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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

世界は美しいと気がついていく──あまんちゅ!

 ああ、これは凄い。世界があまりにも美しいことにびっくりして、読んでいて思わず泣いてしまった。前作ARIAは火星都市「ネオ・ヴェネツィア」を舞台にした美しい物語だったけれど、今回は、SF要素一切なし。田舎の町を舞台にして、それでも世界は美しいし、とても広くて楽しい。前作ARIAと比べて、色んなところが現実に戻ってきた感じがします。それは主人公の一人、「てこ」があまりにも普通の女の子、というところにあるのかも。誰もが経験したことのある不安、葛藤、そういうものがちゃんと「物語」として、おもしろく表現されているところに感動しました。

 お話としては、ダイビング物です。東京から田舎っぽーい島に転校してきた髪の綺麗なお嬢さんから物語は始まります。転校といっても、高校入学からですので条件的にはまわりとあまり変わりません。それでも初めての土地と、知り合いが一人もいない不安はあるでしょう。しかも、それまでの生活が楽しければ楽しかったほど、移動した先での生活は不安になる。あれだけ素晴らしい体験は、もう出来ないんじゃあないかと思ってしまう。でもそんな不安の中、一人のダイバーの女の子「ぴか」と出会う。

ただ日々を過ごす中で、世界は美しいと気がついていく

 てこが凄く普通の女の子で、びっくりしてしまう。普通というのは、大抵物語には色んな複雑な過去を持っていたり、特別な事件に巻き込まれたりするわけですが、そういうものが一切ない。転校の不安なんか誰でも持っているものだし、過去に強烈なトラウマがあるわけでもないし、てこは人づきあいの悩みも「引っ込み思案」っていうことぐらいしかない。「引っ込み思案」は程度の差こそあれ、誰でも持っているものだと思うんですよ。だって、それが無かったら人間じゃないですもん。ノミとかアリと同じですよ。問題は、そこで不安を取っ払ってやれるかどうか。

 二巻で、てこはダイビングが思いのほか難しくてもうやめちゃおうとする。でもぴかは、やらなきゃ何もできないといって止める。いやいや、それはわかっていると。やらなきゃなにもはじまらんことは、言われんでもわかっとるがな。そういえばわたしも昔、ダイビングを経験したことがあるのですが、残念なことに「息抜き」が出来なかった。水には深く潜れば潜るほど気圧が上がり、頭がずきんずきんしてくる。潜るほど空気の圧縮が大きくなって、その分空気を耳から鼻から出さなきゃいけないんですが、それが出来なかった。その時わたしは耳抜きができないからといって、一人ボートの上にあがってボケーっとしていた。

 そんなときに「やればできる」と言われても、やるのが怖いから、何が起こるかわからないからできないんですよ。やればできるといっても、そこには何の保証もないじゃないか。そう思う。でも、一緒にやってくれる人が居るならば、先導してくれる人が居れば、なんとかくっついていけるかもしれない。『あまんちゅ!』ではそうやって不安を突破して、なんでわたしがダイビングをやっていた時には、ぴかみたいな先導役がいなかったんだろうと悲しくなったりもして。もしいたならば、きっととても楽しかっただろうなぁと思うのです。『あまんちゅ!』の中で、てこは誰にでも共通する日常の不安を、一つずつクリアしていく。あまりにも当たり前で、ドラマになんて到底なりえないようなものに注目して、丁寧に丁寧に描いて行く。

 わたしがこの漫画を読んで、圧倒的な感動を覚えるのはわたしたちとなんら変わらない『てこ』が、それでも一生懸命前に進んで、世界は広い、世界は楽しいんだ、ということに気がついていくからだ。わたしはそこに、自分の場合の「こうであったかもしれない未来」を幻視して、何かを実感する。あまりにもそれが眩しすぎると、むしろ現実との落差に腹を立ててしまうかもしれない。ただ、それは確かに作品の中にあって、揺らがない。腹を立てている間も、冷めるのを待っていてくれる。

 街も、海も、人間も、みんなみんな素敵です。

あまんちゅ!(1) (BLADE COMICS)

あまんちゅ!(1) (BLADE COMICS)

あまんちゅ!(2) (BLADE COMICS)

あまんちゅ!(2) (BLADE COMICS)