基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

サはサイエンスのサ

サはサイエンスのサ

サはサイエンスのサ

 いやーこれは面白いですよ。鹿野司さんという方が書いています。普段は科学ライターとして活躍していらっしゃるようで、この「サはサイエンスのサ」はSFマガジン誌上での連載だったようですね。今月号のSFマガジンを何気なく読んでいたら見つけて、面白かったので買ったら大当たりでした。科学ジャーナリストには権威的な、つまりは「科学偉い!」「科学的じゃないのはダメ!」というように科学を使う人がいるそうで。それがイヤだ、と思ったのが本書の出発点だそうです。要するに「科学を権威的にならないようにわかりやすく伝える」とかそんな感じでしょうか、テーマは。その一貫として、文体が非常に崩れています。まるで友だち同士が喫茶店で話すかのような感じ。「なのよねん」とか「なんだよね〜」とかそんなんなのよねん。今から文体を真似して最後まで書くのでそれで雰囲気をつかんでほしいな。

 凄いのはやっぱり、科学の結構難しいことを話しているはずなのに、理系じゃなくてもわかっちゃうっていうところにあるんじゃないかな。その秘訣はさっきも言ったように文体のせいとかもあるんだけど、たとえ話の多さもその要因の一部だと思うわけ。ことあるごとにたとえ話を持ってきて、そのことについて(話題が多岐にわたるんだよね。クローンヒツジからエヴァンゲリオンまで)知っている人からすれば結構クドいんじゃないかな―とも思うんだけど、でも知らない人からしたらかなり親切なの。感動しちゃったのが、「科学ってのはこういうものだ」ってのを説明するたとえ話。それになんと、「鬼太郎」を持ってくるの。ちょっと長くなっちゃうけど引用すると

 科学ってのは、とりあえず、この世界を最も正確に描写できる方法だと思われているよね。でも、そのやり方は、ゲゲゲの鬼太郎の必殺技、「魂かなしばりの術」みたいなものだ。
 この術は、強すぎて鬼太郎も敵わないとか、人間に憑依していて直接攻撃できない妖怪を倒す時に使われた奇計なんだよね。
 どういうものかというと、まず鬼太郎は画家の扮装をして、倒すべき妖怪の家を訪れる。
 で、あなたは強くてかっこよくて素晴らしい、ぜひ肖像画を描かせて下さいと頼むのね。おだてられていい気になった妖怪はそれを許可。鬼太郎は、あなたの好きな色は? とか、好きな食べ物は? とか質問を一つしては紙とか石に点を打ち、点描のように肖像画を描いていく。
 ある数の点を打ち終わったとき(個数は適当みたい)、鬼太郎はその点を素早くつないで絵を完成させる。すると、妖怪の魂は、絵の中に封じ込められ、あとは紙を焼くなり石を井戸の底に投げ込んで終了〜。
 科学ってのは、まさにこんな感じで、世界に対して、実験や観測などの形で質問を投げかけ、一つずつ点を打っていく行為なんだよね。点一つだけでは、世界はほとんどわからないけど、たくさん点を打つうちに、なんとなくそれっぽい絵が浮かび上がってくる。

 長くなっちゃった。でもまあ、こんな風に凄いたとえがいちいち長いんだけど、そこがまた面白いんだよね。

 たとえから離れると、他に面白いところはその視点にあるのだ。「サはサイエンスのサ」なんていうタイトルだから、完全に科学の話しかないのかと言えばそういうわけじゃあない(まあ9割はサイエンスなんだけど)。経済についても語るし、法の話をするし、政治の話もする。その根底にあるのはやっぱり、最初に書いた本書の出発点「科学を権威的にならないようにわかりやすく伝える」にあるんだろうなあと思う。

 科学って、一般人にわからないままになっていると危険なのだよね。政治家とかマスコミが、「これは科学者の〜〜さんのお墨付きです」みたいに利用すると、勉強してないとそれが正しいのか間違っているのかもわからない。その結果、ただ相手の言う事を聞くしかなくなっちゃう。そういう場合に問題をを分かりやすくしてくれる人が必要なんだ。で、それは科学に限った話じゃない。政治家が語る政策はわけわかんないしね。そういう、「よくわかんないから騙されちゃう」人達を、「よくわかって自分で判断できる」人達にしたいっていうのがこの本の一番の主張なんじゃないかな、と思った。スゴイ読み応えがあるから、じっくり読んでほしいな。

 以下目次。この目次はよくできている。ハヤカワオンラインより。

サイエンスはアナタを変える!? インフルエンザ予防の誤認識、日本国憲法の過激な運用法、記憶読み取り装置の可能性など、確かな科学知識と特異な視点から、これまでの思い込みをあっさりくつがえす、知的冒険に満ちた科学エッセイ集。

第1章 カラダを変えるサイエンス
ブラジルから来た少年はクローン羊ドリーの夢を見るか
優生思想のまぼろし
変化と多様性
クローン人間は苦労人かも
トランスジェニックと人類の変貌
免疫抑制剤なしの臓器移植
細胞工学から細胞シート工学へ
生物を合成しよう
地球以外生命体の作成と生物版ロボコン
遺伝子というコトバは死語になった
セントラルドグマ崩壊
風雲急を告げるiPS細胞
iPS細胞の現実
iPS細胞のSF的可能性
インフルエンザと魂かなしばりの術
公衆衛生上のリスクと個人の脅威
予防原則もほどほどが良いんでないの

第2章 ココロを変えるサイエンス
風の谷のナウシカ 人間を疎外しない選択
現代の写し絵 新世紀エヴァンゲリオン
甘やかされた人々
信頼と信用
科学と宗教
科学的精神宗教改革
超越者のありかた
開祖なし宗教と開祖あり宗教
救済装置の変遷
宗教と精神療法
父との最後の日々
やっぱり人間は面白い
意識の謎は解けるのか?
心の盲点を気づかせないシステム
世界を変革する神経学的マイノリティ
社会脳仮説と天才の秘密
心をつなぐ共同注意

第3章 セカイを変えるサイエンス
認知の歪み思考の癖
論理より心理が好きな脳
還元主義は越えずにずらす
文明超生命体論
なぜヨーロッパの科学は世界を席巻したか
装甲としての法、拘束具としての法
一〇〇〇年の無法
法文化の違いとその副作用
パクリイクナイ!!……の?
「2ちゃん」&「ニコ動」の和のモチベーション
日本国憲法を攻撃的に使う
フレーム問題を超える非論理
究極の謎を解くかエログリッド
世界の謎を解きますた
環境という名の知性
宇宙と知性と生命
ヒトだけにある根源的非論理
経済ってホントよくわからない
信じれば願いごとはかなうよ
こっくりさんとデッサン

第4章 ミライを変えるサイエンス
深海は謎に満ちている……月なみ? いやいや
アポロ一個一〇円の時代
奢れるムーアも久しからず
集積技術の増殖期からカンブリア爆発
マルチコア、メニイコア カンブリア爆発の予兆かも〜
はやぶさよ還れ
テレパシー・マシン再考
こころを読む機械
アタマのナカミはどこまで解るか
ドリーム・マシンが実現するかも
地球温暖か?
決まったことを変更するのは難しい
イヤンな感じの倫理観へのすりかえ
予防原則はリアリズムなのか
炭酸ガス削減というミスリード
省エネはエネルギーシェア
新エネルギーはどうですか
炭酸ガスを象徴にしてはダメ
人類が死守すべきもの