基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

コズミック水/清涼院流水

コズミック水 (講談社文庫)

コズミック水 (講談社文庫)

 読み終わったのは1月1日。大晦日、大多数の人間がカウントダウンに明け暮れあけおめメールをやりとりしている時に自分はもくもくと清涼院流水の作品と向き合っていた。くしくも1200人を殺すと宣言した密室卿の殺人がスタートしたのも1月1日。ここには何らかの意図が隠されているに違いない。そして大多数の人間が友人と楽しく初詣にいったり家族とゆっくりしているであろう1月1日に自分は黙々とコズミックを読んでいるとは、なんと寂しい1月1日であろうか。しかし今まで生きてきた中でなんと充実した1月1日であろうか(言いすぎ)。読み終わった瞬間をもって流水信者に変化を果たした! もはや怖いものなどない! これからは30を超えてもことあるごとに自分を記述している人間を見越して貴様! みているな! と叫ぶ毎日が続くのだ!流水ばんざーい!

 頭がおかしくなっているように見えるが実際に頭がおかしくなっているので問題はない。真に問題があるのは、事実を伝えていない場合である。前回に読み終わった時にバカになっているような気がすると書いたが行き着くところまでいってしまったようである。

 そう、最後の真犯人を言い当てるところまでは比較的まだまともに読んでいたような気がする。トリック自体はふーんというか、あれだけ盛り上がったのにそんな簡単に説明されちゃうんだ・・・というぐらい呆気なくてえ?え?それでおわりなん?まじなん? と九十九十九に詰め寄りたくなるようなものだったのだが、まさかそのあとに大どんでん返し返しが用意されているとは予想していなかった。言うならば最初のトリックはまだ小粒である。ふーん、ああそうなのあり得ないあり得ない程度の反応で終わるかと見せかけて、大どんでん返し、「真犯人は曹操だった!」によって一つ前の冷めた反応を超絶に吹っ飛ばしてあり得ないあり得ないから! ていうか流水先生頭おかしいから! となってうやむやだったのを全て吹き飛ばしてくれるのである。作中で探偵たちが言っているように、実際の事件は終結してしまっていて真犯人を言い当てるのは、このコズミック世界の住人たちからしてみればもはや意味のないことだったけれども、読んでいるリアルワールドの読者たちにとってはこの結末によってはじめて大団円となるのである。しかし正直いってあまりにも突拍子のない真犯人で、読み終わった時もいったい自分は何を読み終わったのかわからなくなって茫然自失としていた。力の限り罵倒しようか、神をあがめるかのごとく絶賛しようかはたまたどちらもやるのか基本方針が定まらぬままこうして書きはじめてみれば、流水ばんざーい! などと書いているからして流水先生を神の如く崇める方向で決着がついたようである。ジョーカーでも殺された人間の名前が真犯人と関係していたので、どうせ今回もそうだろうとは思っていたが調べることはしなかった。ただ調べてもわからなかっただろう。同じ事をやってくるとは思わなかったが、被害者の苗字の一番したを並べると「卑弥呼に密室お伝えたのは曹操」になるなんて普通は考えない。ていうか真犯人が曹操であるって伝えているのはこれしかないよな・・・。犯人のミス・ディレクションとは考えないだろうか。いやしかし犯人は曹操をミス・ディレクションに出来るのはコズミック世界だけか。だいたい龍宮とか言葉が専門で、しかもジョーカーで被害者の名前を使った犯人の暗示をすでに一回経験しているんだから真っ先に犯人は曹操説に気づいてもよさそうだけれど。

 今回でA探偵も雑魚になってしまうぐらい探偵力のインフレが起きるのではないかと危惧していたのだが、ぎりぎりのところで踏みとどまったところがある。それはS探偵が手加減をしてくれたおかげだ。何しろこいつら、1月1日から事件の真相はわかっていたと発言するにもかかわらず、誰ひとりとしてその真相を語ろうとしないのだ。あまつさえ十九やら鴉城やら犬神やらは、犯人の頭文字だけを言い合うというお前らは思春期真っ盛りで好きなこの頭文字を言い合って盛り上がる中学生女子かと長い突っ込みを入れながら読んでいたのであるが、結果的にこいつらの真相を決して言わないという努力によってどうにかA探偵も自分で推理をする時間を与えられ、自分でなんとか推理して株を落とさずにはすんだようである。しかし困るのは、S探偵達が犯人の頭文字は「H」だ!とか「いやSです」とかいうもんだから、当然今まで出てきた人名からSさんやらHさんを探すわけである。それで最後に出てきた答えがSは曹操でHは卑弥呼だった! なんて明かされたらキレてもしょうがないと思うんだよね。あと十九が世界中の人に生中継で犯人は松尾芭蕉です!って宣言した時も、あの世界の人たちは当然キレてしかるべき状況だと思ったのだけれど意外と冷静な人たちが多くてびっくりである。

 この時、ブラウン管を通して九十九十九の美しすぎる会釈で失神した者は、約十六万人。たとえサングラスをかけても、十九の美しさは損なわれる事はなかった。いやむしろ、サングラスによって美貌を隠されたことによって、人々は想像を逞しくし、十九の美しさに見惚れた。

 凄いよなぁ。いや、ほんともう凄いとしかいいようがないよなぁここまでされたら。会釈で十六万人失神させちゃうんだから・・・。他になんて言えばいいというのか。

 八月──。DOLLは、十九に『探偵神(God of Ditectives)』の称号を与えた。
 九十九十九は、名実ともに、世界の『救いの神』となったのである・・・・・。

 凄いよなぁ。ほんとにすごいよ・・・。なんてったって神だからね・・・。普通いくら凄くたって神の称号は与えないだろ・・・。ゲームでも神の称号なんてそうそうないぜ・・・。ここまでされたら笑うしかない。探偵神ばんざーい!

 あと突然新探偵犬神夜叉君が出てくるんだが、十九との初対面時の会話が面白すぎる。君はいったいどんな推理方法を使うんだい? みたいにふつうに聞いていて、ああ、やっぱりこの世界で探偵をやるためには自分だけの推理方法をもたないとだめなんだな・・・と愕然としてしまった。いや、そんなのないっす。普通に推理するだけっすっていったら多分やっていけない。ハンターハンターでハンターはほぼ全員念が使えなければならないように、探偵になるならば推理方法を編み出さなければいけないのだ。

 余談だが被害者の一人に森博嗣をモチーフにしたキャラクターが居て笑った。殺されとるやんけ、森博嗣先生。あと最後に被害者として紹介されていた松尾芭蕉先生の職業が密室卿になってて笑った。密室卿って職業だったのかよ。松尾芭蕉もまさかはるかに時を超えて1200個の密室殺人を犯す驚異的な存在として書かれるとは思わなかっただろうな。歴史に名を残すのも結構つらいもんがある・・・。