基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

ゲームの流儀

ゲームは嫌いだが、ゲームを語る人達の話は滅茶苦茶面白い。

ゲームが嫌いな理由は極個人的な理由で、ゲームオーバーになると「今まで費やした時間が消えてしまったのか……」と思ってしまって虚しくなるのだ。「いや、次にこうしようとか、プレイヤースキルっていう形で蓄積しているでしょ」とも思うのだけど、それだけの情熱を燃やせるゲームはなかなかない。周りのゲーム好きを見回してみると、このゲームオーバーの時間の喪失感というのはあまり感じていないようだ。

本書はゲーム開発者たちのインタビュー集である。ほそぼそと大したこと無い分量で、宣伝のようなことしか喋っていないインタビューと比べて、分量も内容も踏み込んでいて面白い。以下インタビューを受けている人達と、その代表作達。そうそうたるメンバー!

●収録ラインナップ
岩谷 徹(『パックマン』)
遠藤雅伸(『ゼビウス』)
坂口博信(『ファイナルファンタジー』)
糸井重里(『MOTHER』シリーズ)
仙波隆綱(『メタルブラック』)
仲村 浩×森田典志×塚田みさき(『エドワード・ランディ』『ファイターズヒストリー』)
前川正人(『ガンスターヒーローズ』『レイディアンシルバーガン』)
海道賢仁(『ナイトストライカー』)
井上淳哉(『エスプレイド』『ぐわんげ』)
安田 朗(『ストリートファイターII』)
丸山茂雄(プレイステーション)
須田剛一(『ファイプロ ファイナル』『シルバー事件』)
桝田省治(『俺の屍を越えてゆけ』)
芝村裕吏(『ガンパレード・マーチ』)
上田文人(『ICO』『ワンダと巨像』)
奈須きのこ(『月姫』『Fate/stay night』)

奈須きのこまでカバーしているあたり素晴らしい。時代的にはだいぶ古いゲームの方が多いが、彼らの話はゲーム草創期の興奮と工夫と「ゲームとは何か」と考えていく過程があって面白いのだ。どんな物事だって、今まさに立ち上がり、盛り上がっていこうとしていく瞬間が一番楽しいんだと僕は思う。その黄金期、コンピュータゲームというものを作ってきた人達だ。

しかしゲームを創る人達の話っていうのは、どうしてこんなにおもしろいんだろう。僕が勝手に面白いと思っているのか、それとも普遍的に面白い理由があるのか? 僕が思うにそれは「世界を設計する」というところにあるのではないかと思う。

世界を設計するといっても別にかっこいい意味ではない。たとえばぷよぷよの開発者米光さんは、ゲームの本質を「ルール、ジレンマ、インタラクティブ性」と言ったが、この3つをもった世界がゲームなのだ。ルールとは言うまでもないとして、ジレンマは「ゴールに向かう」という目的があるのに「途中に敵が出てくる」というようなことだ。インタラクティブとは言ってみればボタンを押したら何か反応が返ってくるっていう、ただそれだけのことだ。

かつてヘロドトスが書いた『歴史』の中には、リディア人が食料不足を1日ゲームをして食事を控え、その翌日は食事をしてゲームを控えることにしたという逸話がある。ゲームとは昔から「現実逃避先」であり「現実を生きていくための手段」の重要なひとつだったに違いない。過去にあったゲームなんて、サイコロやお手玉といったようなものだろうが、それでもそこには現実とは異なるルールが設定された別世界としてあったんだろうなあ。

つまりゲームを創るとは世界を創ることであって、世界を創るなんて面白そうじゃん、ってことになる。あとはまあ単純に「どうやったら他人は面白いと思うんだろう」って「面白いことってなんだろう」って考えるのって、面白いような気がする(笑)

本書ではいろんな人の「ゲーム観」のようなものが読めて、そこがまた最高に面白いのだ。たとえば糸井重里さんはインタビューの中でこんなことを言っていた。

誰が遊びに来ても退屈させない。一緒に濃い時間を過ごさせるものというのが、僕の理想のものなんだと思います。(中略)その"濃い時間の塊"みたいなものが、ゲームなんじゃないですかね。

創りて手側からみたら、サービスとしてのゲーム。でも「濃い時間の塊」っていうのはよくわかる。現実とは違う仕組みで、やったらやっただけ反映される(RPG)のは人を熱中させる要素がぎゅっと詰まっているからなのかな。

次はソニーのゲーム機プロジェクトで、プレイステーションを成功に導いた立役者の丸山さんの話。もうかなりのお歳の方なのだが、アグレッシブで物事の本質をつく発言ばかりで凄い人だったし面白いインタビューだった。

俺は任天堂の山内さんから始まって、岩田さんが繰り返し言っている「ゲームは複雑になった。ゲームは遊びだ」という言葉、これは正しいことをおっしゃっていると思う。じっくりと効いてくると思うよ。筋は通っているよ。

「ゲームは複雑になった」っていうのはこのインタビュー集の中でも多々出てくる話題。どれだけゲームが綺麗になろうが、本質は「遊び」なんだと。

あと関係無いけれど、桝田さん(俺の屍をこえてゆけ)のアイディアの出し方が面白かった。

現状の状況を整理して、「僕はいま、これで困っている」ということを覚えておいて、あとは普通に生活するんだよ。まず整理した段階で、答えが出る問題かどうかというのはわかるからね。で、答が出るってわかったものは、長くても一ヶ月以内にわかるんだよ。テレビ見てたり、本屋行ったりしたときに「これだ!」と思いつく。そういう問題って、この仕事やってると常に100個くらいあるよ。

なるほど。僕も似たようなことはやっていますけど(あれどうしようかなあ、とかこれどうしようかなあ、というのを頭の中に入れとくだけ入れといて、普通に生活する)ゲーム製作者や何やらのクリエイターになると、100個も頭の中にあるものなのか……。

実を言うと本書に載っているゲームで、やったことがあるのって2つしかないんですけど、それでも充分に楽しめました。それはやっぱりゲームを創る行為が、本質的に面白さとか、楽しさに直結しているんじゃないかなって思うんですよね。みんな楽しそうだった。おすすめです。

ゲームの流儀

ゲームの流儀