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バースト! 人間行動を支配するパターン

人間の行動は予測できるのかと言えば、できないという人の意見が大半だろう。人間には物理現象がみせる決まったパターンは存在せず、思いつきで飲みにいったり、ふと思いついたことで行動を変えたりといった自由意志によるランダムネスが混ざるからだ、と。そもそもそれ以前にそんなこと考えたことがない、という意見のほうが多そうだが。僕は「考えたことがない」側の人間であった。

しかし本書を読み終えるころには、人間の行動は基本的なパターンにのっとっていて、ほとんどの確率で今日自分が何時にどこにいるかというのがわかる。400ページのなかなか分厚い一冊だが、この中で著者が挑むのはもうお判りのように人間の予測可能性である。果たして人間の行動は予測できるのか。できるとして、どのようなパターンに則っているのか。

仮に人間の行動が完全なランダムなら、むしろ話は簡単である。電話の通話記録を例に考えてみよう。平均して1日12回電話をかける人がいるとすれば、平均して2時間毎に1度、電話をかけるはずである。「具体的に何時に」かけるのかはわからないにしても一度電話をかけたら1時間は電話をかけないだろうということが「人間の行動がランダムだと仮定すれば」導き出せる。

もちろんランダムなので平均してぴったし2時間に1回になるわけではないが、真のランダム性は不思議な均等を与えるものであり、そこから様々な確率を予測できる。が、本書が明らかにするのは人間行動はランダム性が表れないことをデータから導き出している。このデータから読み取れる傾向が、本書の肝になる。バーストだ。

バーストはあらゆる場面で現れるが(医療、生物の進化、人間以外の生物の行動、文化の発展)たとえばメールのやり取りを挙げてみよう。著者が電子メールを送るパターンを分析するのだ。ある日彼は32通の電子メールを送った。それをみてみると、午前中には8通のメールが送られている。しかしそのうちの4通は、11:49〜11:57分のごく短時間に連続して送られている。

ランダムな流れにおいて、こうした連続発振が起こる可能性は0.000035なので、たまたま発生するにはほとんどあり得ない数字だ。このような傾向は午後も続いて、ランダムで想定するには不可能な確率の連続送信が何度も続くことになる。これこそが本書で人間行動を支配するパターンであるといっているところの「バースト」なのだ

メールの嵐が吹き荒れたかと思うと、長い沈黙が続き、また一時的にメールがバーストする。この事象をめぐって本書は深く潜ったり、横道を広げたりしながら進んでいくのだ。たとえばバーストが表れない状況というのもあるし、その為にはバーストが「そもそも何故発生しているのか」という起源的な追求も必要になってくる。おもしろいので起原についてちょっとだけ説明しておくと、人は優先順位をつけはじめた時に「バースト」の法則を出現させるのだ。

メールが1時間に1回しかこないなら、その都度返せばいい。それ程大変ではない。数分時間をとられるだけだ。しかし1時間に5通も10通もくるようだと、これに対処しているだけで物事が進まなくなる。ようは「即時対応」できなくなった時に人は優先順位をつけて物事に対応するようになり、結果的にバーストの法則が出現する。

どうやら人間の行動はランダムではないし、ある程度のパターンがあるようだ。それ以外にも、本書では意外と大多数の人間は同じことしかしていないということを明らかにしている。自分の生活を振り返ってみると確かにと頷く方も多いと思われるが(僕もそうだった)、意外と毎日同じパターンで生活しているものだ。

もちろんそれは一人の人間を詳細にみたら予測可能なわけだが、GoogleFacebookのように人間行動に関する膨大なデータを収集して分析することが出来るようになった時代で、「夢物語でもSFでも」なくなってきている。極端な話監視カメラが進化すれば、個々人を完全に識別した上で、予測を交えて完全に居場所を特定し続けることも可能になるということだ。

本書の特徴と魅力として付け加えておきたいのが、そういった「人間行動に関する法則」の通常の科学ノンフィクション的な部分が書かれているのは奇数章だけということ。偶数章は十六世紀の十字軍の歴史が語られる。この歴史を通じて人間行動を予測できれば回避できたかもしれない過去と、過去を予測することしかできなかった今までが語られているのだろう。いわば教訓としての章である。

人間行動の予測可能性は、今までほとんどテーマにされてこなかった分野だろう。バースト理論は、基礎研究から応用への展開が非常に速いことも本書では触れられているが、ビッグデータとの相乗でこれからどんどんおもしろくなってくると思う。一個人の予測から、一組織の予測に繋がり、いずれは一社会の予測に──と果ての見えない分野であるだけに今後に期待したいところ。

バースト!  人間行動を支配するパターン

バースト! 人間行動を支配するパターン