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未来型サバイバル音楽論―USTREAM、twitterは何を変えたのか

最近の音楽業界論。音楽業界はどうやってこの先生きのこるのか、ということを主題にした対談集。新書で対談=短い時間の中で適当に文字数を喋る口調で稼いだだけで内容もまとまっていないクソ本という例が多い最近ですけど、一年以上にわたって複数回に分けて行われた授業の内容をまとめたものなので、内容はなかなか濃かったですね。間に五章中二章は対談ではなく書き起こしている点もグッドです。

目次

第1章 いま、音楽業界に何が起こっているのか(1.音楽はゼロ年代からテン年代へ ミュージシャンが直販できる時代/Twitter×USTREAMの伝播力/iPadの本当の衝撃とは何か/世の中がざわざわしている 2.普遍的なもの、そして未来型レーベル 無知と壊すのは違う/自分の音楽をドーピングさせる──初音ミクの事例から/直販できる時代こその「ニューミドルマン」/未来型レーベルを立ち上げよう!)

第2章 過去のレーベル、未来のレーベル(1.レーベルとは何か 信頼の証としてのラベル=レーベル/フランスの小さな音楽出版社/サラヴァという理想/村作りのレーベル作り 2.最初のレーベル・ブーム 会員制のレコード会社──URC/インディーズとメジャーの間で──ベルウッドレコード/映画・アニメにも進出──キティレコード/制作宣伝に特化したレーベル──アルファレコード 3.「渋谷系」というムーヴメント シティ・ミュージックとしての系譜/「渋谷系」の時代──TRATTORIA/アンチ「渋谷系」という立ち位置──WITS 4.散開、そして再生 若きミュージシャンの登竜門──NON-STANDARD/MONAD/理想的に思えたMIDIレコード/"think global.act local"──commmons 5.もう一度レーベル作りから 物語はらせん状に)

第3章 コミュニケーション・マネタイズ(1.大量複製時代のビジネスの崩壊 インターネットは「敵」の音楽業界/二〇世紀ビジネスのかたち 2.“音楽ビジネス”、その周りにあるもの 音源だけではない/360度契約の功罪 3.ライブハウス・フェスの盛況 CDは買わないがライブは行く若者/悪名高き「ノルマ制」/「場」を創るということ 4.テン年代アーティストの生き方 コミュニケーションを売る)

第4章 未来型音楽のバックグラウンド(1.音楽の楽しみ方の変遷 贅沢品から誰もが楽しめるものへ/レンタルビジネスをめぐる攻防/CDの栄枯盛衰/音楽とパッケージの分離/音楽界になくてはならない「エコシステム」──iPod/音楽と結びつきの強いSNS──MySpace/「作り手」と「受け手」がつながるフラットな場 2.ネット時代の音楽著作権 音楽著作権はなぜ生まれたか?/日本の著作権管理の実態/原盤権とは何か──着メロと着うたの事例から/敵から見方に変わったYouTube/新時代の著作権・原盤権との付き合い方/DOMMUNEの投げかけたもの 3.音楽新時代の寵児たち 直販の先駆者的存在──まつきあゆみ/音楽業界とボーカロイドを接続──小林オニキス/新しいプロデューサー像を模索──島野聡/ユーストリームで公開レコーディング──向谷実/アーティストが自立できる環境を──七尾旅人)

第5章 それでも人は音を楽しむ(1.どうしてCDが売れなくなったのか?
 レンタルビジネスがもたらしたもの/カラオケ文化を肯定して生まれた音楽/CDに対する惜別の思い 2.「形のある」音楽に生き残る道はあるのか アルバムの可能性/もしもセールス・プロモーションをまかされたら 3.これからフェスは増える一方なのか? 二〇一〇年、フェス・ブームのピーク/音楽がつながる場としてのフェス/フェスの成熟を迎えて 4・新しい「文化」の生まれる兆しはあるか)

音楽が売れなくなっているのは誰の目にも明らかな周知の事実ですが、さてそんな状況でどうするのか。本書の第一章で述べているのは、これから先Twitterユーストリームの台頭、要するにインターネットの力によってミュージシャンが直接ファンとやり取りできる時代がきている。これからは音楽業界を抜きにして、両者間のやり取りですべてが完結するのか? というお話です。

といってもそうはならない、なぜなら営業からプロデュースまで含めた全てを一人でこなすのは難しい話であって、これまでのいわゆるCDに音楽をラッピングし、録音を行い、CMやなんやかやと強力な営業の後押しをする音楽業界は消えてしまうとしてもその代わりとして「ニューミドルマン」今までとは違った役割を持つ、プロデューサー的存在が必要だ、という結論になっています。

個人的にこれは音楽業界のみならず、他の業界にも敷衍可能なお話だと思いますね。たとえば電子書籍周りの推移なんかも、出版社というものが消えて個々の作家に幾人かの編集者のような役割の人がついてチームを組む、そのような少人数制で小回りの利くやり方がやはり主流になっていくんじゃないかなあと。

読んでいて特に面白かったのは今書いたようなところです。あとは音楽著作権から音楽の変遷、音楽ビジネスが「ライブ」もしくは音楽を売るだけじゃなく、グッズ販売を行ったり、ユーストリームで公開レコーディングを行ったりと言う変化を起こしている実例、などなど結構読み応えがあります。

おおっとそうだな、著作権の話も結構興味深い。音楽の著作権というとJASRACが有名ですけれども、あえてこの著作権管理団体を使わずに、二次創作を制限しないという選択も出てきているそうです。ニコニコ動画で有名になったスーパーセルなんかが有名ですね。

最近書籍の分野でも割と活発なこのフリーの概念を音楽業界もうまく使って行かなければならない──、他の業界にも応用できそうな話です。電子書籍なんかも、全てがまったくこの通りになるわけではないとはいえ多かれ少なかれ音楽業界の流れを踏襲することになるだろうと思うので、未来予想図として業界の話は楽しく読めました。