基本読書

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1ドルの価値/賢者の贈り物他21篇/O・ヘンリ

1ドルの価値/賢者の贈り物 他21編 (光文社古典新訳文庫)

1ドルの価値/賢者の贈り物 他21編 (光文社古典新訳文庫)

思い返しても秀逸な短編ぞろいでよだれがたれてきそうだ。1個か2個、ん? とか あれ? と思うオチがあったものの21篇中満足できる短編の数が90パーセントを超えるというのは短編集では珍しい。恥ずかしながらこれが初めてのO・ヘンリーだったのだ。短編の名手とはしっていたものの、いったいどういった作風なのか、などと少しでも踏み込んだ内容は一つとして事前情報として知らなかった。星新一のような、色々な世界観を変えて切り込んでくる短編を書くのかな、となんとなく想像していたのだがまるきり違って驚いた。基本的に愛とか、恋をテーマにものすげえ読みやすい文章で切りこんでくる。ひとつ目の短編で使われていた表現の一つ

速記者でありながら、速記ではとても表現しきれないような美貌の持ち主であった。

があまりにもツボってその時点でO・ヘンリーの虜になっていたのは間違いが無い。速記ではとても表現しきれない美貌っていったいなんぞ・・・。このあとも愉快な表現はつきることがなく、しかもそれが思わせぶりというかなんというか、邪魔にならないのである。するすると自然に頭に入ってくる。

いくつか好きな短編をあげておくならば、まず一つ目は甦った回心。展開的にはありがちというか、非常に王道そのものなのだが魅せ方がうますぎる。それからたった7ページにも関わらず強烈なオチを叩きつけていった心と手。二人の賢者を書いた賢者の贈り物。この三つが今のところ鉄板である。どの物語も根底にある動機は愛だ。愛ゆえに回心し、相手を心配させないような配慮を見せる心と手、賢者の贈り物はいわずもがな、お互いがお互いに相手を思いやり、贈り物を送る。この三つに限らず、9割方の短編には愛やら恋やらが関わっている。文学によくある人間のよくわからない部分いかに浮き彫りにさせるかというよりも、よくわからない部分をより単純にしてあてはめていったという感じがする。
ドロボウの義侠心に負けて逮捕をやめた警官だったり。どの作品にも奇跡のような要素がちりばめられている。水車のある教会なんてべたべたの奇跡だし(生き別れた娘が記憶喪失で、偶然戻ってくる)楽園の短期滞在客はホテルで偶然ひかれあった二人がお互いに嘘をつきあっていた、なんていうベタベタな展開だし。良くも悪くもお話の前提にのっとって全てが進められている。フラグをフラグのまま素直に消化していく。それが読み手を安心させてくれる。今回は奇跡だったり、愛だったりととりあげてみたが他にも色々な角度からの読み方をすることができる。そのどれもが作品全体で共通していて、外れがすくない原因となっているような気がしなくもない。速記を仕事に持つ人間が何作か出てきたり、靴を売ろうとする人間が何人か出てきたりと作者のバックボーンがこうしてみると垣間見えるのも楽しい。とにかく色々な楽しみ方ができるのである。また時がたった後、読み返したら好きな短編も変わっているだろう。いつか読み返すのが楽しみである。