基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

2010年SFセミナー 『日本SF翻訳の楽しみ』簡単なレポ

 本日開催されたSFセミナーの昼の部にお邪魔していました。皆さんは今頃は楽しい合宿中でしょうが、私は普通に帰ってきたので面白かったお話をまとめておきたいと思います。とりあえずこのエントリでは『日本SF翻訳の楽しみ』と題された、アリグザンダー・O・スミス氏と小川隆氏のお話をまとめておきます。スミス氏は翻訳家で、東野圭吾桜坂洋の『スラムオンライン』『All you need is kill京極夏彦宮部みゆき、ゲームだとFFなどなど、一番最近に脱稿したのは伊藤計劃の『ハーモニー』とどちらかといえばSF、ファンタジーよりの翻訳と、ゲームを多くしている方です。アメリカにおける翻訳の状況、日本作品を翻訳する際のエピソードなどを語っていただけました。日本とアメリカの違いが結構ハッキリとしていて、面白かったです。以下は私が面白いと思ったところだけ抜粋しています(発言を省略したり、勝手に作ったりして強引にまとめてしまっています。しかし大意は間違っていないはず)

Qは基本的に聞き手役の小川隆氏が、Aは全てアリグザンダー・O・スミス氏になっています。以下略
Q:アメリカではどういう作品が翻訳されるのでしょう? またどういった基準で翻訳する/される 作品が決められるのでしょうか?

A:売りたい、売れるのが良いという方針なので、まず向こうでは調査する人がいます。その人たちが日本で売れている本を大体20冊程選び、その20冊を多少試訳し、それを出版関係の偉い人たちに読ませます。そこからさらに5冊程選定し、それを年間で翻訳し、販売していきます。依頼は基本的に出版社からきます。

Q:最近はアメリカでも日本のSFの紹介が進んでいるし、アニメや漫画の影響が大きく、翻訳をすることのできる人材が増えてきている。それはどういうような状況があってですかね?

A:アメリカ人は今までは売れればいいという方針だったので、わざわざ他国の本を翻訳するようなことは、興味が無い、面倒くさいしどうでもよいという状況だった。誰も翻訳された本なんて読みたくないだろうという思い込みもあったが、最近は状況が変わってきたのです。アニメと漫画だけで始まった出版社も出てきて、最近は多少儲かってきたので、まあ、SFも出してみればいいんじゃない? というように、寛容になってきた。そうはいっても非常に厳しい状況です。

(この間翻訳上の苦労など。造語をどのように訳すか、うまく訳せる時もあれば、うまく訳せない時もある。しかし基本的には、英語で読んだ時に違和感無く読ませることが出来るかが一番重要)

Q:ハーモニーの翻訳が終わった後はお仕事はどうなっていますか?

A:そのあとはゲームですね。小説であったら三カ月もあればだいたいなんとかなるけれども、ゲームとなると半年〜一年ぐらいはかかることになる。しかし基本的にフリーで仕事をやっているので、タイミングが合えばやります。

Q:翻訳者印税などはどうなっていますか?

A:昔からある出版社ならば、翻訳者印税もあるけれど大半の出版社からはもらうことができないです。

Q:翻訳していて楽しいことは?

A:毎日楽しいといったらちょっとアレになってしまうけれども、スカっとするうまい翻訳を出来た時は楽しいです。また読書が非常に好きなので、翻訳をする時は何度も何度も読むし、色々考えなければいけないので読書のやり方の一つとして楽しんでいる。ゲームに関しては、毎日ゲームやってまーすと思われそうだけれども、仕事になっちゃってあんまり面白くない。たとえば会話などを翻訳していると、「あのイベントのあの条件の時に出てくるあの部分のセリフを翻訳する為に長時間プレイしなくてはいけない」という大変な状況になることがあります。なので最近は全てのシーンを映像で撮って送ってもらえるように交渉しています。趣味でやるならば小説ですね。

Q:ジャンルとしては何が好きですか?

A:ここはSFセミナーですからねw ずるい答えにはなると思いますが、今自分が一番読みたいと思う英語の本は「ジーン・ウルフ」のロングサン……(まだ日本語では出ていないと突っ込まれる)あそうでしたか、あれはSF要素をファンタジーの言葉で表している小説なのですね。とても面白いです。

(この間、翻訳をする時には、出来る限り作家さんとのやり取りをしたいというお話。その方が伝達できる情報が桁違いにあがるので、全体的な質の向上としていい。その場合原作者の方には、編集のような役割をしてもらうことになる。出来るだけ完全なものにしてから、読んでもらい、おかしな部分を一緒に直す。)

Q:読者はどんな人たちが多いのですか?

A:やはりアニメや漫画が好きな人たちが最初に入ってきて、ブログなどでも宣伝されて売れる。そうはいっても今は出版はどこも厳しい。
アメリカで売れる本というのは、長編のファンタジーであるとか、軍事物ですね。桜坂洋さんなどが売れたのも、軍事物の要素が入っていたから売れたのではないかと思います。宮部みゆきさんの「ブレイブ・ストーリー」なんかも、完全に表紙がハリーポッターをパクった感じになっていました。

Q:海外SFと比べて日本のSFの良さはどこでしょうか?

A:SFというのはアイデア勝負のようなところがあるので、日本はそれが、アメリカでは考えられないようなところから出てくるのが新しいと思います。たとえば十二国記における中国的要素であるとか。そうはいっても読者も、なんだかんだいって慣れているものを読みたい、という人が多い。ハリーポッターを読んで、似たようなものを……という理由がキッカケでも、まったく違うんだということに気づいてくれたら嬉しい。

(この間質疑応答。アメリカのアニメファンも日本と同じく純情のようで、とある出版社がライトノベルがあまりにも売れないので表紙をアメリカ的にしようとしたところ、出版社のHPがオタク達の書き込みによって炎上するなどしたそう。スミス氏は2ページ程書き落としてしまった部分があったようで、だいぶ叩かれた。ちなみにブレイブストーリーは編集の段階で、長すぎると判断されて100ページほど勝手に短くされたとか)

Q:ゲームの方が小説よりも翻訳の時間がかかるのはなぜですか?

A:分量です。ファイナルファンタジーなんかはNPCの会話もたくさんあるので総計で二百万文字近くありました。またムービーの場面を翻訳する時は、口パクに合わせるようにして翻訳しないと後で役者の方がやった時に合わなくなってしまうので、そこには時間がかかりました。たとえばFFですと、ムービーの場面は全体の7%程にも関わらず9カ月かかりました。残りの93%は3カ月で済ませたことになります。



 ブレイブストーリーが長すぎるからというだけの理由で100ページも減らされてしまうというのにはちょっとびっくりしました。そりゃたしかにあの小説は長かったような気もしますけれども、結構そういうことってあるんですね。特にアメリカなんかは売れれば何でも良くて売れなければ何も許されないという傾向が日本以上に強いようで、「売れる」作品にする為だったら何でもしてよい思想が随所に日本との違いとなって表れていたように思います。