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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

ジグβは神ですか

森博嗣全シリーズレビュー

森博嗣先生の小説、Gシリーズの第八話だったかな。Kindleストアに森博嗣本がいっぱいあるので、最近片っ端から読み直しているのですが、順番関係なく読めるのであまり関係ありません。説明も、ちゃんと人間関係が一から語られるので、これが森博嗣初体験でも、問題ないでしょう。そうですね、なのでこの記事でもシリーズもののうちの一冊というわけではなく、まあGシリーズ全体の総評のような感じで、いったん感想をまとめておこうかと思います。

第七話までは、順当に真っ当に時間が進んでいたわけですが、この『ジグβは神ですか』は時間が富んでいますね。2〜3年ぐらいかな? 第七話である『目薬αで殺菌します』が2008年出版ですから、実に4年ぶりの出版。作中でも時間が経っていることで、作中の時間の飛びと、読んでいるこちらの体感時間が合わさっていることもあって、違和感がなく入って行くことができました。

同時に物語も、ここから第二部が開始といった感じですね。このGシリーズ、だいたい同時期に発刊していた森博嗣先生のXシリーズと対比すると、今までの森博嗣ミステリシリーズの流れを汲んでいる傾向があります。つまるところ旧シリーズのキャラクタが大勢出張ってくる。S&Mシリーズの面々、Vシリーズの面々、それからなんといっても作品全体を覆う真賀田四季というキャラクター。

まあそういうスタープレイヤーが一同に介している、シリーズ通読者が喜びそうなキャラクタ配置なわけです。それが今までは事件の背後にあの天才真賀田四季が──いるような、いないような、よくわからないね、というのが正直なところでした。一転、本作からは少々そのあたりに踏み込んでいる感じですね。特に詳しくは書きませんが、徐々に進行していくアベンジャーズみたいな感じ(仲間集めみたいな意味で)

アベンジャーはほら、映画ですからね。ぽーん! と集まってきちゃいましたけど。このGシリーズは真賀田四季が長い時間をかけて目標達成を行おうとしている(わざわざ長い時間をかけたくてかけているわけではなく、物体の移動、変化に物理的にそれだけ時間がかかるということ)こともあってか、段々と段々と、くっついたり離れたりニアミスしたりしながら集まってくるわけです。

仄めかす感じだったのが、ちょっと具体的に名前を出していきましょうか、って感じです(さっきからひどく抽象的だ)。そんな感じで各シリーズで主役を張っていた人間がちょこちょこ出張ってくるので、必然的にというかなんというか、Gシリーズで主役を張る三人(加部谷、山吹、海月)はどうにも影が薄い、平均寄り? 思考の飛躍が少ないキャラクタになっています(海月は別だけど喋らないから)。

ただ面白いのがそういういわば「工学部だが思考が平均よりの人たち」が不思議な事件にたいして「あーでもないこーでもない」と自分たちの解釈をだらだら〜っと述べて、まあその間に警察は着々と科学的な捜査を進めていたり、旧シリーズのキャラクタがスパっと解決したりという、その間(あいだじゃなくて、ま)? なんですよね。ミステリはあんまり読まないんですけど、普通の人達が「あーでもないこーでもない」と解釈をだらだらと続けるのって珍しいんじゃないかな。

謎としても「明快なトリック、謎がとけた時に誰もがそうだったのか!」と膝を打つようなものではなく。むしろ異常な殺人、デコレーションなどをみて(たとえばλに歯がない、では被害者の歯が抜かれている)「なぜこんな特殊な殺し方をしたんだろう」という動機面でのアプローチ、人間の精神の多様さ、不可思議さ、異常さ、イレギュラーさを解釈していくわけです。まあだからこそいくらでも考えようがあるともいえる。

本作『ジグβは神ですか』で起きる事件も、同じように謎自体はたいしたことありません。密室でもないしね。誰だってやろうと思えば、できる。ただ死体の状況が異常だった。なぜそんなことをしたのか? が、いわば焦点に当たるわけですね。で、これが解き明かされていくにつれて、人間の精神の不思議さ、多様さが確かに実感として湧いてくるものがある。本作の言葉を借りれば、『ほとんどの人間は異常だ。異常を平均したものが常識という幻想だ』というわけです。

現実にも殺人事件はそこそこ起きますけど、明快な論理、誰にも理解できる「理由」なんてものは、ほとんどない。あっても、それは口で言っているだけかもしれない。本当のところは本人にだってよくわからないものだと思う。そんなに綺麗に「これが答えです」と導き出せるようなものは、動機にはほとんどない。裁判でひっくり返ることだってある。結局どんなことを話して、最もらしく聞こえようが、一解釈に過ぎない。

探偵がいて、明確に事件を解決する。動機は誰にとっても理解しやすいもので、およよと泣き崩れる。シンプルで気持ちが良い。しかしそういうところからは、本作はだいぶ遠いところを狙っている。現実の複雑さに近い。ただ本来フィクションとは、狙い目としては現実をより複雑ににする方に目的あるのではないか、と思う。どちらかといえば、こちらが本筋ではないか。

『異常という言葉で片づけることは、人間が安定した存在であり、それに反する状態であってはならない、と無理に思い込むことと等しい。その思い込みから脱するためには、問い続けなければならない』⇐本書から引用しました。小説をテーマで語ってもあんまりおもしろくないんですけど、本作のテーマはいま引用したようなところあたりになるのかな、とおもいますね。

シリーズ既読者には「次作以降が楽しみになってきましたね」と語りかけておきます。たしか全12作予定なので、ここから話が加速していくかも、しれない。

ジグβは神ですか (講談社ノベルス)

ジグβは神ですか (講談社ノベルス)