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独裁者の城塞 新しい太陽の書 4/ジーン・ウルフ

独裁者の城塞 新しい太陽の書 4 (ハヤカワ文庫SF)

独裁者の城塞 新しい太陽の書 4 (ハヤカワ文庫SF)

 午前二時に窓を開けて耳を澄ませば、
 <冬>が太陽を呼びにいく足音が聞こえるだろう
 そして、陰の木々のそよぎが聞こえ、
 月光を浴びた木々のきらめきが見えるだろう。
 そして、闇は深く暗いけれど、
 もう夜は終わったと、きみは感じるだろう。
                   ──ラドヤード・キプリング

 これは全く、普通ではない。自分の手には負えない。何気ない一行の描写が重大な意味を持っていたという驚き。まったく何の意味かわからなかった描写が次々と息を吹き返して襲いかかってくるイメージ。読み終わった時にまず第一に思ったのは、いったいなんなんだこれはという困惑。本当になんなんだこれ。自分が期待していたのは今までの長編が一か所に集約されて全てが昇華されていくイメージ。ようするにクライマックスのようなものを期待していたのだが無かった。いや実際には読み方次第でそうなる場面は多々あったのかもしれない。ドルカスを見て、話しかけられずに去っていくセヴェリアンの場面など盛り上がる所は確かにあった。しかしあくまでも静かで、平だ。全編クライマックスだからかもしれない。どこを読んでも重要な場面だらけのように思えて、一瞬たりとも気を抜く事が出来ない。全四巻で構成されているが思い返してみると、どれも違った味を持っているように思う。単純に一個の長大な物語を四つに分割したというよりもうーん、どれもこれも持っている意味合いが違うというかなんと言うか。個人的には一巻はやたらと印象的なセリフが多かった。プレゼントのくだりとかこれから先多分何らかの意味を持ってくるんだろーなーという謎がある程度わかりやすかった。それに何よりセヴェリアンの旅が、凄く意味のあるものに感じられた。巻を進むごとに把握しなければならない謎が多くなり、それこそセヴェリアンでないと一回で理解するのは不可能だ。謎が謎のまま放置されるのを怒る人もいるがそういう人はこれを読んでどう思うのだろうか。読めば答えは書いてあるかもしれない。大人しく何度もわかるまで読むか、それともやっぱり怒るんだろうか。気になるなあ。書きたい事というか書けることがあまりない。まったく新しいものに出会った時人はそれをうまく描写できないだろう。〜〜のような、という常套句が使えないのだから。何かを評価しようと思ったら一番簡単なのは〜〜より凄いとか、〜〜より面白いとかだろう。そういうことがうまくできない。今まで読んだことのないタイプの物語だから。どうしようもない。結局この本を評価するとなるとなにがなんだかわからないとなるわけだがそれでも何か書いておくことにする。圧倒的謎が提示されてわけがわからないまま読み終わりしかもその解答はちゃんと自分が読んできた中にあった。この感覚。こそが。何よりも。素晴らしい。この感覚はたとえるならば、歌手になるといって父親と喧嘩して家を出て何年か経ち、父親が死んだあと父親の机を見たら自分のCDが全部入ってライブのチケットも全部取ってあって新聞の切り抜きもまとめてあった時の感動だろうか(長いたとえのうえにそこまでやられたら感動通り越してヒクかもしれん)要するに自分が今まで歩んできた道が実はとても素晴らしいものだったとでもいうような。まったく楽しませてもらいました。

 ゲームをやりこんで二周三周できるような人はこの本に非常にハマるかもしれない。自分はゲームを二周やった経験がポケモンぐらいしか思い出せないが、これをいつか読み返す時が自分に来るのだろうか。もしその時が来るとすれば、今よりもっと深く物語に入っていけることを望む。