基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

読書好きってめんどうくさいよね『バーナード嬢曰く。 (REXコミックス)』

施川 ユウキ著の漫画作品。「なんとかして読まずにすませて読書家の雰囲気だけ出したい!」という女の子が必死にがんばっていて好感が持てる。SFマニアな友人が出てきたり、シャーロキアンな友人が出てきたり、普通の本読みが出てきたりとバリエーション豊かだ。イーガンの名前が何度も出てくるので、取り上げないわけにはいかなかったがそれだけの楽しさではない。

読むとなんだか読書欲が高まる“名著礼賛"ギャグ! 本を読まずに読んだコトにしたいグータラ読書家“バーナード嬢"と、読書好きな友人たちが図書室で過ごすブンガクな日々──。 『聖書』『平家物語』『銃・病原菌・鉄』『夏への扉』『舟を編む』『フェルマーの最終定理』……古今東西あらゆる本への愛と、「読書家あるある」に満ちた“名著礼賛"ギャグがここに誕生!!

私の中ではすでに読破したっぽいフンイキになっている!!*1

「読まずに読書家の雰囲気を出したい」っていうキャラクタがまずいいよね。彼女がいることで「読書家」の相対化が行われていて、ようはその落差こそがギャグの大元になっているのだけど大まじめに語るようなものでもない。いやあでも本書を読むことで「そうだよね、読書家とか読書が趣味ですってやつはめんどうくさいよね」って誰もが思うのではなかろうか。

読書家ってめんどうくさい

読書家、読書が好きですという人間のめんどうくさいところはなんだかよくわからないルールというか、空気みたいなのが決まっていてそれに沿って自身を演出しようとするところなんですよ。誰もが知っている有名作を「読んだことがない」と負けた気分になったり、恥ずかしがったり。古典を端から端まで知っているかのように知ったかぶってみたり。初心者に向かって薀蓄をひけらかしてみたり。

まるで階層があるかのように振る舞い、読んでいる人間は素晴らしくたくさん読んでいることが何かの権威であるかのように錯覚していたりする。まったくもって馬鹿馬鹿しいという他ないわけです。もし自分にその自覚があるのならばこの本でも読んでくるがいい。⇒読んでいない本について堂々と語る方法/ピエール・バイヤール - 基本読書 ギャグみたいなタイトルだが大真面目な本。まあ、読んでいない本について語る方法は別に書いていないんだけど。

SFを語るなら1000冊〜みたいなのも、なんか「病気の子はいなかったんだ」じゃないけどこれも今では誰かが具体的かつ権威的に言っているというよりかは、「SFを語るなら1000冊読まないとダメなんだ……」みたいに誰もが自分で自分に言っているようにみえる。ようはその特に誰に言われたわけでもない謎の空気みたいなものがあるようなきがするんですよね。

話がそれた。

話がそれた。そうそう、本書がちょー面白いのは「なんとかして読まずにすまそうとする子」といわゆる上で述べたような側面を持つ「読書家(SF好き)」のど付き合いと、その中心ぐらいの男の子(恋空で泣いているかと思えば銃・病原菌・鉄を読んでいたりする)と女の子(シャーロキアン)が絶妙なバランスで回っているところで、僕などはそのどの立場にも肩入れして読んでしまう。下記はなんとかして読まずにすまそうとする一例

「人生について知るべきことはすべて フョードル・ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の中にある」「だけどもうそれだけじゃ足りないんだ」

いいよね! それがキッカケでドストエフスキー読み始めたんだ

……読破することをあきらめていたわたしに『カラマーゾフの兄弟』はモノ足りない つまり未読でいいって 免罪符をくれたよ!

ちなみに最初の名言はヴォネガットスローターハウス5から。カラマーゾフの兄弟はジャンプ的に随所に盛り上がりがあり読んでいるととても興奮するんだが分厚く長いドストエフスキー作品の筆頭でもあり、非常に強い権威性を帯びていてその意味でも読書家的空気の中で生きるのであれば必須な一冊なのだ。

グレッグ・イーガン

SFファンを名乗るのならばイーガンは読んでいなければならない空気(これまた空気だ! 空気!)がある!! 最初に語ったようにこうした空気は馬鹿馬鹿しい……馬鹿馬鹿しいが、それに乗るのもまた一興なのだ!(いうことがめちゃくちゃだな) というわけでイーガンについてSFファンの女の子が熱く語っている話があるのだが、これが面白い。

アンタに借りたグレッグ・イーガン読んでるんだけど何が書いてあるのか全然わからないところだらけだよ!!

僕も最初にオススメされて読んだ時は何が書いてあるのか全然わからなくて唖然としたものだった。初イーガンの時の記事が残っていて感慨深い。⇒順列都市/グレッグ・イーガン - 基本読書 長らくブログを書いているとこうした蓄積があって過去を振り返るのも面白いのだがそれはまた話が別。とにかくイーガン初読時の感覚は「すげえ! けど、よくわかんねえ!」が普遍的なものなのではなかろうか。

グレッグ・イーガン 現代を代表するハードSF作家 SF好きなら誰もが彼の作品を読んでると思って間違いはない しかし……しかしだ ごくり 実はわたしも結構な部分 よくわからないで読んでいる

えっ わたしだけじゃない…

みんな実は 結構よくわからないまま読んでいる…

うむ……僕も実は、結構よくわからないまま読んでいるのだ……。ディアスポラとか、何をいっているのかさっぱりわからなくて絶望しかけたからな……。

まとめ

読書好きにこそオススメしたい一冊。
読書家のめんどうくささも存分に発揮されており、同時にバーナード嬢の「読まずに済ませよう」とする態度の表現のおかげで読書家ほど自身を相対化させる楽しみがあるだろう。でもそういう読書家的な謎の規律というか、空気にのるってのもまたいいもんなんだよね。そうした空気にのっからなければ出会わなかったかもしれない傑作もあるわけですよ。イーガンだってドストエフスキーだってね。

*1:p30