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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

入門経済思想史 世俗の思想家たち

驚くほど面白い。絶賛を贈る。これは単なる経済書ではない。ちくま学芸文庫から出ているし、お硬い本なのかなと緊張しながら読みだしたが、筆致は読みやすく好奇心を煽り、文章が面白い。難解な用語が説明もあまりないままに頻出しがちになる経済書たちと違って、本書はその目線が低い。僕は本書を読んで大抵のフィクションよりも余程ドキドキワクワクしたし、驚いたし、まあ泣きはしなかったけど、大変楽しい思いをした。

簡単に本書の内容を説明してしまうと、「世俗の思想家たち」とあるように過去「経済学者」という存在が産まれてから今に至るまでの、「経済思想の発展史」におけるキーパーソンについて語るのが本書の幹である。これらキーパーソンはアダム・スミスマルサスリカード、それにマルクスと超有名所が並ぶ。彼等には偉大な経済学者である他にも、共通点がある。その共通点こそが本書のメインテーマになっている。

本書は、世に名を知られる視覚をもった一握りの人物のことを書いたものだが、小中学校の歴史の教科書の基準のどれをとっても、彼らは取るに足らない人たちである。彼らは軍隊を指揮したわけではなく、兵士たちを死地に送り込んだわけでもないし、帝国を支配したわけでも、歴史をつくるような意思決定に参画したわけでもない。彼らのうちの何人かは名声を得たが、国民的な英雄となった人は一人もいない。また、何人かの人は激しく罵られはしたが、国賊とまで言われた人は居ない。だが、輝かしい栄誉に浴した政治家の多くの行為よりも、彼らの行ったことのほうが歴史上ずっと決定的だったし、前線の軍隊を右往左往させるよりもずっと大きな動揺を世の中に与え、さらに国王や立法機関の勅令・布告よりも、よかれあしかれ影響力をもった。それは、彼らが人々の考え方を育み、かつ左右したからである。*1

「経済」は昔からあったがしかし「経済学者」が生まれたのは人類史からみれば数百年前、ごくごく最近のことだ。それはなぜだろうか? それ以前にはなぜ「経済学者」はいなかったのだろうか? という問いかけから本書は始まる。なぜだろう? 僕達の世界はひどく危うい基盤の上に成り立っていて、たとえばもし農家を誰もやりたがらず、作物がなくなったら。あるいは必要なだけの食料を作ることができなかったら。人が必要な場所に人がいなかったら。

人間社会は複雑になりすぎていて、必要な職業などが欠けたらその時点で大きな混乱にみまわれるだろう。それは人間が常に同じ行動を取るわけではなく、予測不能な存在だからである。何世紀もかかって人間はこのような災に対する対処法を3つ見つけ出した。1.親から子へ、必要な仕事を完全に受け継ぐ。世襲制。2.王様が強制的に国民を統制して必要な仕事につかせる。

何世紀もの間人類は上記の2つのやり方で社会をまわしてきた。必要な人間を、適切に配置することによって物事を回してきたのである。この時の社会は習慣や命令によって動いていた。そこにはあまりにも明確なルールがあって、経済学者などは必要とされなかった。誰でも理解できたからだ。3番目の方法が出てきて初めて経済学者が生まれるのである。

3番目の法則はご存知のとおり「市場システム」である。各人に思い思いのことをさせても、それが中央の意図から外れたものでなければ社会はその存続を保てるという法則が発見された。ルールはシンプルで、各人は金銭的にみて自分に最も有利だと思われることを各々判断して実行すれば良い。それだけで社会に必要な仕事が行き渡り、他のどんな方法よりもうまく配分される革命的な法則だった。

しかしこの法則が確かに今までの他のどんな方法よりも調子良くすべてを回せたからといって、今後とも万事うまくいくかどうかなど誰にもわからなかった。ようするにこのシステムが画期的ですごいことはわかっても、今までのシンプルなシステムと比べて、市場システムがどのようなものなのか誰も理解できなかったのである。これを解き明かそうとしたのが経済学者であった。

市場システムが生まれたといっても今ほど理解されていない時代であるのでそれは泥仕合のようだった。利益を追求するのは悪だという考え方、貧困が国家には必要だという考え方。必要ないという考え方。何もかも無秩序に語られていた。そこにひとりの哲学者が現れる。アダム・スミスである。彼の発表した国富論が、無秩序から秩序を産み出して、経済にひとつの流れを与えた。

国富論以降、人々は自分の仕事が経済にとってどのような影響を与えているのか、社会を作っているのかを知った。そして市場システムがどこへ向かっているのかを知ることが出来ることを知った。本書のメインテーマとはまさにここである。経済のヴィジョンを語ること。資本主義の構造はどうなっているのか。それにより経済は今後どうなっていくのか。どうすれば動機づけを広げ、柔軟性を増し、社会的にうまくいくのだろうか。

本書には悲観的な未来を提示した人間もいれば楽観的で希望にあふれた未来を提示した人間もいるけれどみな一様に経済のヴィジョンを語った。それらは現代からみると間違っているものも多いし、当たっていることも多いがとにもかくにもヴィジョンを語ることにより経済への理解を増してきた。僕はもう、新しい経済学者が紹介されるたびに世界が革命される興奮を覚えた。興味が出来たら是非読んでもらいたい。

入門経済思想史 世俗の思想家たち (ちくま学芸文庫)

入門経済思想史 世俗の思想家たち (ちくま学芸文庫)

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