基本読書

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また墓守か!──神さまのいない日曜日

神さまのいない日曜日 (富士見ファンタジア文庫)

神さまのいない日曜日 (富士見ファンタジア文庫)

 いやあ、面白かったです。最初ちょっと入っていけなくてどうなる事かと思いましたけれども、ちゃんと最後まで読めました。最初の30〜40ぐらいを通り抜ければギアが入ったようにガッと行けるはずです。面白かったのは世界観、あとはキャラクターのセリフのかけあいですかね。漫才のように軽快です。というと言いすぎかもしれないけれども。世界観と物語に関しては、どう考えても愉快にはなりえないような世界なのに愉快だしハッピーエンドになり得そうにないのにちゃんとハッピーエンドになっているところが素晴らしいと思います。

 どんな世界観か? 子供が生まれなくなってしまった世界です。そして、子供が生まれなくなったのと同時に人が死ぬとゾンビーになるようになってしまいました。読むこっちとしては、そういう退廃的、絶望的な世界観が好きです。……といってもこの世界に住んでいる人たちはそうもいっていられないわけであって。たぶん大慌てしたり世界的な恐慌に陥ったりと大変なことになっていると思うのですが、今回書かれるのは狭い村と、その周辺の話なのであまり一般大衆がどうしているのかはわかりません。

 ゾンビーになってしまった人達はちゃんとしたやり方で埋葬しないと復活してしまうのですが、それができるのは、「墓守」と呼ばれる神からつかわされたなんか変な人たちだけです。表紙のかわいい女の子もこの「墓守」です。この子が、この絶望的な世界をなんとかしようと奮闘するのがこのシリーズの基本ストーリーになっていくのだと思います。この一作で綺麗にまとまってしまっているので、この後どうなっていくのかはまったくの未知数なのですが気になるところもまだ残っているので、楽しめそうです。

 そういえばつい最近ハルヒ以来の角川スニーカー大賞として世に送り出された「シュガーダーク」という作品も、主人公は墓守でした。この「神さまのいない日曜日」は富士見ファンタジア大賞ということで、大賞作限定で墓守ブームがきている! とはいいますが、まあ実際問題ただの偶然でしょう。この時代のうねりが、日本の書き手たちに墓守という選択を取らせたのだ! とかいうノリは凄く面白いですけど。ついでだからシュガーダークについても少し書いておくと、ふつーに面白いお話です。でも、特に特筆して面白い部分は無いと思います。少年と少女があって恋をしたりしちゃったりするわけです。なので特に書くことはないんですが、一つ気になったのが登場人物の少なさ。基本的に少年と少女の二人だけの物語です。チョイ役は数人出てきますけれどね。一度でも何かお話を書いたことがある人ならわかると思いますが、登場人物というのは少なければ少ないほど話はまとめやすい。なので、これから先何か新しい作品を書くとして、登場人物を増やした作品がちゃんと書いてまとめられるのかな? というのが勝手に気になりました。

子供が生まれなくなってしまった世界を書いた作品

 ところで、子供が生まれなくなってしまった世界と言うのはSFでは何度か書かれていて、「トゥモロー・ワールド」として映画化された「人類の子供たち」はまさにそんな話ですし、同じテーマではオールディスの「グレイベアド 子供のいない惑星」があるとか。ついったーで教えてもらいました。トゥモロー・ワールドは映画を見た記憶があるのですが、ひどく憂鬱で陰惨でダークな世界観だったと思います。何しろ子供が生まれないという事は、人類は緩慢だけれども確実な死に向かっているというわけであって、憂鬱になるのも当然でしょう。じゃあこの「神さまのいない日曜日」に憂鬱な人間ばかりが出てくるかと言えば、決してそんなことはなく。むしろ愉快な良い人の方が多いです。これはあまり書ききれていないと言った方がいいのかな。ちゃんとした人の集まる街の描写などは一切ないゆえに、世界がどんな状態なのか、わかりません。

 子供が生まれなくなった世界というのは、まあわかりやすい絶望的状況ですよね。その分、希望が書きやすいのかもしれません。この場合わかりやすい希望は「子供が生まれること」ですよね。そういえばこの物語の主人公はその希望そのものである「子供」であり、途中まで相棒だった男は「不死者」であるという対比は凄く面白い。この作品、わりと萌えだとかラノベ的な展開にラッピングされていますけれども、その実色々象徴だとか対比的に書かれていて結構考えるポイントは色々あるのかな? とも思います。まあそんな感じで、希望の少女が、生と死の権利を取り戻すお話です。うわっスケールでかいな。