基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

ぼくらのよあけ

すごすぎる。傑作だ。不時着した地球外生命体と、小学生たちがコンタクトをとり、秘密を持ち、宇宙に返してやる。最も簡単なあらすじはこのように一行で表現できるものであるし、これだけ聞けばありふれた筋であると言える。しかし、筋の新規さ=話の面白さではない。2038年という未来の、あくまでも日常のテクノロジーを丹念に書き、異性体の目的、それは作品のテーマにもつながってくる、これを我々の日常生活の問題と同時並行で語る構成が見事だ。

2038年なので進歩したテクノロジーが日常化している。だれもが空中に投影できるホログラムで通信を行い、人工知能が発達しオートボットと呼ばれる人のお手伝いロボットがそこら辺にいる。まだすべての家庭に行き渡っている状況ではないようだが、遠からずそうなりそうな予感。このオートボットに搭載されている人工知能との対話も、物語のテーマのひとつだ。

あとSF漫画でガジェットをここまで魅力的に描いているのがすごい。オートボットが飛び回って日常的に挨拶している場面がよいし、ホログラムを実際に使っているところがだらっとしていていかす。日常に使いこなされているSFガジェットって、良いよね。電脳コイルとかさ。小説とは違った良さがある。あと衛星がかっこいい。

僕は思うのだが、話の筋っていうのはありきたりでも全然問題ないんだな。飛先生の傑作『グラン・ヴァカンス』だって、話の筋的には仮想世界リゾートの話で、別に新しい発想があるわけではない(細かい部分で誰もやっていないことをいっぱいやっているとは思うけど)。それよりかはその中身、骨格にどう肉付けし、演出を加えるか。本書は(というか著者なのか)それが抜群にうまい。

あらすじ(Amazonより)

人類が地球から宇宙を見上げている、それぐらいの未来。宇宙大好き小学生、沢渡ゆうまは、謎にみちたモノと出会う。人工知能を搭載した家庭用オートボット・ナナコの体を乗っ取るように出現したそいつは、2010年に地球に降下したとき大気圏突入時のトラブルで故障し、団地に擬態して休眠していた人工知能なのだという。「私が宇宙に帰るのを手伝ってもらえないだろうか?」団地経由の宇宙行き、極秘ミッションが始まった!

物語の本当の始まりを2010年としたことで、時間的にも奥行きが生まれる。書いてしまえば本書のテーマのひとつとは「生命の本質とは変化すること」である。2010年に初めて宇宙船が地球に降り立ち、関わりを持った少年少女だった子供たちは、2038年には子どももいる立派な大人だ。この漫画の主人公は2038年の子供たち。かつての自分たちと同じぐらいの年の息子たちが、かつての自分たちが進められなかったミッションを、先へと進めていく。

子どものころから変化し、純粋な凄いことへのあこがれだけではいられなくなった大人は、エネルギーに満ちあふれて先へ進んでいく子供たちを、ただ見ていることしか出来ないのか? 当然そんなことはない。変化を恐れ、昔に固執するつまらない大人はいる。でも大人になるっていうのは変化することだ。否定したって仕方がない。それを受け入れられる人達はすごく魅力的だ。

なぜなら大人は子供の時より、できることは増える。お金も自由に使えるし、大人が何をやろうが危ないからとかいってケチをつける人はいない。責任をとるとはどういうことかといったことを、身を持ってしっていくこともできる。それはある種の自由を制限することもあるが、でも責任をとっても前にすすめるんだという意志があればそれは自由を推進する武器になる。本書に書かれている大人は、みんなかっこよかった。

僕は子どもの時は自分の感情が制御できなくて、勝負事に負けたりすると物を投げて相手にぶつけようとするような人間だったけど、今はより目的を達成するように、計画的に感情を制御できるようになった。大人になるってことは、僕はずっと思っているのだが、子どもの時より自由になる。すごく楽しいことなんだ。僕は小学生の時よりも中学生の時よりも高校生の時よりも大学生の時よりも今が楽しいんだ。

本書は、抜群に構成がうまい。二巻という構成で、まるで密度のこい映画を一本見たような気分になる。一冊読み終えた時にはもう止まらずに、一話ごとにこの世界の技術状況の解説が入るのだが、それを読む時間すら惜しく、この物語の行く末が気になってページをめくっていた。様々な状況、人間の関係、素直に感情を吐露できないジレンマ、そういった一つ一つの物事が物語のラストと、作品のテーマに収斂していくのが、見事だ。

たとえば、本書では地球外生命体との交流、宇宙へ返すといったミッションの他に、イジメの問題も描かれる。いっけん地球外生命体との交流とは関係ない問題のようにみえるが、実は同じ根っこがある。言葉にしてしまえば簡単で、生命とは変化をするものであり、変化をするとは未知を知ることであり、他人を受け入れることだ。イジメの問題と並べて語られるのはこうした変化をすることの困難さ、他人を受け入れることの難しさである。物語と合わさるとこれが爽快だ。

絵について。僕はよくわからないのだが、構図は最高。どの場面も印象的な演出だ。このあたり、もっとちゃんと言葉を尽くして語りたい。語りたいんだけど、どういったらいいのかわからないんだよね。季節を意識させる蝉の声が常にコマ内に入り込んでいることの意味とかさ。感覚だけで語るのだけど、小学生と夏って、なんか良いよね。それと水が重要な物語なんだけど、この話、冬だったらお寒い話になっちゃう(水、冷たいからさあ)。夏、彗星、宇宙。最高だよ。

好きな作品ほど客観的に見れなくなって、結局自分以外の誰も何を言っているのかよくわからないひどい文章になってしまうものだ。そうなっていてもいいから言いたいのは、僕はこの作品が凄く好きだ。他の人も読んだら喜んでくれると思う。オススメです。あとちなみに余談ですけど、一人星雲賞という企画を始めます。これはその一冊目です。以上。

ぼくらのよあけ(1) (アフタヌーンKC)

ぼくらのよあけ(1) (アフタヌーンKC)

ぼくらのよあけ(2) (アフタヌーンKC)

ぼくらのよあけ(2) (アフタヌーンKC)