基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

サラダ好きのライオン 村上ラヂオ3

村上春樹さんのエッセイ。このシリーズ、大好きなんですよね。

エッセイはお題が自由なだけに、書く方は結構難しいんじゃないかなって思うんですけど、村上春樹さんの書くエッセイは自然体のように見えるどうでもいいような内容で、でも読むとなんとなくいいことをいっているような気がするそのバランスがすごいと思うのです。恐ろしくどうでもいいことを言っているんだけど、でも読んじゃうんだよね。

本業である小説とか、社会的な評価とかを一切抜きにしてこのエッセイを読んでいると、村上春樹というのは恐ろしく文章がうまいなんかダメっぽいおっさん、っていう人物像がしっくりくる。くだらないダジャレをいい、くだらない妄想をしてろくに仕事もせずに世界中を旅をし、本を読んで勝手気ままに暮らしているおっさん。

読んでいて文章の端々に心惹かれたのですけど、今回特に心に残ったのは「そうか、なかなかうまくいかないね」という題のエッセイ。内容は「僕は人に何か忠告を与えるというようなことはまずない」という話だ。助言をして今まで良い結果が得られたことがないし、そもそも多くの人は実用的な助言や忠告よりむしろ温かみのある相槌を求めているのじゃないかと続く。

これ自体は僕も常日頃思っていることで、そうだよね僕も忠告なんかほとんどしないよと思いながら読む。文章がドライブしていくのはここからだ。ここで終わるようなら平凡な、まあ多くの人が頷いて終わるようなよくある話なのだ。でもここで終わりではない。

そこから「よく新聞で人生相談なんかやっているけれど、僕はとても答えられそうにない」と続けて、たとえば私はみずほ銀行南参道支店で支店長を務めていますが、どうしてもアラスカに移住し、素手で熊と闘いたいと思います。銀行を辞め、妻と別れるべきでしょうか?」なんて相談されても、答えようが無いですよね、と続ける。

突飛な話だけどすごいな、と思ったのはこのみずほ銀行南参道支店の支店長がアラスカに移住して熊と闘いたいと思っているという、飛躍しているのにやけに具体的なディティールなんですよね。思えば村上春樹さんの小説で僕が気に入っているのは、このような細部まで書き込まれたディティールなのかもしれない。まるっきり飛躍した想像なのに、書き込まれたディティールはそこから目を離せなくする。飛躍した話だからと笑い飛ばすことができなくなる。

文章を操る人間の凄さって、むしろこういうフリートークみたいな、自由なエッセイにこそ出てくるものなのかもしれないな、とこのシリーズを読んでいて思いました。

サラダ好きのライオン 村上ラヂオ3

サラダ好きのライオン 村上ラヂオ3