基本読書

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目を擦る女/小林泰三

目を擦る女 (ハヤカワ文庫JA)

目を擦る女 (ハヤカワ文庫JA)

面白すぎて泣いた。なんだこれ。なんだこのキモい表紙は。売る気があるのだろうか。それともこの表紙は確かな芸術として、見る人が見たらわかるのだろうか。短編集にこんな絶賛を送ったことはあまりない。ナイン・ストーリーズぐらいか。しかしサリンジャーと比較するのは全く当てにならない。自分が短編集をあまり好まないのは、面白いものと面白くないものの差が激しいと悲しくなるからだ。だがどうだろうか、この目を擦る女、どれ一つとして面白くない短編が存在しない。

最初の短編であり表題作でもある目を擦る女はホラーとSFが入り混じったような傑作だし、超限探偵は壮絶に笑わせられるミステリーだし、脳喰いはいまだかつて読んだことのないファーストコンタクト。空からの風が止む時はまるで長編を読み終わったかのような感覚にさせてくれる。刻印はバカSF、衝撃の事実が連続して突き付けられていきつく暇もない上にオチは最高である。未公開実験、予め予定された明日は妙にメタ的な発言をする登場人物や、仮想世界ネタをどこまでもひっぱっていく。特に予め予定された明日は、ここまで連続してきた仮想世界概念を一変させてしまうしでどれ一つとっても創造力に満ち溢れていて飽きることが無い。

異色作だらけの中で空からの風が止む時はあまりにもまともで、この中においては少々退屈してしまった感もあるが面白さは掛け値なしである。良く意味がわからなかったのだが、それはこの人の他のSF作品群を知らないせいだろうか。

こいつらほとんど全員の名前がとんでもない。超限探偵�瑤蓮∉ⓙ源絜鬚箸辰騰瑤澄Ą,肇疋疋鵝Ą,判颪ǂ譴討い襪ⓕⓙ源絺轡哀泙辰討覆鵑勝◀匹鵑別樵阿犬磧€,匹海寮韻凌佑任垢ʔ€/彘阿寮こΔǂ蘋犬泙譴燭里任垢ʔ�
脳喰いの語り手の名前は西山下腕彦である。いったいなぜこんな名前になってしまったのかさっぱりわからない。腕彦にどんな意味が内包されているのだろうか。刻印の主人公の名前は高倉健吉である。こら! 高倉健からパクってるんじゃねえ! そして蚊の名前は蚊子である。なんてネーミングセンスだ。未公開実験はさらにひどい。丸鋸遁吉に鰒(あわび)くんに碇くんである。長々と列挙したがひでえネーミングセンスばかり。これはもう突っ込めない。ひょっとして他の作品でも、平然と腕彦とか脚彦とか、マグロさんとかひでえ名前が連発されるのだろうか、それはちょっと勘弁願いたいような気もする。

目を擦る女

ニーチェさんは言いました。この世で最悪なのはキチガイ女だ、あいつらは低い程度のやつらで、高いところにいる俺たちはあいつらのために低いところまで降りてやる必要なんてないんだぜ、と。そいつらに対するたった一つの冴えたやり方は、ただ無視することだとニーチェさんは言いました。その通りです。

隣にキチガイ女が引っ越してきたら無視すればいいのです。特に私は今も夢を見ていて、あなたも私の夢の中でのうのうと暮らしている存在にすぎないとしか言ってのけるような人間を相手にするべきではない。目を擦ると一瞬現実が見えるというこの描写。滅茶苦茶恐ろしい。しかし何故たまたま引っ越してきたはずの人間が、マトリックス的現実世界でもすぐ目の前にいるのだろうと不思議に思う。さらにこのキチガイに出された、明らかに人間の飲み物じゃない汚物を頑張って飲もうとする語り手の女性にびっくりだよ。そこまでする義務がいったいどこにあるというのか。恐るべきはご近所付き合いを大事にする主婦の思考か! ってそんなことはないだろうが。死ねば夢を見られないのよ、あなた馬鹿ぁ? は笑った。何をお前はいまさら当たり前の事を言っているのだ。そして、狂気は伝染する。鬱病を介護している人が逆に鬱病にされてしまうようなものだ。だからこそこういう人種は放っておくのが一番いいのだろう。

超限探偵��

壮絶に笑った。最初は謎だけを求めている嗜好などから、ネウロみたいな話だと思っていたら突然ひでえオチで片づけられてしまった。ひとつ目の事件が夢落ちで片づけられたかと思ったら、二つ目の事件は俺たちを監視している人間がいるに違いない! →正解だ、お前みたいなやつが現れるのを待っていた、世界の危機に立ち向かってくれ→小林先生の次回作にご期待ください!
じゃなかった。

脳喰い

脳をちゅるんと喰って、一か所に集めちゃおうという迷惑極まりないエイリアンが地球を侵略しにくる話である。身長120センチぐらいで、猿と蛙の中間的な形態をしているらしい。ってどないやねん! 猿と蛙の中間ってどないやねん! さっぱり創造できないわボケェ。足は蛙のように曲がっていて、顔は猿で手もさるで、ベロが蛙とかだろうか。うげぇーきめえ。口は大きいらしいから、どうやら顔は蛙のようである。さらに爪がながいらいし。これは猿の手だろう。しかし口には鋭い歯が大量に生えているそうなのである。歯があるとなると、長いベロは邪魔になるだけなのでベロは長くないものと推測できる。こうやって少しずつ推測しておけば絵ぐらいには書けそうである。やらないが。

卿宮が脳味噌を食われる場面、なんだか淡々としていて非常に怖い。まるでブドウを皮ごと口に入れて、皮だけ器用に出しました、テヘッとでもいうように顔にかぶりつき、脳みそだけ喰って頭蓋骨をペッと吐きだす。こええ・・・。

刻印

突然エイリアン物語が始まる。しかもそのやってきたエイリアンというのは、蚊であった。ストーリー自体はほとんど吸血鬼ラブストーリーと同じで笑ってしまう。月姫とほとんど一緒。吸血鬼はまだ人間の形をしているので、ラブストーリーに発展してもかなり違和感がないが、蚊の形をしているものとのラブストーリーになると随分悲惨な様相をていしてくる。蚊子とセックスをする場面は滅茶苦茶笑ってしまう。面白いところといえば、すべては吸血鬼がそのまま蚊になったところだと、最後までは思っていたのだ。たった一つの反転現象によってこうまで面白く出来るのは凄いなぁとそれ故にこのオチは想像してなかった。蚊と吸血鬼が入れ替わっている話かと思いきや、蚊と人間が吸血鬼の祖先だったというこの驚愕のオチには笑わずにはいられない。

未公開実験

ターイムマスィーンの話。二三個この短編の感想を読んでみたが、どの人も律儀にターイムマスィーンと書いていて非常に好感が持てる。色々な人がターイムマスィーンと真面目に書いているのを読むと笑ってしまう。ターイムマスィーンというたびにポーズを取らねばならないのは、筒井康隆のダンシング・ヴァニティを連想するがポーズをとるという以外の共通点は特に見当たらない。

 「どうでもいいけど、仮想世界ネタばっかりだと、そのうちに飽きられるぞ」

と鰒くんがいっているが、いやいや面白いよ。今のところは。だがその次の短編は仮想世界ネタではなくなっていた。ほとんど似たようなものだが。まるでチャカしているかのような短編の配置である。

予め決定されている明日

予定説。何か書くことがあっただろうか。必死にケムロがこれは仮想世界じゃない! と説明しているのは面白かったな。それからこの何もかもケムロの合図だと誤解してくるって行く女というオチ。ケムロさえ介入しなければ、それなりに幸せな人生を送れただろうことがわかるので余計に痛々しい。しかしこれはこれで幸せなのかもしれない。本人は自分が幸せになれると信じ切っているわけだし。