基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

Once While Travelling: The Lonely Planet Story by MaureenWheeler,TonyWheeler

世界的なシェアを誇る旅行ガイドブックの出版社であるLonely Planetの創設者二人(夫婦)が書いた会社創設記。蔵前さんによる旅行人創設秘話が面白かったので⇒さて、それじゃあまた旅に出ようか。『あの日、僕は旅に出た』 by 蔵前仁一 - 基本読書洋書でも同じようなものがあると聞いて読んでみたのだけど……。うん、全然タイプは異なるけど、こっちもたいへん面白かった。

こっちは旅の面白さというよりかは、会社を創って、それを維持していくのがどんだけ大変か……の「企業のコントロール」の側面が面白い。もちろん変てこな人がいっぱい出てくるし、危険な目にもいろいろ遭うんだけれども、それらはメインではない。たったの二人でほとんど金ももたない貧乏旅行にいって、ひょんなことから旅行体験記を書いて、就職しないでそのままLonely Planetを創設して……。

今でこそ世界一のシェアを誇るガイドブックだが、最初のうちは何度も破産の危機に遭う。でも懇親の力で「良い一冊を」作り続けていくと、旅行ガイドはずっと、それも場合によっては世界中で読まれる可能性を持っているものだ。国から国へ売り歩き、新作を出せば出すほど場所の占有率が高くなり、認知度も上がり、旅行ブームが沸き起こって、結果的にLonely Planetは世界一のシェアを誇る旅行ガイドブックになっていく。

そして何度も迫り来る危機! 最初は自分たちで作っているから、クォリティコントロールがすべて行えるのに、事業所が世界中にできてくるうちにそのコントロールが効かなくなってくるところとか、世界のテロや感染症などの動きであっという間に売上が減ってしまう自分たちでコントロールできないところへの対処など、グローバルな企業の波瀾万丈なところが面白いんだよねえ。

実際小さい所帯からはじまった企業で最初の難関って、やる気も能力もある初期メンバーとあとからネームバリューや安定性に惹かれて入ってきたあんまりやる気のない人たちのコントロールだと思う。数人、まあ二十人ぐらいまでならトップが全体を把握できるけど、それ以上になるともう任せるしかないんだよなあ。それをよく起業の志もなく、ただ旅をしていてそれを文章にしてみたら意外といい感じだったから出版社にしちゃいましたみたいな若者が制御できたものだ。

LPでいえば、海外支社のガイドブック記者が他所のガイドブックからパクりまくって作っていたり、ホテルや観光地から金を受け取ったりしていると、それだけで信用が一気に落ちる。もちろん多くの旅行ガイドからいいところをパクってまとめるのをメインでやっている旅行ガイドもあるのだがLPは常に第一次情報を自分たちでとりにいって、旅行者に質の高い、より安全かつその国の文化のことがもっと知ることが出来るようなガイドブックを作り上げてきた。

パソコンが一般に出回り始めると即座に仕事に導入し、不況になれば低コスト向けの旅行ガイドを出し、社会情勢が変わればそれに合わせた新バージョンを出し、テロが起きて必然的にガイドの売上が減るとわかれば即座にコストカットを図る。結局この二人の成功要因は真摯に質の高い、読者がその時々で求めるようなガイドブックを作り続けてきた、という点と、危機に対して常にとは限らないが、適切な対応を打ってきたこと、そして変化に常に柔軟に対応してきたところにある。

クォリティについては、ガイドブックがしなければならない三つのことという内容の文章からもコンセプトの明確さがみてとれる。最初に、それは読者を安全にするものでなければならない。たとえば夕暮れ時に駅から降り、ガイドブックが右にいけ、というか左にいけ、というかで旅行者の運命が変わってしまうこともあり得る。少しでも安全に、という観点が、ある時旅行者の命を救うかもしれない。

第二に、ガイドブックは旅行者を教育すべきである。ほんのちょっとの地域情報でも、旅をより楽しくするだけでなく、旅行者をよりよい旅人に変えてくれる。少しの情報があれば、クズのようなおみやげや食べ物を買わなくて済むかもしれないし、ろくでもない、虫が湧いているホテルに泊まることを防ぐことができる。そして最後に、ガイドブックは旅行者がより楽しみ、より喜ぶことを手助けするべきだという話。

これらはどれも実にシンプルな警句だが、それぞれを高いレベルに推し進めていくことで現在のLonely Planetとその地位があるのだろう。LPに限った話ではないけれど、旅行のガイドブックって、暗い洞窟に入って行く時の松明のような役割というか、心細くも異文化に入って行く時の心強い味方になってくれるからか、やけに記憶に残るし、親近感を覚えるんだよなあ。

しかし旅行ガイドブック創設秘話というよりかは、グローバル化した企業のリスクコントロール的な話として面白い。必然的に世界を相手にするわけで、ビザの問題や国の政治問題(ビルマとか)にもろに巻き込まれていく。しかし実を言えば、ビジネス以外の旅行人としての側面は正直あまりおもしろくないのが……残念。たぶん350ページ以上あるけっこう長い本なんだけど(Kindleで読んだからページ数が表示されない)その半分ぐらいを占める旅行の話、夫婦の馴れ初めの話や痴話喧嘩みたいな話は淡々と事実が羅列してある感じで単調だ。

小学生の作文への文句ではないが、そこに何があったのか、そしてその出来事から何を感じたのかがまったくわからない。あ、でお子育ては衝撃的だったなあ。1歳になる前の娘や息子を連れて旅にいきまくって4大陸制覇とか普通ありえないよ! いったいどんな息子さん、娘さんに育ったのやら……。

Once While Travelling: The Lonely Planet Story

Once While Travelling: The Lonely Planet Story