基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

自分の中に家を持て──3月のライオンが素晴らしかった

 『3月のライオン』4巻が素晴らしい、という評価を聞いていたのでいてもたってもいられずに買ってきて読んだら……1巻も2巻も3巻も最高じゃないか!! どの巻も最高すぎて、思わず泣いたり胸が熱くなったりしました。すげぇ! いやでもやっぱり一番さいこうなのは4巻でした。表紙からして一味違います。1~3巻までは白くて、場所も川辺だとか、家といった綺麗な感じだったのですが4巻は打って変わって将棋盤を前にして考えこむ島田八段……。そう、『3月のライオン』は将棋漫画なのです(今さら言うまでもない)。4巻のラストでは、主人公の桐山零の成長、そして島田八段が示した、「将棋で生きるという道の過酷さ」が平行的に語られて、だからこそ感動は二倍なのです。

 簡単にあらすじを説明すると、東京に一人で暮らす17歳の高校生プロ棋士桐山零が主人公。過去に両親と妹が同時に死んでしまうなどのトラウマを経験する。家もなく、家族もなく、コミュニケーション能力もないから友だちもおらず、しかもプロ棋士なので学校にもあまり通っていない。そんな何も持っていない零が、優しい三姉妹との出会いや「将棋」を通して何かを取り戻していくお話です。

 このお話を読んでいる時に、ある哲学者の言葉が頭に浮かんでいました。といってもそれが誰だったとか、詳しいセリフがどうだったとか全然覚えていないんですけど、たしか「自分の中に家を持たないヤツは人間ではない」みたいな感じだったんですよ。「家」が何かっていうと、たぶん「哲学」のことを言っていると思うのです。この場合の哲学は、人生哲学のようないわば「人生の指針」「人生の軸」。「こういう場合、わたしはこの選択をするだろう」とでもいうような選択の基準。それが無いと、あっちへふらふらこっちへふらふら、人の意見に流されて自分の意見なんてどこへやら、周りの状況に合わせるだけの人間になってしまいます。それは人間というよりかは、もはや状況の緩衝材にすぎないでしょう。

 零は、作中ではほとんど誰にも頼ろうとせず、周りの顔色ばかりうかがっていて自分の意見というものがあるようには見えません。「将棋を指す」ということですら、家族が死んだ時に施設に行かずに「生き残る為に必要なこと」として選ばざるを得なかったのだから、当然かもしれません。学校にも行かず、友だちもいない彼にとって唯一のアイデンティティである将棋でさえ、自分で決めたことじゃなかった。でもそれじゃあダメなのです。自分で選び取った、自分自身の意志で選択したことじゃあないと、流されるままに行動をとっているのならば、それは川を流される石ころと同じです。流されるままなど! 人間なのだから、意志を持って方角を変えられるはず。その事を島田八段から零が学んでいく様子が、まったくもって非常に燃える!!

 無傷では決して 辿り着けるわけもない世界
 僕が「勝つ理由が無い」とか
 「なのに負けるとくやしいのはなんでだ」とか言いながら
 目を背けていた世界──その果てを彼は
 独り 両足をふみしめて 往く人なのだ
 僕は 僕はあなたに どうしてもききたい事がある

 これが三巻での零の、島田八段に対しての心情描写です。なぜ島田八段に対して零がこれほど執着するのかといえば、島田八段は零にとって「頭をカチ割ってくれた」人なのです。慢心して、周りがよく見えなくなり、自分のことで精いっぱいになっていた零を、将棋で叩きのめすことによって、周りに注意を向けさせたのです。そして零の根本的な問題、「なぜ指すのか」に対して、島田八段はその答えを持っているように見えます。島田八段には「勝つ理由」も、「負けたら悔しい理由」もあるのです。「勝ちたい」という強烈な執着のみで、将棋を指し続けるその姿から、零もまた「なぜ将棋を指すのか」という問いに立ち返ることになる。「なぜつらい思いをしてまで、先へ進もうとするのか」。その問いを自分に発することを、零は島田八段の死闘から学ぶのです。

 「嵐の向こう」にあるもの
 倒れても 倒れても 
 飛び散った自分の欠片を掻きあつめ
 何度でも立ち上がり進む者の世界
 終わりのない彷徨
 「ならば なぜ!?」 ────その答えは
 決して この横顔に問うてはならない
 ──その答えは あの嵐の中で 自らに問うしかないのだ

 素晴らしい! そうです、理由は「自分で考えなければ」ならないのです。それが「自分の中に家を持つ」ことなのです。自分自身の未来は、自分自身で切り開くものであって、どこか別のところにいる別の誰かから与えられるものではないのです。そのことに気が付いて、長い長い道を今やっと歩き始めた零と、その道を遥か先まで歩いている男の生きざまに、魂が震えた!!!! すごい!

3月のライオン 2 (ジェッツコミックス)

3月のライオン 2 (ジェッツコミックス)

3月のライオン 3 (ジェッツコミックス)

3月のライオン 3 (ジェッツコミックス)

3月のライオン (1) (ジェッツコミックス)

3月のライオン (1) (ジェッツコミックス)

3月のライオン 4 (ジェッツコミックス)

3月のライオン 4 (ジェッツコミックス)