基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

ノーカントリー

ノーカントリー スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

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 だが魂を危険にさらすべき時は
 ''OK''といわなければならない
 ''この世界の一部になろう''と

 これは本当に素晴らしい悪党ども。特に何も期待せずに見始めたら、冒頭で完全に引き込まれた。しかし最初の保安官の独白は要するに今の若い奴らは本当にすぐキレて人を殺すし理由もないのに人を殺すしでほんとあいつらわけわかんねーよ理解できねーまじくそふぁっく! みたいなどうしようもねー独白なんだよなー。これいったいなんなんだろう。個人的には人がばんばん殺されていくので大傑作。しかも余人には疑い知れない明確な理由のない死なのでそこも果てしなくグッドである。近年溢れすぎている、殺す方も殺される方も被害者的な、感動させるためだけにやっているような作品とは一線を画している。なんといっても見どころは、異常殺人者とでもいえるような、シガーさん、作中のシガーさんを追うなんかやたら大物ぶったおっさんにこうまでいわしめる素晴らしい異常者。最後までこいつは異常者であり続けてくれたので緊迫感が途切れることはない。見ている間ノドがからからになるほど緊張した。自分はなんで理不尽にばんばん殺されていくのが好きなんだろうと不思議に思った。社会は理不尽なことばっかりで、それを体現しているからーとかよりも、たぶん純粋に爽快さを感じているからだろう。ふだん誰も出来ないことを、なにものにも阻まれずにスカっとやっている。きれいに決まったシュートを見た時と同じ感覚?

 奴は何者だ? 究極の悪党か?
 そうじゃない そうだな 奴は ユーモアを持たない男

 正直いってユーモアを持たない男とか言われてもなんのこっちゃ、という気分だったのだが、まあ究極の悪党とか言われるよりはまだなんかそれっぽいのう。そんでもってこのシガーさんを追うかませ君が、やつも明確なルールを持っている云々といっているがそれが明らかにされることはない。作中で何度かコインを投げて表裏を決めさせる場面があるけれど、「その後」がまったく書かれていないのでこやつの明確なルールとやらが最後までわからないのである。そこがいいのだけれども。たとえば一番最初にコインの裏表を決めさせられた店主、いっけん助かったっぽいけれど不明。次にコインの裏表を決めることを拒否した主人公の嫁。これも生死不明。あと何かあったかな? ああ会計士も生死不明だなあ。会計士があんまりおびえてなかったのが見ていてかなり不思議だった。個人的にはこいつらはみんな生きていると思いたいけれど、まあ死んでいそうな気もする。最後主人公の妻との会話で

 決めるのはコインじゃない あなたよ
 コインと同じ道を俺はたどった

 と言っている。最初のコインをやった存在である店主との会話では、お前はコインの裏表を当てたらすべてを手に入れることができるといっている。本当にコインと同じ道をたどったなら店主はどうなったんだろう? すべてを手に入れることができるっていうのはなかなか解釈が難しい。外したら死んでいたのだから、あてたお前はすべてを手に入れた状態なんだぜ? っていう皮肉な考え方もできるし、死ぬことによってすべてから解き放たれてお前はすべてを手に入れたんだぜ?(強引か?)というのも出来なくはない。そして何より疑問なのは、題名があらわしているノーカントリーのごとくにシガーさんはミスターアンチェインなんだよなあ。なにものにも縛られない男。主人公との対話で

 お前が従うルールのせいでこうなったなら
 ルールは必要か?

 こう言っている。ルールなんていらない、国なんて、国境なんていらない、みたいなのがノーカントリーの意味だと思ったがうーむ、そう言っている自身がコインの結果に縛られているのはおかしいような気がする。本当に縛られているのかどうかすらもよくわからないが。まあでも最後、主人公の嫁に決めるのはコインじゃない、とか言われてそれもそうか、と納得して、んじゃあいつと約束したから殺すことにしたわ、とかいって殺されてもなんか悲しい。とにかくこの映画は、決定的な部分が移されていないことが多くてその辺がこの作品の持ち味であって、それが見終わったあとにいろんな人の感想を見に行きたくなる理由だろうなーと。それから不思議だったのは、なんで最後たそがれて夢の話をしてたおっさんは、部屋に踏み込んだ時に殺されなかったのかなーと。ていうかシガーさんあの部屋で何やってたんだ? 金をあそこに隠しておいたのかな。この映画、おっさん達のために、みたいな原題がついているが最期を見ていてそれを強く感じた。金とか麻薬とかにあやつられてわかいもんがピャッピャやって死んだり殺されたりしているのから遠ざかって、夢なんか、のほほんと見ちゃったりしてね。すべてのじーさんはそうすりゃいーんだぜ、とでも言いたげだな。

 一番印象に残ったのは犬が全力疾走して追っかけてくるところ。犬とまともに戦おうと思ったらやっぱ素手じゃいかんよなマジで。全力疾走で追いかけてくるのも怖かったけど、川に逃げたら全力犬かきで泳いでくるところも相当怖かった。水陸両用だもんなーあいつら。すげー勢いでかいてたよ、水をさ。あれは笑ったね。