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フィクションだとわかっていても憧れてしまうほど素晴らしい──乙嫁語り2巻感想

フィクションの方が現実よりいいし!

19世紀の草原地帯、シルクロードに生きる遊牧民、そんなところに嫁いで行った、乙嫁の物語の第二巻が発売されました。ちなみに乙嫁とはあとがきによると「若いお嫁さん」「美しいお嫁さん」という意味だとか。相変わらずページをめくるたびに「なんだこりゃぁぁ!(ほんとにページをめくるたびにそう思った)」と叫びたくなるような異常な書き込みの量にびっくりします。絨毯が、服が、馬が刺繍が羊が家が、「現実よりもこまけえんじゃねえか……?」と疑問に思うぐらいに描きこまれているのです。「フィクションは現実を超えた!!」そんな絵を見ていると脳汁が出まくるのですが、どうやら著者もそれは同じようで……。

そういえば時々思うのですが 晴れた昼間にひとりで馬の足やら刺繍やらを描いているとこうふつふつと…ふつふつと………私 今 生きてる!!

こういうのを読むと、やはり世の中には才能というのはあるもんだなぁと思います。どこの世界に晴れた昼間に刺繍をちまちまちまちま描いてそんなに興奮できる人間がいるというのでしょうか。まあ僕は晴れた昼間に刺繍をちまちまと書いた経験がないのでひょっとしたら全人類共通でみんな興奮するのかもしれませんけれども、それにしたって異常……。しかしそういう、どこかしら異常に突出した部分があってこその、この作品の気が狂ったかのような書き込みが実現しているんですよね。

二巻の読みどころ

ちなみに二巻の読みどころですが、色々あります。新キャラクターのパリヤさんは思わずガッツポーズしてしまいそうになるほど可愛いですし、アミルを連れ戻しに来たアミルの親族たちに対して、「ぜってぇに渡さねえ」とばかりに村のみんなが団結し、夫であるカルルクも自分の背丈の倍はあろうかという親父に向かって行く勇猛果敢っぷりに胸が熱くなります。9話のアミルがカルルクを過剰に意識しすぎて照れまくる話ではすっぽんぽんになったアミルさんに胸が熱くなるわ、10話「布支度」では布にまつわるお話が展開され、めくれどもめくれども異常なまでに描きこまれた布、絨毯に圧倒されます

何もかも面白いのですが、ディティールにこった表現のおかげでこの時代の遊牧民の「生き方」みたいなものを知ることが出来るところが好きです。特に、本書で書かれているような「村社会」的なものから、馬や羊に囲まれて、持ち物もそこそこに移動を繰り返すような生活にも、十全に美化された結果であっても憧れを抱きます。いや、なんつーか、「フィクションだとわかっていても憧れてしまうほど素晴らしい」んですよね。嘘だとわかっていても感動してしまう、それは凄いなぁと思いました。

しかし「フィクション」といえども、ここで書かれているような自然と共に生きて、自然と共に死んでいくような生活は現代よりもむしろ幸福なのかもしれません。変わらないかもしれませんし、そもそも比べるような問題じゃあないかもしれませんけどね。たとえば私達は日ごろ座ったり、狭いオフィスの中をちょこまかと動きまわったり、パソコンと向かいあったりしながら一日の大半を過ごすわけですが、体はそう言う風には出来ていない。むしろこの乙嫁語りの二巻の表紙でも描かれているように、自分の食べる物を自分で狩り、自分の着る者を自分で織る、そういう「眼に見える形での成果」がすぐに返ってくる、いってみればゆがみのない生活、そういうのがちゃんと描けているからこそ、素晴らしいと感じるのかもしれないなぁと思いました。

乙嫁語り 1巻 (BEAM COMIX)

乙嫁語り 1巻 (BEAM COMIX)

乙嫁語り 2巻 (ビームコミックス) (BEAM COMIX)

乙嫁語り 2巻 (ビームコミックス) (BEAM COMIX)