基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

羊たちの沈黙/トマス・ハリス

羊たちの沈黙 (新潮文庫)

羊たちの沈黙 (新潮文庫)

 読んだ時の気分☆5
 とても不思議なこともあるもので、読んでいる間面白い面白いと思っているにも関わらずつまらんという思いも並行して存在していた。構成やらキャラクターやらセリフ回しが素晴らしくうまいのに反して、地の文が圧倒的なまでに合わなかったからだ。各所で訳がひどい訳がひどいと罵倒されていたので訳のせいかと最初は思ったが、考えなおしてみると表現自体が合わないので原文からしてダメなんだと思う。なんか一つのことを描写するのにたまにみょーに回りくどい、ねばりつくような表現をするときがあって人によっては文学的だ! とか評するのかもしれないけれどひたすら気持ち悪かった。

 犯罪心理学や、虫の知識やらを自然に物語の中に挿入するのが凄くうまい。あとはレクター博士とか今回の連続殺人事件の犯人の異常性? こういうただ異常なだけの存在を物語に自然に溶け込ませるのって結構難しいはず。ただ単に異常だからという理由で、誰もが想像しないことをやらせとけば異常な人間が書けているとは言い難しい。だからこそ世の中の推理小説の犯人には動機が必要とされるのかな、動機があれば納得しやすいし。推理小説だけじゃなくて、現実においても人々は犯罪者に動機を求めがちだ。森博嗣の作品内で誰かが語っていたけれど、動機を知ることによって安心したいという欲求は確かに存在すると思う。恨みがあったからとか、そういうわかりやすい理由があれば、恨みを持たれない限り自分が殺される心配はないから。しかし目についたから殺したなんて言われてしまうともうこれ予防のしようがない。ただそれが趣味だから殺すっていう人間を書くのはそれを納得させるだけの現実感がなくちゃいけないからなぁ。そこでまたいかにしてトマス・ハリスレクター博士に現実感を与えているかとか考えてみても面白いかもしれない。またチョイ役にも面白みがあるのがいい。たとえば虫研究家の二人(立場も名前も忘れてしまった)、本当にちょっとしか出てこなかったけれども記憶に残るような個性的な人間だ。