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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

新世界より/貴志祐介

SF ファンタジー

新世界より 上

新世界より 上

 最近ただ感想を書くのもなんだか退屈してきたのでたまにはスタイルを一身してみたりする。というわけで今回はこの新世界より、が文庫化した際に解説を書いた人間という設定で、解説風味に書いていくことにする。雰囲気を出すために嘘をいっぱいつく上に、別に時間をかけて書くわけではないのでぼろぼろである(保険)

文庫版へよせて
                                                フリーライター(仮)huyukiitoichi
 本書はエンターテイメントの鬼才である貴志佑介が三年半ぶりに放つ渾身の大長編冒険活劇である。著者の作品の多くはデビュー作『十三番目の人格──ISOLA』が第三回ホラー小説大賞長編佳作に選ばれたことからもわかるように、ホラー作品で構成されている。さらには映画化された『十三番目の人格──ISOLA』『黒い家』『青の炎』などはどれもまっとうなホラーだった為、こういった作品から入った貴志佑介読者は本書で彼のSFファンタジー的側面を知って驚いたはずである。そしてこれが貴志祐介初体験のあなたは、彼の他の著作に手を伸ばすことによって逆の驚きを知ることになるだろう。さて、本書はSFファンタジーであるからして今までの読者は尻ごみをしてしまうかもしれない。だが安心していい。貴志祐介はどこまでいっても貴志祐介だ。むしろ貴志祐介の特性を限界まで伸ばしきった結果が本書であると言い切っていいだろう。人間の本質をこれでもかと見せつけてくる恐怖の演出は顕在だし、どの作品でも縦横無尽に発揮される豆知識は舞台がファンタジーになっても遺憾なく発揮されている。架空の世界の架空の設定にも関わらず、これだけ生き生きと大量に書かれている小説はちょっと他にはお目にかかれない。またこれだけ分厚いにも関わらず展開の巧みさと、文章の読みやすさによって長さを全く感じさせない。それどころか引き込まれて読み始めたら止まらなくなってしまうだろう。この読ませる技術はエンターテイメント界の鬼才と称される貴志祐介独特のものだ。

 本当の傑作はジャンルを超える。それは本書が出た年の各ランキングを見ても明らかだろう。SF大賞を受賞し、SFが読みたい!2008でも一位を獲得、それどころか、このミステリーが凄い! では二位。他にも数多くのジャンルのランキングの上位に名を馳せた。ジャンルを超えた面白さが本書にはあるのである。さて、内容をに追っていこう。わかりやすい内容のまとめかと思いきや、ネタバレ全開である。

 本書の中では時代は明らかにされていない。そんな中で、未来に託して語り手である早希が送る手紙を書くところから本書は始まる。内容は早季の若い頃、波乱万丈の物語である。内容を書き記すにあたってこの物語が自分の一方的解釈であり歪曲されているかもしれない物語であると注意書きがなされる。それは歴史の必然であり、最後まで読み終えたときに奇妙な読後感を残すことになるかもしれない。最初に早季達の子供時代の社会の管理体制がいかに徹底されたものかが書かれている。俗に言う劣性遺伝、落ちこぼれをどんどん排除し周囲の人間からも消していく社会。そこだけ抽出すれば分かる人ならば竹宮惠子の『地球へ…』(テラへ…)を思い出すだろう。地球へ…では超能力を持った者が危険視され、排除されていくが本書ではその逆。つまり超能力が使えることが必須条件なのである。そして彼らには例外なく同胞を攻撃することができない(してしまったら、死ぬ)愧死機構が搭載されていて── とここまで書いたら誰もが行き過ぎた社会へ対する反逆者の物語だと思う事だろう。実際に本書を半分程読むまでは、体制側は恐怖の象徴であり得体の知れないものに管理されている恐怖を常に感じることになる。このあたりはさすがにホラー小説を今まで書いてきた著者の凄いところだ。それと並行してバケネズミの設定や、呪力の説明などがだんだん明らかになっていく。特筆すべき設定として、この世界では恋愛が男女間に限らずに、むしろ妊娠などを極力制御するために同性での恋愛関係を奨励しているというものである。エンターテイメントであるからして、幅広い層に訴えかけなければいけない。ところどころ男同士のまぐわいや、女同士の絡み、それからもちろんちゃんとした男女の恋愛まで幅広く書かれている。

 上巻からどうやってまとめあげるのかとわくわくして下巻に向かってみれば、物語は一気に不穏な空気を増す。それどころか空気が一変する。今まで恐怖の対象だった体制側はいつの間にやら共通の敵と戦う味方になり、絶対にあらがいようのない凶悪な存在が出現し、味方の最強戦力はあえなく打倒され、早季は敵を唯一倒せるであろう必殺の武器を手にするために少数の仲間と共に今では失われた都市、東京に向かう──! いったい何がどうなってしまったのかと思うほどの急展開である。だがこれこそがエンターテイメントと言い切ってしまっていいだろう。多くの人をより楽しくさせるのがエンターテイメントなのだ。そしてより多くの人を楽しませようと思ったら必要になってくるのは王道展開なのである。王道には王道の理由がある。そう、上の展開はまるで国民的人気漫画「ドラゴンボール」や「ドラクエ」シリーズの展開に酷似しているではないか。スクィーラに操られているだけで実はただの子供の悪鬼は、魔人ブウを彷彿とさせるしあらがいようのない敵に対抗するために武器を取りに行く様はドラクエ3のゾーマに対抗するために光の玉を取りに行く主人公のようだ。それどころかこのセリフ

 「好きなだけ、笑うがいい。悪が永遠に栄えることはない! 私は死んでも、いつの日か必ず、私の後を継ぐものが現れるだろう。そのときこそ、お前たちの邪悪な圧政が終わりを告げるときだ!」

 本書のラスボス的存在の法廷での叫びである。うん・・・。いつだって王道は、正しく書かれた時は最高に読者を興奮させるものだ。本書の最後では体制から何から何まで変わっていかなければいけない、という結論が示される。一応体制側の問題もこれで解決しそうだ。いずれにしてもこの作品で貴志祐介という作家に触れ、その非凡なる魅力を感じてほしい。まちがいなく、彼はすぐれた作家なのだから。(「サンド・キングス」安田均の文庫版あとがきを多少参考にしたことをここに記す)

 こっから感想。
 あー疲れた。こんなに疲れるとは思わなかった。気軽に始めたのに…。内容も別に大したことないのに…。最後の方素に戻ってるし。クリムゾンの迷宮と黒い家と新世界よりしか読んでないからよくわからないけれども、クリムゾンの迷宮の悪いところを全て取り除いていい部分を徹底的に伸ばした作品という印象を受けた。よって凄く面白かった。まあでも最後こんな展開になるんだったら前半もうちょっと他にやりようがあったんじゃないの? と今思ったが上巻は上巻で凄く面白かったから何の問題もない。それどころか上巻のあの見えない敵と戦う常時ぴりぴりとした感じが好きだっただけに、下巻で敵がわかりやすく(少なくとも眼に見える恐怖という点で)なったのはショックだったかな。出来れば上巻の雰囲気を維持したまま、体制崩壊へ向けての戦いを書いてほしかったなー。そっちでも充分王道でいけると思うんだけど。難しいのかなやっぱり。そうすると超大作になってしまうし。それから言って正直いって同性の絡みは凄く気持ち悪かったなー。なんか最初っからそういうものがあるっていうことが明かされたうえで、人々の関係性とかも特殊でありそうだな、と雰囲気が出ていればいいんだが、現実の延長としかとらえられなくてあかんかったわ。

 しかしこの新しい世界を作り上げるっていうのは貴志祐介の持ち味を最大限生かしていると思う。正直クリムゾンの迷宮をリメイクしてほしいぐらいだ。クリムゾンの迷宮で致命的に受付なかったのは、あの異常な内容が全部現実の地球で行われているってことだったし。それから毎回出てくるあの意味があるのかないのかよくわからない上にところどころ間違っている無駄な知識の垂れ流しも、新しく世界を一個作り上げることによって全部意味が生まれたのは凄い。世界観を楽しみたい人は一個一個丁寧に全部読めばもっと楽しめる。これからずっと貴志祐介はこの路線でいけばいいと思うのだが、どうなんだろう。SFファンタジー路線でいってくれないかなー。そしたら池上永一並に好きになれるかもしれない。シャングリ・ラからテンペストであの作風を確立させた池上永一だが、貴志祐介はこのあとどうなるのだろうか。眼が離せない。