基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

読者が『悲痛伝 』(講談社ノベルス):西尾維新

前作であるとんでも本悲鳴伝 - 基本読書 ⇐悲鳴伝から一年がたち、ほぼ同程度の(むしろ増えている)ボリュームでその続編が刊行されました。悲鳴伝は「つまらなくはないけど、かといって特別面白いわけでもない。でもところどころ面白いポイントがある」ぐらいの評価でしたけど(僕の中での話ですよ)、今作は魔法少女+謎の人類消失事件の謎解き ということでわくわくさせるような出だしです。

何しろ四国の人間が消失し、調査班が何人立ち入ってもだれとも連絡がとれない、陸の孤島と化したところに主人公であり英雄であり感情のない13歳の少年、空々空(そらからくう)が単独で調査に訪れる。いやあ興奮させる出だしじゃないですか。四国、消失! ですよ。しかも任務に失敗したら四国をまるごと消し去るというのだから四国県民はどう思うでしょうね。

こうしたスケールの大きな話が展開していくのは、このシリーズの面白さのひとつですね。完全な続編なので主人公は継続、出来事も連なっているわけなのでここから読む人もあまりいないと思われますけど、魔法少女に人類消失事件、気になる! という人の為に前回の簡単なあらすじ。

悲鳴伝は地球の悲鳴みたいなので人類の3分の1が死亡してその後も断続的な小さな悲鳴とかで人がぽこぽこ死んでいて地球がやばい。しかもなんだかよくわからない人間もどきのようなやつがいっぱいはびこっていてそいつらをぶっ殺す組織があって空々空くんはその感情がなく何事も冷静に実行できる能力を買われて、ぶっ殺す組織に無理やり入れられてしまう。

で、まあその過程で怪人たちや組織のスーパー能力者たちとなんやかんやあって戦っていって、空々空くんは晴れてその実力をもって並み居る強豪をぶち殺しましたよというのが前回までのあらすじなのだが今回はそうして偉くなって──最強になってしまったが故に疎ましがられ入ったら誰も通信できず、帰ってもこれない四国に単独潜入させられてしまったのでした。

ここからが本作の物語だ。あの地球人類3分の1をぶち殺した悲鳴から約一年後。四国の人間消失はいったいなにが原因なのか──潜入した空々空を待っていたのは宙を飛びふりふりの服を着た魔法少女、得体のしれない即死級トラップの数々、果たして空々空は生き残ることが出来るのか!?

このシリーズはどうにも冗長で、その理由はといえば主人公の空々空に感情が存在しないことがあると思います。ようは感情に突き動かされるということがないので、目の前で親が殺されようが親友が殺されようが親友に裏切られようが親に裏切られようが平然と自分がやるべきことをやることができる。基本的に相手を殺すことなんですけど。

で、そうするとずっと考えるわけです。あーでもないこーでもない。今何が起こっているのか、今何をすべきなのか。そして彼が考えることだけではなく地の文で三人称視点から「空々空がそうしなければいけなかった理由」や「空々空がそうしたらよかったかもしれない未来」を延々と物語可能性の全てを探索するかのように埋めていくので、これがまた非情に非常に退屈でねえ。

作風としては前作からまったく変わっていないのですが、そして前回はこの冗長さもむしろ良いところのひとつと数え上げてもいいぐらいにはおもしろかったポイントなのですが、それは曲がりなりにもちゃんとお話を、ひとつの着地点に落としたから評価できるわけであってですね……(本作は話は途中で「つづく」になる)

もっとも面白いところがないわけではないのですよ。新本格魔法少女りすかでそうだったような「魔法少女ジョジョで繰り広げられるような過酷な戦いに叩きこむ」は本書でも健在ですし(というか新本格魔法少女りすかはどうなったんだろう??)13歳中学生魔法少女が足で踏んだうどんを食す場面とかかなり変態的ですし。

そして四国消失という謎は、燃える。あまり詳しくは書かないけれど四国の中で展開されている状況もまた燃えます。ただし長い。それもムダに長い。そしてまったくこの一冊では話にケリがついていない。ちなみに6月に悲惨伝が。9月に悲報伝が。12月に非業伝が。出る予定らしいです。正直このシリーズをそこまで買っていない人間としては絶望というほかない状況ですが。

続編が出てからじゃないと総評的にはいえないかなあ。

悲痛伝 (講談社ノベルス)

悲痛伝 (講談社ノベルス)