- 作者: ジョンクロウリー,John Crowley,大森望
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2008/11
- メディア: 文庫
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年によっては、初霜のあと、太陽がまた熱くなり、しばらく夏がもどってくることがある。冬はもうすぐそこ。朝のにおいを嗅ぎ、半分色が変わりかけたカサカサの木の葉がいまにも落ちようとしている姿を見れば、それがわかる。なのに、夏が訪れる。ささやかな、偽りの夏。ささやかな、いつわりのものだからこそ貴重な夏。リトルベレアではそれを──だれも知らない理由から──機械の夏(エンジン・サマー)と呼ぶ。
幻想的な物語。人類が衰退した後という設定の舞台もそうだし、語り口もとても幻想的。表紙に書かれているハートのマークが書いてある白いカードが、日本の国旗に見えてだいぶ長いこと何で日本の国旗があんなとこに描かれているのだろうと疑問だった。全体的にまだわからない謎で満ち溢れていて、すらすらと読み進めることができないがゆっくり寝る前に読み進めるぐらいがちょうどいい。急いで読んだらこの作品の良さが半減してしまうのではないかというぐらい。結局読み終えるまでに一週間ほどかかった。いつかもう一度読み返してみたい作品の一つ。
ワンス・ア・デイ派とブラウンアイズ派で分かれている感想を読み、作中に二人の女の子と揺れ動く話なのだろうと勝手に想像していたらまったくそんなことなかった。ブラウンアイズが出てくるという別作品ハローサマー、グッドバイも読まねばなるまい。サマー繋がりで勝手に論争しているのかと思いきやそうではないみたいだ。ヒロインとしての魅力がワンス・ア・デイにあるのはもちろんなのだが、SF全体を通しても一ニを争うといわれるとどうもピンと来ない。しかしワンス・ア・デイものすげーツンデレ。
「春になったら」とぼくはいった。「もどってくるね」
「いまが春よ」
これを読んだ時は語り手の気持ちになって悶えた・・・。だ、断絶やないかい。こんなこと言われたら泣いてしまうわ・・・。しかも語り手の描写が過去を振り返る形式だからか知らないけれど、やけに淡々としていて悲しい。このあとも猫のところに行くワンス・ア・デイを引き留めようとしてまた同じやりとりが繰り返される。二回目でもやはりショックはでかい。
物語やらキャラクターの名前についてでも。ラストのオチは圧巻。雰囲気小説ってだけじゃないやんと唖然としてしまった。しかもゾっとするようなオチではないか。しばらく後味が悪くてうげぇーとショックが抜けきらない。最後の一文のあとに、ゲームブックよろしく1ページ目に戻る! とか書いてあっても何の違和感もない。まさに終わらない歌・・・じゃなかった、終わらない物語。あとキャラクターの名前。一人笑ってしまう名前のやつがいる。<絶対絶命>(イン・ア・コーナー)・・・。ぜ・・絶対絶命・・・。常時瀕死なのかなあ・・・。
本書には人生における格言がちりばめられている。どれもが淡々と優しく語られるので何の抵抗感もなく受け入れられる。そういった意味では、星の王子さまを連想させた。特に気に入った一つだけ引用する。
『いいかい、オリーブ、自分自身を追い求めるのはいいけれど、それが自分自身を追いつめることになったら、やめる潮時だよ』