基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

独立国家のつくり方

※先にネタバラシしてしまうと、『独立国家をどうやって作るのか』とか『国家を実際に作るとしたらどういう風になるのか』という実践的な本ではない(あるいみ実践的だが)。本書でいう独立国家とは基本的には精神的な意味(誰にも影響されない自分だけの思考的な)での言葉であり、実際的な意味での国家ではない。後者の意味での独立国家のつくり方を期待すると肩透かしを食らうであろう。

『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』という本を出されていた坂口恭平さんの最新作。ゼロから始める都市型狩猟採集生活 は、けっこう良かった。ようするに、都市を違った目でみよう、っていうことを言っているのです。具体的にはホームレスの視点ですね。ホームレスは独自のマッピングを持っていて、あの店は廃棄を持って行っていいとか、あの店は飲み残しの酒が置いてあるとか、炊き出しがこの場所で行われるとか、ここが寝やすいとか。

普段新宿とかで働いているサラリーマンでは絶対にもてない視点で、都市をみてみよう。そしたら意外と、「一円もお金を払わなくたって、都市の恵みだけで生きていける」んだってことがわかる、良書でした。読んだ当時は「かっちょよくホームレスを満喫している例だけを大げさに取り上げて、ホームレスの実態をまったく反映していないじゃないか」と疑問だったんですけど、目的は「視点を変えるんだ、それこそが重要なんだ」ってことだったからホームレスの実態なんてどうでもいいことだったんだなと本書を読んでいて思い返しました。

本書もその本質的なメッセージは変わっておらず、「世界を拡げるんだ」ってことです。「視点を変えるんだ」ってさっき書きましたけど、ようは従来の表に見える都市、国家とは別に、そこにプラスするような形で別スキーマがいくつも重なっているようなイメージです。従来の都市もあり、違った視点でみたホームレスとしての都市もある。

本書は大きくわけると3つの話が混在していて、まとまりがない。ひとつめが今書いたいくつかのスキーマが重なった空間としての見方の話。ふたつめが態度経済の話。みっつめが坂口恭平さんが今までどうやってこの態度経済を実践してきたのかという、まあ要するに自伝というか自分語りだ。

態度経済社会の話は言っていることの意味がほとんどわからなく、抽象的すぎてただの人生観語りのようだ。残念と言いたいところだが経済とか書いてあるから期待してしまうだけで(中身もほとんど評価経済社会のようなものなのかな??)人生観の表明であるとするならば特に気にならない。簡単に説明されるところによると、社会を少しでもよくしようという人を飢え死にさせちゃまずいと考えて相互扶助を行うということらしい。

ただのボランティアじゃんと思うがよくわからない。ようするに歌が歌える人は歌を、陽気な人は陽気さを、ダンスが上手い人はダンスを、誰かにみせて、お金をもらったり、助けあって生きていけばいいじゃんって感じらしい。気が狂っていると思うが、本人もそう見えることは自覚しているようなので安心した。自伝部分は意味不明さこそないものの、もっとどうでもよかった。

態度経済は意味分かんないし自伝は意味わかるけど興味が無いのにわざわざ本書を紹介するのは、気が狂っていてもやっていることがとても面白いからだ。たとえば本書で紹介されるホームレスは、自分自身の寝るスペースしかないダンボールハウスを持っていてかわいそうな気もするが、「都市全体が自分の居間」だと考えればそれだけ広大な家もない。ダンボールハウスはただの寝室なのだ。

または別の例として「家」を捉え直した思考が素晴らしい。たとえばダンボールでなくても、もっとちゃんとした木材などを使って駐車場に収めることが出来るぐらいの大きさの家を作る。しかしそこに車輪をつける。するとどうなるのか。土地と定着していない動く家は、日本の建築基準法では家ではないと定義されている。

免許がなくても建てられ、固定資産税もかからない。土地代も駐車場代だけでいい。しかも地震があって原発被害があっても、たやすく逃げられる。総工費は数万円から数十万円で、維持費は駐車場代だけだ。こういう話を聞いていると確かに高い土地代を払ってせこせこ家を作るのはつらいなと思えてくる。土地も家も買うとそこに縛り付けられてしまうからなぁ。

かなり気が狂っていると思うが、この行動力が素晴らしい。行動力ってのは結局のところ、「どううまく行動するか」ではなくて、「行動を起こす力」のことである。仮に出発点が間違っていようが、あやふやで抽象的な考えだろうが、行動を起こせば実際的なデータが集まるし、うまくなる。気が狂っているがすごいし面白いとおもったのでご紹介した。オススメ……といえるかどうかわからないが、劇薬である。

独立国家のつくりかた (講談社現代新書)

独立国家のつくりかた (講談社現代新書)