基本読書

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山ん中の獅見朋成雄/舞城王太郎

山ん中の獅見朋成雄 (講談社文庫)

山ん中の獅見朋成雄 (講談社文庫)

 舞城王太郎作品の代名詞とでも勝手に思っている導入部のスピード感がない代わりに、徐々に盛り上がっていく作品である。絶妙の盛り上げ方でラストが一番盛り上がったがどうだろうか。やはり舞城王太郎作品を冷静に読む事はかなわない。どうしても信者補正がかかってしまうようである。多分主人公の性格とかに共感することしかりだから。何だかとんでもない状況になってしまっても、ただそうなってしまっているだけだからどうということはないと何も感じないこの性格。基本的に予定説を受け入れているんだろうな。この物語が成雄の淡々とした一人称で進むので違和感を覚えるかもしれないが、成雄の性格を考えれば納得のいく淡々さである。そして成雄の性格は舞城王太郎作品のどれを見まわしてみても認めることができる。自分をそこに見ているようで舞城王太郎作品を冷静に読めないのである。

 煙か土か食い物に出てきたウサギちゃんが出てきたという一事でもって大満足なのであるが、それ以外にもいい部分はたくさんある。トンネルとかね。千と千尋に限らずトンネルってのは象徴的な意味を持っているよね? たぶん。酒井さんの小説にもトンネルの象徴の話が出てきたし、トンネルの前と後では別世界的な? 墨をすったりする部分はバガボンドを彷彿とさせたが特に意味はないだろう、たぶん。象徴的な意味がたくさん盛り込まれているのと、主人公の性格およびそれに付随する淡々とした文章と相変わらずスカっとしたいいラストは最高。だがあえて一つ、あれ? と思った点をあげるならば人を食べるのがありか、なしかという最期の議論が平行線だから議論はええわ、といって逃げてしまうところだろうか。最終的にその結論にたどり着くのはいいとしても、ちょっと唐突すぎるちうか速すぎるのでまるで作者が逃げたように感じられてしまう。まあ他の文学作品だと遠まわしに議論しまくったあげくうやむやになってしまうところをストレートにビシバシっといいたいところだけ言いあわせてとっとと解散させてしまうところとか、とても舞城王太郎らしいといえばらしい。