基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

脳髄工場/小林泰三

脳髄工場 (角川ホラー文庫)

脳髄工場 (角川ホラー文庫)

 またしても凄くどうしようもない表紙である。妙にダークな雰囲気が漂っている。この表紙を見て興味を持つような人間は退廃的な人間なのではなかろうか・・・。SFかホラーか、迷うところだが今回はホラーである。SFとホラーの凄く微妙な境目が見える。正直なところ今回の短編集は目を擦る女ほどのインパクトは与えられなかった。先に読んだほうがインパクトは大きいだろうから、そのせいもあるかもしれない。目を擦る女の中に数々見られたような、予想の斜め上どころか次元すらも超越してどこか別のところに着地してしまうような、そんなとんでも短編を求めていたのだが。そうだな、今回の短編集でいえばアルデバランから来た男、のような短編を期待していたのだ。勝手に期待して勝手に失望していたら世話ねぇぜ、てな感じだがこればかりはしょうがない。期待してしまうのは読者の性だ。期待に合わなかったら離れていくだけである。

 そういえば、どの短編だったか忘れてしまったけれども目を擦る女のなんとか探偵?瑤暴个討?新抻‘鷽輿箸?Ь霆弍蕕靴討い燭茲Δ糞い?垢襦??離札い?發靴譴覆ぁ?發靴唎蓮⊂儵啾抻虻酩覆砲漏笋肇譽丯絅蕁爾能个討唎襯?礇薀唫拭爾覆里?發靴譴覆ぁ?

 前回は滅茶苦茶な名前の人間が多くて、大変びっくりしたものだが今回はみんなまともな名前の人間ばかりで逆にびっくりした。目を擦る女だけが例外だったのか。まぁそんなことは置いといて、ぼちぼち感想でも。結構数が多いので気になったものだけ。それにしても今回は何やら全体的にコメントを書きづらい感じである。

脳髄工場

 ただの中学生がいきなり国家機密レベルの秘密を知ってしまい、最初に考えることが、組織を作って断固対決するべきだ、テロリストになってしまうがそれはもうしょうがない。とかいうむちゃくちゃな考え方が最高に面白い。やたらと哲学的な言い回しが多く、一度の説明でわかるところを何度も説明しているのはたまにきずだ。自由意思があるんだ! いやないよ、のやりとりを三回ぐらい繰り返すのは長編ならまだしも短編だとくどい。

 この人の話は運命を形を変え魅せ方を変え提示してくるものが多いな。ってこれでまだ短編を二作品読んだだけだから、多いな、なんて口が裂けてもいえないのだが。しかし88ページもあるくせにオチが弱いなぁ。予想外の打撃というものがまるでない。確かに脳髄が〜のくだりは衝撃的だったが・・・うーむ。88ページもあるくせにっていう批判はおかしいか。短い作品ほどオチを大事にするべきだろう。脳髄を入れることによって犯罪をおかさなくなるのならば、犯罪をおかすことができる人間が有利になり脳髄を入れない人間が増えて、次第に犯罪をすることができなくなってきてまた脳髄を入れる人が増えてそうすると今度は犯罪が〜と無限ループに陥るはずなのだがこの作品ではそうはならない。最終的に生命保険か何かのように、国民皆脳髄になってしまう。脳髄をつけたやつらははたして戦争は出来るのだろうか。みんな脳髄をつけてしまったら一人も脳髄をつけていない国家に攻撃を仕掛けられたら誰も闘えないのでは・・・。まぁ良くも悪くも至極まっとうな短編である。

友達

 乙一死にぞこないの青のような話。自分の分身を作り出して、どうすればいいだろうかと相談する。このオチはさすがに予想していなかった。まるで子供の喧嘩を見ているようだ。俺のビームをくらえー! バーリア! 俺のビームはバリアを突き抜けるもんねー! という理不尽なやり取りをこの短編で見たような気がする。

 またしても乙一の作品を引き合いにだしてあれだが、Calling you に似ている。ただこのオチはどうなんだろう。未来からの声が聞こえてきて、その通りに行動して居たら不幸を回避できたが、過去の自分に電話をして未来を変えてもらったら未来の私は消えてしまったーって。

C市

 途中まで凄く真面目に話が進んでいるなぁと思っていたら、突然死者が平然と歩きまわれる秘術があることが判明した。科学者であると思っていた奴は突然謎の呪文を唱え始めるし、頭が混乱した。自分の常識を揺り動かされる。その常識とは、科学が出てくる作品では呪文とかは出てこなくて、呪文などが出てくる作品では科学が出てこないという常識だ。まるで呪文があるのが当たり前かのように平然と出てきたので滅茶苦茶びっくりした。

アルデバランから来た男

 いきなり探偵事務所に、私はアルデバランから来たのですという男がやってくる。これこれ、こういう無茶苦茶なのを待っていたんだよと喜色満面で読み進める。しかもこの二人の探偵も何故か平然と超能力を使いこなす。C市でもそうだが、まるでハードSFか何かのように書きすすめておきながら突然超能力とか塩の秘術とかが平然と顔を出すから笑ってしまう。

 まあなかなかひどい作品である。突然アルデバランから来た男を追ってきたとする機械が探偵を数万本の針で串刺しにしたり
合金製の舌で腹部をぐちゃぐちゃにして喉を通って左目から飛び出したりする。正直そういうのは簡便願いたいものである。エロでさえそういう猟奇ものは好みではないのに。 そんなひどい状況になりながらも先生の一言で事態は動き出す。

 「ムッシュムラムラ!」先生が呪文を唱えた。

前に知り合いが座っていたのにもかかわらずこの文章を読んだ時に吹き出してしまった。こんな突発性の笑いに襲われるのはいつぶりだろう。ギャグ漫画でもこんなに吹かないのに。真面目な時空からいきなりギャグ時空へ放り投げられたような急転直下の大変動である。

小林泰三の短編を読んでから他の短編を読むと、イメージを引きずられているな、と感じる。それほどに小林泰三の短編は独特で、求心力のようなものを持っている。まったく別の人間が書いた別の雰囲気を持つ短編なのに、小林泰三的な何かを探してしまう。一種クセになる作品といってもいいかもしれない。不思議。