基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

有頂天家族 (幻冬舎文庫) by 森見登美彦

アニメをやっているからかなんなのか、Kindle版が150円ぐらいだったので買って読んでみた。とても愉快な小説だなあ。森見登美彦さんは、初期の方の作品しか読んでいないのだけれども、読んで印象がプラスされた。初期の頃の作品って、できそこないの現代版ドストエフスキーみたいな小説だったもんな。

喋れるし化けられるたぬきと風を起こしたり空を飛んだり出来る天狗と人間が共存するファンタジー世界で、狸の一家が主人公。今は亡き一家の父は立派なたぬきなのに、四狸の息子はどいつもこいつもそれぞれ出来が悪い。一男はピンチになると極度にダメになるし二男は怠け者で狸であることをやめて蛙になったまま戻らず井戸にこもって暮らしている。三男は優秀だが面倒事を起こしまくる問題児であり四男は純粋すぎてすぐに騙されよわっちい。

とにかくダメなヤツ(人間も、狸も、天狗)がいっぱいでてくる。そうしたダメな人間への愛情あふれる描写の仕方がとても好きだ。歳をとって身体が動かなくなっても過去の権威にしがみつこうとする爺で、おまけに歳の離れた女に入れ込んで家財を貢ぎまくる天狗や、傍から見ていると自由奔放にふるまっていそうに見えながらがんじがらめになっている人間。

そういうダメなヤツラって、書き方次第でまったくイメージが変わってくる。たとえば歳とって身体が動かなくって過去の権威にしがみついて歳の離れた女に入れ込んで家財を貢ぎまくるクソ爺でも、なんでそんなにいれこむんだ、無駄だってわかってるだろと言われて「でも、喜んで欲しいんじゃ」などと言われた日にはそのダメさの中にある真っ直ぐさに打たれてしまう。

これが俗にいうヤンキーがたまにいいことをすると、すごくいい人に見えるギャップ理論であるが本作のキャラクタはみんな多かれ少なかれこのギャップをそれぞれ抱えている。この有頂天家族で楽しいのはそうしたダメなヤツラがダメなりにちょびっと前に進んだり、ダメなりにがんばったり、後退したり、うまくいかなかったり、そしてあまりに行き過ぎると逆に楽しくてたまらなくなってきたりする、そうしたダメドラマの中にあるのだと思う。

狸ってのはなぜかナチュラルにダメというか、勝手に失敗を重ねるイメージがあるので使い勝手がいい。なぜか滑稽で自堕落でお祭り好きなイメージがあるのと同時に、人間を化かす能力もあれば、人間に追われていく切なげなイメージも同時に併せ持っている。平成狸合戦ぽんぽこに引きずられすぎているかもしれないけど、でもあのイメージってたぶん平成狸合戦ぽんぽこ以前からあったよね。どこから出てきたんだろうな。

なんにせよ面白い話であるのは確かだ。天狗は狸に説教し、狸は人間を化かし、人間は天狗を畏れ、天狗は人間を拐かし、人間は狸を鍋にして、狸は天狗をだまくらかす。そうしたそれぞれの勢力がそれぞれの勢力のパワーバランスに大いに関与している状況で、シーソーゲームみたいにぐらぐらと揺れ動いていくのがプロットとしてたいへんおもしろかった。囚人のジレンマじゃないけど、こうした勢力均衡のプロット設計って話を動かすにはどこかひとつのパワーバランスを変化させると全体が変化するからやりやすそうだな、といつも思う。

有頂天家族 (幻冬舎文庫)

有頂天家族 (幻冬舎文庫)