基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る

重力ほど身近なのに意識にのぼらないものも珍しい。
あ、空気があったか。空気も意識にのぼらない。でも水泳とかしたときは、苦しくて空気のありがたさを感じる。
重力は意識しないし、感謝することもない。宇宙について考えるときに、無かったら良いなと思うことはある。
でもなかったらきっと、おしっこをするのも一苦労で随分つらい思いをするだろう。重力は偉大である。

僕はばりばりの文系なので当然よく知らないが、僕以外の人もおそらく、たいていは重力のことなんて知らないだろう。
別にそれで問題があるわけではない。重力のことを知っていたからといって、仕事がうまくいくわけでもないし、
一人身軽に動けるわけでもない。そして知らなかったからといって、特別何か不利益をこうむるわけではない。
だから多くの人はわざわざ重力のことを知ろうとは思わないし、実際知らないのだろう。

僕はこの前自転車をガシガシこいでいる時に、ふと「地球は宇宙の中心ではなく、端っこのほうでくるくる回っている
ただの一衛星に過ぎない、しかも我々が住んでいるこの宇宙も、無数にある宇宙たちのうちの一つでしかない」と
ガリレオ・ガリレイが発表した時の一般市民の人たちの気持ちを考えた。おそらく何言っているんだこの馬鹿、
ふざけたこといってんじゃねえ、といったところだっただろう。怒りを覚えたに違いない。

ずっと自分達は世界の中心にいると思っていたのに、実は端っこでたいした意味なんかなかったんだ
と知ったときの衝撃はきっとすごいだろう。羨ましいなあと思う。僕がSFを好んでこういう科学ノンフィクションを
好むのはそういう驚きが好きだからだ。それが「宇宙の中心」から「宇宙の端っこ」に自分内認識を書き換える
なんて、想像しただけでわくわくする。

同時に疑問なのは、そんな事知らなくたってどうでもいいということだった。大きなことを言ってしまえば、
なぜ人間は自分達の生活にまったく関係がなかった宇宙なんてものに興味を持ち出して、宇宙の中心から
自分達が転げ落ちただけでそんなに怒りを覚えなくてはいけないのか。はたまた、怒られたりしながら
自説を主張しなければいけないのか。別に普段生活していく分には関係がないことなのに。

まあ当然好奇心というやつだろう。こいつはすごい。なくても生きていけるのに、あったおかげで
ここまでこれた。重力のことも、宇宙のことも知らなくてもその当時の生活水準のまま生きていけたはずだった。
が、今や人間は重力のことを理解し始めて、こうして一般の人にまでこの意義を伝えようとする、
わかりやすい新書まで出ているのだからたいしたものだ。

かつては理解できても活用できなかった重力の知識も、今ではGPSや衛星の知識に使われて立派に身近で役に立っている。
たとえばアインシュタイン相対性理論(エネルギーが時間と空間を変質させる)がなければ、軌道上でくるくる
まわっている衛星と地上でほんのわずかな時間差を計測することでズレを修正することができなくなる。
特殊相対性理論一般相対性理論がなければ、GPSもなかったのだ。

なぜ知っていても実生活で役に立たない重力の勉強などするのか。
その当時は意味がないようにみえたり、何の役にたつのかわからなくても、ずっと未来からみると意味があるものだ。
この意味を想像して実践していけるのは科学者の醍醐味だろう。しかしそれをただわかりやすく説明してもらって
なんとか読む僕からすれば、ひたすら楽しいからだ。

でも難しい。一般相対性理論? 特殊相対性理論? 二次元と三次元ならついていけるが十一次元ともなると
そいつはいったいなんなのだとなってしまう。本書のすごい所は、科学的数学的説明は抜きにして
説明の要点のみをあの手この手でやさしく説明してくれるところだ。たとえば現在最新の物理学によると、

この宇宙は十一次元で出来ているという。そんなもの真面目に説明すれば複雑怪奇に決まっているが、
「蟻が一本の紐の上を歩いていればそれは縦にも横にもいける二次元空間だが、鳥がその紐に
足でつかまったとしても前後にしか動けない一次元空間である。空間は小さすぎると知覚されない」
といって説明されるとたしかにこの世が十一次元でもおかしくないなと思えてしまう。

相対性理論なんて本気で理解しようとしても、なかなか出来るものでもないだろう。やったことないけど。
でも要素を抽出して、抽象表現として説明してもらえれば理解できる。本書では特殊相対性理論
一般相対性理論超弦理論とより複雑さを増していく理論を抽象化し、科学の面白い部分をわかりやすく教えてくれる。
読んでいて大変たのしかった。

重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る (幻冬舎新書)

重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る (幻冬舎新書)