基本読書

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ナイトワールド・サイクル:ホラー界のアベンジャーズ

丁度公開中の映画『アベンジャーズ』は一人一人単体で主役をはれるヒーローたちが、一同に介し世界の危機に立ち向かうという燃える話で大盛り上がり中ですが、そんな今だからこそこのナイトワールド・サイクルシリーズを読みたいのだ。僕も元から知っていたわけではないのですが。たまたまTwitterを観ていたら「アベンジャーズよりもわたしの一番は未だにナイトワールドである」みたいな文章が流れてきて、ふむふむそれ読んでみたいなと思ったのがつい2週間前ぐらいのこと。

そして2週間たった現在、全部で12冊あるナイトワールド・サイクルを全部読み終えている。決して薄くはない。なんか止まらなくて。出版年は1994年で、舞台は当然それより昔の古臭い話なんだけど、内容の面白さは損なわれていないのです。古いし、今ではAmazonでもてにはいらないので紹介してもしょうがないかなと思ったんだけど、面白かったから紹介する! 以下ナイトワールド・サイクルというシリーズについて簡単にご説明しましょう。

ナイトワールド・サイクルとはF/P/ウィルスンにより善六部の作品群のことを指します。わざわざ最初に『アベンジャーズ』を引き合いに出したのは、本作に連なる6部作のうちのほとんどは、活躍する場所もヒーローも違い、最終作である『ナイトワールド』で彼ら彼女等が一同に介し最初からの仇敵であったラサロムと世界の命運をかけた戦いをするという筋書きがあるからです。

各作品名とシリーズの順番は以下のとおり。
1『ザ・キープ

1941年、ルーマニアトランシルヴァニア地方。ドイツ軍に占領された中世の城塞に、ある夜、ただならぬ絶叫が響きわたった。地下室に駆けつけた兵士たちが見たものは、首を引きちぎられた仲間の無残な死体だった。さらに第2、第3の殺人が起き、恐慌をきたしたドイツ軍は、ユダヤ人の歴史学クーザに調査を命じる。現場に残された古代文字を手がかりに殺戮者の正体を追うクーザの前にある夜、おぞましい異形の存在が姿を現わした。吸血鬼伝説とナチスの侵略という時代背景を巧みに融合させた伝奇ホラーの金字塔。

2『マンハッタンの戦慄』

巨大都市ニューヨーク。それは現代の魔都だ。この街の裏側では想像もつかない闘いがくりひろげられていた。酷暑の夏、マンハッタンでは街の浮浪者が次々に姿を消すという事件が起こっていた。しかし、その原因は誰にもわからなかった。一方、「保安コンサルタント」こと、非合法の世界で危ない仕事をこなす〈始末屋ジャック〉は、国連のインド外交官だという不思議な男クサムから、路上の強盗に奪われたという家宝のネックレスの捜索を依頼された。ジャックが首尾よくネックレスを取り戻すのと前後して、彼の周辺で奇妙な事件が続発しはじめた。老婦人の失踪、ジャックを誘惑する謎の美女。いくつもの手掛かりが結びつき、驚くべき謎の正体が解かれていく。

3『触手(タッチ)』

「あんただ!あんたがそうだ!」浮浪者の薄汚れた手がアラン医師の手を握った。たちまちアランは高圧電流にも似たショックを身体中に感じた。アランが奇跡の人になったのは、その時からだった―触れるだけでいかなる不治の病も治療できるようになったのだ!やがて彼の不思議な治療を受けようと、難病を患う人々が各地から大挙してアランの診療所に押しかけてきた。だが、この奇跡の力にはひとつ問題があった。おかげで、病人たちの間にパニックが生じるが…。

4『リボーン』

売れないホラー作家ジム・スティーヴンスは、ある日一通の奇妙な手紙を受け取った。なんとジムが、事故死した遺伝学の世界的権威ハンリー博士の遺産相続人に指名されているというのだ。自分とハンリートのつながりを調べはじめたジムは、やがて自分の驚くべき出生の秘密を知ることになった。だがそれは、ジムと妻のキャロルを待ちうける、恐るべき運命の序曲にしかすぎなかった。

5『闇の報復』

南部の大学町で孤独な生活を送る女性数学者リスルは、美貌と才能に恵まれた大学院生レイフと知り合い、恋に落ちた。選ばれた人間は道徳など無視していいと主張するレイフの影響で、徐々に人格を変えられていくリスル。彼女の数少ない友人だった用務員のウィルは、そんなリスルの姿を見て、ある忌まわしい記憶が甦ってくるのを感じた。それは、五年前、彼がまだビル・ライアン神父と名乗っていたときに起きた、悪夢のような出来事の記憶だった。巨匠F・ポール・ウィルスンが『リボーン』に続いて放つ鮮烈な心理ホラー。

6『ナイトワールド』

1941年、ルーマニア奥地の城塞で、光の剣の使い手グレーケンによって滅ぼされた「永劫なる魔性」ラサロム。しかしラサロムは驚くべき復活を遂げ、いまふたたび世界を恐怖と混乱のどん底へと叩きこもうとしていた。宿敵の復活を知ったグレーケンは、かつてラサロムと闘った〈始末屋〉ジャック、ライアン神父、バルマー医師らと共に、ラサロムの野望を阻止すべく立ち上がった。傑作『ザ・キープ』のグレーケンとラサロムの最後の対決を描き、伝奇ホラー六部作〈ナイトワールド・サイクル〉の掉尾を飾る超大作。

第一作目がナイトワールド・サイクルの地盤をつくり、第二作と第三作がいわばこの物語のキャストの物語を掘り下げ、第四作、第五作は迫り来る世界の危機がいかにして起きていくのかを語り、第六作ではまさに、「世界の危機」が訪れる。ナイトワールド・サイクルが素晴らしい点はいくつもあるのですが、間違いなく凄いのはこの世界観を構築するために着々と積み上げていくディティールの数々といえるでしょう。

あととても技巧的な作家なんですよね。ホラー小説としての演出が素晴らしく、恐怖を煽るやり方、徐々に得体のしれない物事が進行していくその速度(これがホラーにとって一番ではないかもしれないけどすごく重要な点だと思う)が完璧。特にこの技術の粋は最終作のナイトワールドで結実していて、もう冒頭から引き込まれて読むのが止められなくなる。

その技巧と演出能力をもって、世界中の人間が巻き込まれる日の出の時間が日に日に短くなっていく地球現象への恐怖、同時にパニック状態になった人間たちがお互いにとってどれだけ危険で残忍なことをするのかという古くからある「何より怖いのは人間だ」という恐怖をどちらも徹底的に描写する。人間も、物理的な恐怖も、同時に怖いというのはなかなかない。

しかし希望はある、一握りのヒーローだけではなく、気が狂いそうな状況でも立ち向かうことを知っている僅かな人々が世界を救うんだ、というのが本シリーズのテーゼだ。『ナイトワールド・サイクル』はホラーオブホラーでありホラーのアベンジャーズだ。一ヶ月幸せで居たいなら本シリーズを読み耽るといい。

ナイトワールド〈上〉 (扶桑社ミステリー)

ナイトワールド〈上〉 (扶桑社ミステリー)

ナイトワールド〈下〉 (扶桑社ミステリー)

ナイトワールド〈下〉 (扶桑社ミステリー)