基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

見えないアメリカ/渡辺将人

アメリカについてどんなイメージを持っているのかと自問自答してみれば大したイメージは持っていないことに気がつく。ハリウッドであったり、多種多様な人種が集まる場所であったり、経済の中心であり世界の中心であり……。どれも漠然としたイメージで「アメリカ」がなんなのかはよくわからない。

あまりにも多様性がありすぎて、うまく把握することができないようだ。本書の副題は「保守とリベラルのあいだ」となっていて、多種多様でとらえどころのないアメリカを「政治」分野から見てみようという一冊である。

日本では考え付かないことですが、アメリカでは何でもかんでも「保守か? リベラルか?」つまり「共産党民主党か?」という問いにさらされるそうなんですよね。さらには身の回りの物、または土地にも常に「保守か、リベラルか」という問いが付いて回っていて、物の選択すらそんな価値観に左右されてしまう。

たとえばスターバックス好きはリベラルであり、クアーズビール・ピープル好きは保守であるというように。

スターバックスのコーヒーは高く、そんな高いコーヒーをわざわざ買って優雅にニューヨークタイムズなんかを読みながら午後のひと時を過ごす。わざわざこんなおしゃれをする人間には経済的に豊かな人間と、知的さを演出したい人間しかいない。そういうイメージがスターバックス=リベラルという印象につながっている。

対してクアーズビール・ピープルはケバケバしいネオンやアメリカンフットボールのテレビ中継が流れるバーでフライドチキンやチップスをかじりながら飲む場所である。またビールはアメリカでは仕事帰りのブルーカラ労働者と学生の飲み物であるとされている。そのようなことからクアーズビール・ピープルは保守派の飲み物とされる。

これがアメリカでは冗談ではなく真面目に信じられていると著者は言うのだからびっくりである。え? ビールぐらい誰だって飲むのでは? ビールが似合う知的生産にまったく関わっていないようなムキムキ男でもたまにはスターバックスに行くこともあるのでは? 

そういう当たり前のことを追求していくのが本書であり、保守とリベラルとは厳密に区分されるわけではないことを現地で得た知識(著者はヒラリー・クリントンの上院議員選挙でアジア系アメリカ人を対象にした集票活動を担当していた)と分析によって書きだしている。

ひとつのアメリカ像としてとってもおもしろかった。

見えないアメリカ (講談社現代新書)

見えないアメリカ (講談社現代新書)