基本読書

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もしリアルパンクロッカーが仏門に入ったら

もしリアルパンクロッカーが仏門に入ったら

もしリアルパンクロッカーが仏門に入ったら

この表紙を見れば、この本がいったいどういう本なのか少しでも伝わるかと思いますけれども、僕はこれだけイカした(イカれた)表紙を見るのは久しぶりで、中身も同様イカして(れて)いるのかと思いきやそうではなく、非常にわかりやすい、仏教の入門書になっています。

著:架神恭介。近著のよいこの君主論、完全教祖マニュアルとどちらも非常に面白かったのですが、これもまたわかりやすくて面白い。そしてひどい。公式サイトも存在して、こちらを読めばより雰囲気が掴めるかと!→「もしリアルパンクロッカーが仏門に入ったら」公式サイト

全六章で構成されていて、各章の始めにリアルパンクロッカーであるまなぶが、各地の有名な坊主どもと殴り合いの死闘を演じながら仏教のなんたるかを会得し、後はちゃんとした仏教の小難しい理論の解説が書かれています。目次を一番したに引用しておきます。

パンクロッカーについても説明しておきましょう。

著者の架神恭介氏もパンクロッカーであり、パンクロッカーについて知らずにいても本書においては関係が無いと言うか作中でされる説明で十分に理解できるのですが、要するにパンクとは音楽だけに限定されたものではなく、「生き方」そのものであるそうです。

具体的には、世の中のルール全てにツバを吐きかけるような反社会的姿勢こそが、パンクロッカーたる証なのです。社会のルールを一ミリでも護るようなやつは、「ファッションパンク」といってバカにされます。本書の主人公であるまなぶも、最初にこう紹介されます。

 パンクロッカーまなぶはシド・ヴィシャスの生まれ変わりとさえ囁かれる程のリアルパンクロッカーであり、スタジオ練習には必ず六時間以上遅刻し、水の代わりに酒を飲み、一日三回ゲロを吐き、衣類は血と吐瀉物にまみれています。反骨精神も旺盛で何者にも媚びず、もちろんベースは一切弾けません。
 そんなまなぶですから、ライブパフォーマンスも実にパンクなものでした。彼はまず刃物で己の胸を傷つけて「Fack」と刻むと、酒を一息に煽り、プレシジョンベースを高々と振りかぶりました。なぜかって? もちろん観客目掛けて殴りかかるためです。パンクバンドのベースは客とケンカするのが主な仕事なのです。*1

パンクについてはこれで十分でしょう。問題は仏教についてです。上野ような文章を読んだら、これがまともに仏教について書いた本だとはどうしても信じられないかもしれませんけれども、しかしこれが解説パートは非常にしっかりとした作りになっているので驚きです。

一章では、仏教とは「どうやって生きていけばいいか?」という問題に対し、「何らかの答えを得ようとするもの」*2という前提の解説が最初になされ、釈尊仏陀)がどのような思想にどのような道のりで辿り着いたのかが説明されます。

釈尊がやった事は、1.この世はクソである。2.クソな世界でどうやって愉しく生きていくのか。という問いを立てて、それに対して答えを生みだしたのです。だから現代に至るまでにスゴイスゴイと言われているのですね。

この世がクソな理由は、自分の思い通りにならないからだといいます。おいしいものが食べられない、女の子とデートできない、朝起きれない、「思うようにならない」事が原因なのです。なので釈尊は、「〜〜したい」と思う事こそが最悪なのであって、「〜〜したい」と思わなければハッピーだと言います。

だからこそ、釈尊が説いているのは「何もかもどうでもいい」と思うことなのだそうです。「女も金も仕事も生きることも全部どうでもいい」と思っていれば、この世で起こるありとあらゆることに対して「いやだ」という気持ちが無くなってハッピーになります。

ここまででほんのさわり程度ですけれども、こうやって解説していくわけです。ウリがあるとすれば「面白く、わかりやすく、学べる」という点で、非常に現実的というか、わかりずらい概念を「要するにこういうことだろ? クソッタレー!!」とサクサクと紹介していくので、一瞬でわかった気になれるのが良い点です。たとえば

仏教的な「悟り」体験を本書では「全体ドカーン(自分と外の世界の個別の物(他者とか机とかリンゴとか)との区別が無くなって、世界と自分とが混じり合って一度に自分に襲いかかってくる感覚、つまり悟りのこと)」と言いかえるなど、わかりやすく、面白く伝える為の工夫が随所に凝らされています。

あと仏教の修行とは基本的に「煩悩」を消していく物だと言う事もできるかと思うのですけれども、パンクロッカーという無軌道・無秩序・煩悩の極みのような存在を学習者として置くのは非常に面白いと言うか、わかりやすいと思いました。

まあ当然、いくらわかりやすいとはいっても、それは盛大に説明をはしょったからわかりやすいのであって、これで仏教を理解した気になっては少々早漏というものでしょう。また、本来仏教を学ぶ上で欠かせない修行もしていないのだから言わずもがなです。

しかし、本書は「それでもいい」と言います。「今の俺たちには、そうするっきゃねーじゃねーか、今更輪廻転生とか、言葉を唱えるだけで極楽浄土にいけるとか、ありえねーし修行する気になんねーぜ!」と。「おもしろけりゃあどうだっていいぜえ!」というその思想は、むしろ本来の仏教だよなあと思って読み終えました。

目次

プロローグ パンクロッカー仏門に入る 6

第一章 パンクロッカー vs 釈尊 11
苦と悟り/四門出遊/降魔成道/三昧体験/十二支縁起
梵天勧請/初転法輪/無常と五蘊非我/在家への説法/般涅槃

第二章 パンクロッカー vs 龍樹 43
根本分裂/大乗仏教/ジャータカ/『中論』
戯論寂滅/誓願とミラクルパワー

第三章 パンクロッカー vs 玄奘三蔵 75
中国からの伝来/仏の呪い/仏教と十七条の憲法
奈良時代の仏教信仰/唯識/華厳思想とエコロジー

第四章 パンクロッカー vs 最澄 103
最澄空海両界曼荼羅/大乗戒壇/久遠の本仏
諸法実相/五時八教/秘密の教え/即身成仏と六大無碍

第五章 パンクロッカー vs 法然 vs 日蓮 133
鎌倉新仏教/『往生要集』/専修念仏
一念義と多念義/『立正安国論』/南無妙法蓮華経

第六章 パンクロッカー vs 禅僧 163
修証一等/黙照禅と看話禅/公案/悟後の修行

【コラム】
釈尊の悟りについて/縁起と全体ドカーン/仏教、辛気臭え!
南都六宗テキトー解説/悪人正機/鎌倉新仏教とリアリティ
仏教で遊ぼう ~ファッション仏教~

エピローグ 182

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