基本読書

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この世で一番おもしろいマクロ経済学――みんながもっと豊かになれるかもしれない16講

僕は大学では経済学を専攻していて、当然必修としてマクロ経済学もあった。僕は何か志があって経済学を勉強していたわけではないということもあったけれど、マクロ経済学の授業は意味がわからなかったしかなりつまらなかったのを覚えている。ビルトインスタビライザーを必殺技みたいだなあと思ったり、古典派とかケインズ派とか言われてもどっちがどっちだかさっぱり意味がわからねえ、と思ったりしていた。

まあ当然、主体的に学んでいるわけではなかったということなんだろう。主体的に自分から興味を盛って学ばない人間が学べることなんてない。隠れて別の本ばっかり読んでたし、それは今でも自分を形作っているから後悔しているわけではないのだが、あの不抜けた大学生だった時にこの本を読めていたら、もっと楽に色々な単位をとれていたのかもしれないなとふと思う。

タイトルの通り本書はこの世で一番おもしろいマクロ経済学の解説書だと思う。中身は全部漫画で書かれていて、説明をする文章はごくわずかだ。アニメ輪るピングドラムで、常に起こっている展開と並行して後ろでペンギンがそれを真似した小芝居をやって緊張する話を適度に弛緩させていたように、この本も難しい話題を後ろの漫画がコミカルに描写していてこのバランスが気持ち良い。

マクロ経済とは国全体の経済に関わる問題について考えることだ。本書ではマクロ経済学が目指すべき目標として大きく二つあげている。①長期的な生活水準を高めること。②短期的に起こる経済崩壊を説明すること。

世界の経済は、本書の比喩をパクれば、古典派経済学の考え方でいえば世界の経済は長期的にみて時計が安定して動くようにだんだんよくなっていて、円満な家庭なようだ。対してケインズ派の見方で言うと短期的にみれば経済は好況不況大恐慌を繰り返し、子どもは親に反抗し親もやさぐれ、崩壊している家族のようである。

難しかったのはどこだったんだろう。たぶん古典派とケインズ派で、9割は同じ事を言っているのに残り1割で違うことを言っているんだということがわからなかったのだと思う。まず市場にまかせて規制しすぎないように、かといって規制をまったくしないでもなくやっていれば長期的にはすべてが良い方向へと動いていることに関しては基本的に両者合意している。

意見が異なってくるのは幾度も起こる不況、大不況、恐慌のたぐいでケインズ派はこれを自由市場経済理論だけではうまくいかない事象だとして、なんとかして解決方法や原因を解明しようとする。一方は円満家庭であり、一方は崩壊家庭であり、一方は政府の介入は経済にとってよい親なのだといい、一方は政府は悪い親だからなるべく手出しさせるなという。このような意見の違いはある時はまとまり、ある時は対立しながら前に進んでいるようだ。

明らかに思うのは「どちらの意見も正しい部分があって、極端になってはいけない」ということだろう。政府がなくっちゃ成り立たないし、規制がありすぎてもだめなのだ。また「過去からマクロ経済は学びつつある」ことも確かなことの一つだろう。大恐慌を経て、やってはいけないこと(やると大恐慌へと結びつくと思われること)が明らかになってきた。プラス、「こういう時はこうするんだ」という基本的な処方箋も。

本書は経済を持続的に成長させ、短期的な暴落を防ぐという大きな柱を主軸にして、話は段階をおって大きくなっていく構成になっている。第一部ではマクロ経済学の全体図を、第二部では貿易を、第三部では環境や貧困といったグローバルな問題を。都度「過去の経験から恐らく正しいと思うこと」と「いろんな意見があってよくわかっていないこと」が明らかにされていく。とても誠実な態度だ。

気楽に読めるが、マクロ経済学の主軸が学べる一冊。

この世で一番おもしろいマクロ経済学――みんながもっと豊かになれるかもしれない16講

この世で一番おもしろいマクロ経済学――みんながもっと豊かになれるかもしれない16講