基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

異常とは何か

異常と一口にいってもその用途は幅広い。状況を表す場合もあれば、人間を表す場合もある。本書では数ある異常の中でも特に、「人間の精神」の異常について「それは実際のところ何なのだろう」に対する答えを探していく。

目次

序章 異常とは何か?/第1章 異常と正常の倒置/第2章 異常と臨床/第3章 正常の過剰態としての異常/第4章 正常と異常のトポロジー/第5章 社会における異常と正常/終章 正常とは何か?

率直な感想

正直な感想としては、良書ではあるものの快作・傑作の類ではないなぁと思った。というのも、「異常とは何か」を問うことによって著者がいったい何を最終的に言いたいのかが見えてこないせいだと思う。

精神における異常とは何かを改めて問い直すことによって、現在のうつ病に対する認識の違いを正したいのか(第3章)はたまたここまでの精神異常の変遷を、歴史的にまとめたいのか(第1章)異常とは「正常な状態から何かが欠けている」状態として広く認識されているが、むしろ「正常な状態を過剰にした結果異常になることもある(潔癖症みたいにね)、そしてそれは何かが欠けている場合に比べて無視されがちである」ということが言いたいのか(第3、4章)わからないのである。

そうはいっても1章1章読みこんでいけば、そこに共通のテーマを見いだすことが難しくても、部分的にはなかなか面白いわけであって、非常にもったいない一冊だった。

何をもって「異常」とするのか

何をもって「異常」とするかは、其の時代時代における「常」の状態からいかにズレているかが基本的には基準になる。その「常」の状態とは、人間集団の中でしか生まれない以上常に「多数派」の側となり、異常とはすなわちいつの時代も少数派の者なのだ。しかし時代によって価値観は変わるせいで、かつては正常だった行いが現代では異常であるということも容易に成り得る。たとえば中世にあっては魔女狩りなどという無根拠な人間狩りが正当化されていたわけであって、この一事を持ってしても「異常とは何か」を問うことの難しさがわかるのではないかと思う。

ここで重要なのは、かつて中世において「魔女狩り」をした人たちが、なぜそんなことをしたのかの理由は魔女達を「異常」だと判断し、正常な社会から追放する為にやったということである。たとえば、現代に生きる私たちから見れば魔女狩りなんていうアホな事をしていた人たちは「異常」な人であろうし、ヒトラーによるユダヤ人虐殺も同様に「異常な行為」だとうつるだろう。しかしだからといって、私達が私達の目から見ての「異常」つまり魔女狩りや、ヒトラーのようなものを「排除」しようとすればそれは魔女狩りを行った人たや、ヒトラーと、結局のところは同じになってしまうのである。。

個人的に今なぜ「異常」を問い直すことが必要なのかといえば、そろそろ「〜〜が異常だ」といってそれを社会から消し去ることが正義だ、というような考え方はやめるべきなのではないかということ。もう「何回繰り返してんだよ、いい加減学習しろよ」という感じである。異常を異常だからといって排除していった先に、幸福な未来など待ってはいない事は過去の例を見れば明らかである。そろそろその事に気が付いてもいいのではないか。その為の、異常を問い直すきっかけとしての一冊と考えればこその良書である。

異常とは何か (講談社現代新書)

異常とは何か (講談社現代新書)