分の中では映画はすべてハリウッドということにしている)作者本人のブログを読みに行ったらかなりの映画好きのようでさもありなんというかなんというか。批評もすぐれている。優れた批評家というものは優れた作り手になれるものなのかな、と思ったり。

どの部分も安定して面白いのだが、あくまで個人的に書かせてもらえばストーリーとしての面白さがなんともいえない。ルツィアと主人公が最初に語り合う場面が一番面白くて、他にも好きな場面はいっぱいあるのだが全部語り合っている場面である。この物語はこの後どうなるのだろう!? という緊張感はあまり持ってない。何故この作品が小松左京賞をとれなかったのだろうか、という疑問を持ってずっと読んでいたので、神様のパズルにあってこの作品にないものを探し続けていたのかもしれない。

最後に虐殺の深層文法によって、アメリカを地獄に変える主人公の場面もなんとも言えない気分になった。何とも言えない気分というか、特に感想を持たなかった。ふーん、という終わり方。いやでも笑ったかな?今考えると何で笑ったのかわからないのだが。そうきたか、とかいう笑い方だったような気もする。お前何がそうきたかだよって自分で自分に突っ込みをいれたいぐらいであるが。

不思議なのは、衝撃的な展開にまったく心が揺り動かされなかったところだ。ルツィアが突然死んだり、ジョン・ポールを連れて主人公が逃げたり。ジョン・ポールが突然死んだり、アメリカが虐殺の場になったり。なんの感想もわいてこない。いつもだったらえぇ!? そりゃねーだろ!? とかうひゃひゃひゃひゃ、これだよこれがみたかったんだよ! と両極端の反応を示すのだが驚くほど淡々と読んでいて、読んでいるこっちがびっくりした。

一連の流れ、繋がりというよりも、ワンシーン毎の描写に心を奪われていた。たとえば最初の死体まみれの状況。ジョン・ポールを護送中に襲われた所で発生した、痛みを感じない部隊同士によるゾンビじみた戦い。最後のアメリカの地獄のような状況。どれもこれも小説というよりも、一枚の絵として楽しめるものばかりだ。

ミームの話だったり、プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神の話だったり、特殊部隊の話だったり言語学だったりと、とにかくカバーしている知識量が多すぎる。最初はどんどん引用していって何か書こうと思ったのだが、数が多すぎて断念。しかしこの知識って大筋にいったいどれだけ関係しているんだろうか。読んでいてストーリーと語り合いの場面の必然性が関わっていないようないるような。わかりやすく説明すればもっと簡単に、何の専門用語も使わずに説明できるのに無理矢理使ってるんじゃないか? という疑問が湧いてきたがいちいち確かめるのも面倒くさい。

これぐらいで。