基本読書

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世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア

MBA(Master of Business Administration)取得者の話を聞いたり読んだりしているとなんだか「経営の特殊状況について」議論しているばっかりで、経営理論みたいなのはまなんでんのかあ?? というか経営科学なんてあるのかな?? と疑問に思っていたのだが……。そういう疑問を吹き飛ばしてくれる一冊。本書が狙っているのは現在の経営学者たちが一体どのような研究をやっているのかをお知らせしようといったところで、経営学や組織について興味があるとなかなかおもしろい内容になっている。

というのも経営者が書いた本やドラッカーが書いたような本はたくさん出ているけど、それらは科学的に分析したものとは外れてるからで。たとえば本書の第一章でいきなり書かれているのは「ドラッカーの考えを元に研究している人間は一人も居ない」し「誤解をおそれずにいえば、ドラッカーの言葉は、名言であっても科学ではない」のだという。

まあそれはドラッカーを読んだことがある人間なら当然知っていると思うが、あれは別に科学的に測定されたものではない。科学的なの意味は反証することができ、再現性が認められるものと簡単にしておく。

驚いたのが経営学には教科書がないという事実で、これはそのまま「学部生向けの実践的な経営分析のツールを紹介している経営学の教科書がない」わけではなく「研究者を要請する博士課程の学生を対象とした、経営学の理論を体系的に網羅した教科書はないのです」という。その理由として挙げられているのが①経済学ディシプリン ②認知心理学ディシプリン ③社会学ディシプリンとそれぞれアプローチの仕方がまったく異なることがひとつ。

そしてこうしたディシプリンごとでも①効率性を基準に考えるか ②パワーを重視するか ③経営資源を重視するか ④アイデンティティ、ビジョンを重視するかといった見方の違いが細かく分かれてくるので全体を網羅した教科書は無理になる。

ふーむ。それぞれの分野ごとで分けて教科書でもなんでも作ればいいだけじゃないかなあ、マクロ経済学ミクロ経済学みたいに、と思ってしまうがそこまで体系的に経営学に関する知の積立が行われていないっていうことはあるのかもしれない。実際経営学の話で面白いのは地殻変動でも起こったのかっていうぐらい様々な研究結果が出ている点で、それだけに「絶対的な一本の柱」みたいなものは少なくとも本書を読む限りでは見当たらない。

かの有名なポーターの競争戦略論も今となってはそのまま適用できるものではない=攻めの競争行動が有効になる可能性もあるとする研究結果が出ているし「1998年以前の研究はほとんどまちがっている可能性がある」なんて疑問も提出されるぐらいでなんともぐらぐらとした弱い土台の上に経営学という学問が成り立ってきて、今その土台を急ピッチで仕立てあげているような面白さがある。

文章は防御力が高すぎて(誤解のないように、という表現を多発して、いろんな反論の可能性を全部潰そうとするので異常に面倒くさい)読むのがだるいし経営学での研究の現状といった紹介なのでそのまま組織運営に役立てられそうなものばかりでもないけれど、「いま、なにがおこっているのか」については充分及第点というかおもしろい内容になっていた。

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア