基本読書

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ΑΩ/小林泰三

ΑΩ(アルファ・オメガ)―超空想科学怪奇譚 (角川ホラー文庫)

ΑΩ(アルファ・オメガ)―超空想科学怪奇譚 (角川ホラー文庫)

 「現に存在し、過去に存在し、そして未来に在るもの、全能者」神は言った。
 「わたしは阿であり、吽である」
       『新約聖書ヨハネによる黙示録第一章八節

 読み終えたときにしばらく目を閉じて過ぎ去った物語をもう一度反芻した。紛れもない傑作であったのは疑いようもない事実なのだが、どこにそんなに感動したのかまるで理解出来なかったのだ。一つ一つの場面のヒキは見せるものがあるし、パロディは面白いしハードSFとしての面白さも格別である。反面うまく調和しきれていないのではないか、と思ったりあからさまなウルトラマンを出してはたして何がやりたかったのかがよくわからなかったなどというところにひっかかっていた。さらに書かせてもらえば戦闘シーンの描写はあまり面白くない。緊張感がないし、スプラッター展開のド派手さに任せて細かいところがおざなりになっている印象を受ける。駆け引きなどをもう少し丁寧にやってもらえればよかったのだが。そう、一番の疑問は何故こんなにもうちょっとどうにかなんねえのか的なところがあるにも関わらず、こんなにも読み終えたときに面白かったと胸を張って言えるのだろうかという話である。まあ正直なところそんな事どうでもよくて、シンプルに各所の描写が面白くて笑えて色々な作品のごっちゃに感がまるでお祭りのようで賑やかに読み終えることができた、というのが真相なのかもしれない。そう、まさにお祭りのような作品なのだ。

 ウルトラマンを見て育った世代のはずなのだが、記憶に残っているウルトラマンの場面が一つだけである。バルタン星人ウルトラマンが対峙しており、突然バルタン星人が分身するのだ。卑怯だぞバルタン星人と思ったところまでは覚えているのだが、その後どうなったのかはわからない。他のウルトラマンの記憶はまったくない。たぶん見ていなかったのだろう。だからかもしれないがこの作品を読んでウルトラマンの次に思い出したのは、ラッキーマンだった。ラッキーマンも〜〜マンものの王道展開を詰め込んだような作品だったが、この終わり方といい突然身体を乗っ取られる展開といいやはり〜〜マンものを一旦取り込んで何か別のものに変換しようとすると似たものになってしまうのだなと思った。うまくこの作品をとらえきれないのは、小説というよりもジャンプの漫画を読むような気持ちでこの小説を読んでいたからだろうと今ならば思う。スプラッター描写さえなければ、普通にジャンプにのっていてもおかしくないのではないか。最後敵地に乗り込んでヒロインを救うときに、敵が四天王か何かのように一人一人出てきてはうわーぎゃーとやられていくのは笑える。さらに敵のボスのセリフがどうみてもフリーザ。何段階か変身するし。

 「根性のあるやつだ。特別にわしの三つ目の姿──真実の姿を見せてやろう」

 ところどころ笑ってしまう。残念なところといえば、確かに笑えるのだが一過性の笑いだということだろうか。後につながってこない。完全にその場だけの笑いである。一回ならばいいものの、積もり積もってくるとちぐはぐな作品という感覚がぬぐいきれなくなってくる。最初から最後まで基本的に王道を行く展開なのである。理屈も割と通っているし、そのうえでSF的なバカ話を展開するのだからSFとしても王道。ジャンプ的な王道もある。〜〜マン的な王道でも、当然ある。さらに数々の作品からのパロディ。もうこんな作品は書けないだろう。一発限りの超特大変化球、ただしド真ん中。お祭りと表現したのは、やはりあまり間違った表現ではないだろう。

 一番ショッキングだった場面は、主人公を慕ってくれていた義妹の女子高生がとても表現できないようなひどい死に方を主人公の目の前でしたところだろう。思わず読んでいて唖然としてしまった。最初からあまりにもエロゲーとかライトノベルみたいな安易なキャラクタだと思っていたが、まさかショッキングな死に方をさせられるためだけのキャラクタだとは想像していなかった。二番目にいきなり死体が動き出して「ぼごあ」とかなんとかいって白い液体をぶっかけるところだろうか。そういえば最初に出てきたっきりで最後まで唐松が出てこなかったが、あれも唐突といえば唐突と感じた。すっかり忘れた頃に物凄い助っ人が来てくれるのならば燃えるのだが、すっかり忘れた頃に忘れられてもしょうがないようなしょぼいやつが助っ人にきてくれてもなんか燃えないんだが・・・。

 何度も言うが細かく気になる点は無数にある。だがそれでも全く作品の価値が自分の中で落ちないのは、ここまで書いてきてわかったことだが王道は細かい点を無視して突っ走るものだということだ。ドラゴンボールの世界に突っ込みを入れる人間がバカ扱いをされるように、この世界に突っ込みをいれるのはナンセンスだ。王道は王道であるというだけで強靭な論理武装をしているのだ。だからこそ安心してストーリィを読み進めることができる。頭をからっぽにして、漫画を読むようにしてページをめくるのもよし、じっくり読みこんでハードSFな世界観にひたりながらウルトラマンを動かし恐竜を論理的に楽しむのもよし、それぞれ好きな楽しみ方をすればいい。