基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

シャッターアイランドを見てきたらなかなか良かった

あらすじ

 あらすじとしては嵐の孤島ミステリィといったところ。ボストンの春か沖合に浮かぶ孤島であり、精神を患った犯罪者を収容する「シャッターアイランド」が舞台です。当然、嵐ですので外との連絡も取れない。そんな島で、一人の女性が密室状況から脱走する。囚人の脱走、その調査の為にディカプリオ扮するテディ・ダニエルズと新しい相棒のチャックと共に乗り込んで、数々の不思議な体験をすることになるわけです。テディは過去にあった事件のトラウマが何度もフラッシュバックしてきて、それが頻繁になるにつれて現実と妄想の境目がだんだんとつかなくなってくる。

レビュー

 なかなか良かったです。ジャンルとしてはミステリィでもあり、ホラーでもあり、つまり決して派手な映画ではなかったです。がしかし、人間心理の映像的な表現と、俳優の素晴らしい演技で魅せてくれました。始まるときに「謎解きのヒント」や「ラストは誰にも言わないで下さい」なんてテロップが出てきて、身構えてしまったのですが、そのおかげか細かいところも見逃さないぞ、と集中して観ることが出来て良かった。謎解き自体は普通に観ていればわかるようなレベルで、そんなに難しくはなかったです。この作品を「ミステリィ」を前面に押し出して宣伝したのは、ちょっと間違いだったんじゃないかとさえ思いました。

 なぜなら、わたしが最初に「なかなか良かった」なんていう歯切れの悪い言い方をしたのかというと、ハードルが上がりすぎていたことがあるからです。「ラストは誰にも言わないでくれ」なんて、さも驚天動地なオチが待っているかのように言われたものですから、清涼院流水における「コズミック」のようなものを想像していたのです。しかし、肝心の謎の部分が、思ったよりも普通……、でもないし、それがなんなのかはもちろん言いませんが、びっくりはしなかった。そのせいで「もう一回ぐらい大どんでん返しがあるんだろう?」終わる最期の瞬間までわくわくしていたのは失策でした。「え? ここで終わりなの?」とがっかりしてしまった。

 しかし「ミステリィ作品のオチとしてどうか」という評価を外して普通のホラー、サスペンスとしてこの作品を観れば、このラストは素晴らしかったです。オチとしてはほとんど読めていたにも関わらずディカプリオの演技と、表現の巧みさで異常な説得感が生まれていました。あんまりキャラクターに感情移入しないわたしも、「ああ、そりゃ無理だわぁ、そりゃ無理だよう」と観ていて同情してしまった。

 この作品のテーマは「狂ってでも生きるのか、まっとうな人間のまま死ぬか」というところでしょうか。福本伸行の傑作「天」でアカギは、アルツハイマー病に侵されて知り合いの顔も分からなくなっていくぐらいだったら自分で死ぬことを選びましたが、「自分だったらどうだろう?」と考えるとこれがなかなか難しい問題のような気がします。自分から死ぬのを選びとることが出来るのならば、それは苦労はしないのです。わたしだって知人を知人と認識出来ずに、何がなんだかわからなくなって生きていくぐらいだったら死んだ方がいいと思うでしょうが、だからといって実際に死ねるか? といったら難しいんじゃないかと思う。だって、死のうと決意している自分は確かに意識が存在するのだから、それはほとんど自殺と変わらないではないか。福本伸行さんの「天」に出てくるアカギは、アルツハイマー病で何もかも忘れていくか、自分で死ぬかの選択に立ったときに死ぬことを選びとったけれど、それは死ぬほど強い意志があってこそなのだ。わたしは多分うだうだしている間に死ぬチャンスも失ってだらだら生き続けることになると思う。そんな風に、色々考えながら観ていました。たぶん主人公も死ぬほど葛藤していたはず。そう思うと、ラストがすごく切ない。

シャッター・アイランド (ハヤカワ・ミステリ文庫)

シャッター・アイランド (ハヤカワ・ミステリ文庫)