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滅亡へのカウントダウン: 人口大爆発とわれわれの未来 by アラン・ワイズマン

 本書は『滅亡へのカウントダウン』という書名だが、そのメインテーマになっているのは人口増加とそれによる地球環境の悪化に人類は耐えられるのかというテーマだ。もちろん人口問題の中には日本のようにどんどん進行する少子化が問題になっている国もある。中国では働き手が欲しい親が男ばかりを優先して残す為、深刻な女性不足だ。タイでは増えすぎる人口に対して、女性に適切なコンドームの使用法を教えること、宗教的なお墨付きを与えてやることで人口減少にむかっている。中には資源も金も乏しい国で二倍三倍と人口が増えていく場所もある。

 増える人口の一方、農産物の収穫量は世界的に増えておらず、漁獲量に至っては減っている。環境はそんな負荷に耐えることができない。そした状況をまさに世界中の国々とさまざまな事例──をイスラエル・パレスチナイギリスヴァチカン伊ウガンダ中国フィリピンパキスタンイラン日本ネパールにインドタイと調査して並列的に並べていくのが本書の一つの価値であるし、だるいところでもある。

 様々な場所で様々な問題があり、それぞれに対策がとられている。ただし大枠として問題を捉えてしまえば「このまま人類が増え続けたら環境は絶対に耐えられないよ」「それぞれの国における最適な人口を算出し、持続可能な地球資源活用ができる範囲ってどんなもんなんだろうね」「最適な人口がはじき出せたとして、人類の人口抑制はどうやったらいいんだろうね。まさか強制的に産児制限を全世界的にできるわけでもあるまいし」の3つに集約できるだろう。

 本書は後者2つについても触れてはいるものの、まあ話のさわり程度のものでざっくりとした試算にすぎない。それでも日本を見ればわかるように基本的に「少子化は悪」とされている。少子化は本当に悪なのだろうか? とそもそもそうした所から疑問を持つための一冊として、また世界各地の人口ヤベエの事例集として有用な一冊だといえる。

 ところで心配されているような人口爆発は本当に起こるのだろうか? もちろんこのままのペースでいけば、しばらくは増え続けることは間違いない。このまま軌道修正しなければ、2100年の人口は100億以上になるだろう。その結果多くの損害、被害が出ることも間違いない。ただそれは現状が維持され続けた場合だ。たとえばインドでは中等教育まで進んだ女性一人が生む子供の数は平均1.9人で、中等教育を終了した女性では1.6人。教育を受けていない女性の出生率は6.0人である。また先進国における出生率は、対策を打っているところがあるにも関わらず軒並み下がり続けている。大方の先進諸国では、出生率は人口維持水準以下の2.0未満だ。つまるところ現状から未来の人口を予測するのは、まあひとつの試算としてはありだろうが、正確な予測として考えるべきではないのだろう。

 子供をたくさん産む理由のひとつは子供がすぐに死んでしまうから、働き手が必要だからだ。高所得、高成長が望める社会では子供一人あたりにかかるコストは跳ね上がってくる。そして死亡率も低いときたら、大勢の子供を養うより少数の子供を産み、じっくりリソースを注ぎ込んで育てたほうが理にかなっている。先進国について出生率が下がる理由は、その場所ごとに他にいくらでも理由はつけられるだろうし(日本だと5人10人も子供を育てる家が都会にはないし。)もちろん、子供を産むことによるマイナスをできる限り排除することによる出生率アップが可能なこともまた事実ではあるが、そうした対策をとくにとらないのであれば自然と子供の数は文明の成熟に伴って減っていく傾向がある。

 生物学史上、資源の上限を超えて繁殖した種はすべて生息数の急激な減少を経験し、ある時には種全体の絶滅を引き起こすこともあった。問題は「ってことは放っておけばいいってこと??」といえばそうではないところで。適切な妊娠管理が行き渡っていなければ、増え続ける状況は変わらないだろう。授乳中は絶対に妊娠しないと信じている人もいる。人口を資源が許す適切な数に抑えることを自然が強引に実行するよりも、ゆるやかに行う方法があるはずだ。

 日本のように勝手に少子化が進行し、もはや今更手を打っても改善されるのは何十年も先という状況であれば放っておけばいいだろうが。本書は日本語版への挨拶が最初にはさまれているし、一国で一章語られているが、そこでも語られているように日本は先進国において真っ先に人口減少が明確に表れている、特に重要な国の一つだ。少子化による主なマイナス点は現行システムがまるっきり機能しなくなること、歪な年代ごとの人口分布からくる様々な問題があるからではあるが、いってしまえばその期間さえなんとかしのいで、2世代ぐらいたってしまえばあとは人口が減ったことの利点が現れてくる。

 ただ、2世代3世代先のことを考えるには、人間は不向きだという致命的な問題もある。いってみれば人口の問題とは、中国の一人っ子政策を筆頭に自分たちがやっていることが数世代先にどのような影響を及ぼすのかをあまり考えずに政策を打ってきてしまったところが大きい。というより、考えていても、当座を凌ぐためにやってしまったという方が大きいか。2世代3世代先のことを考えて今我慢するという選択肢を投票行動によって導き出すのも、難しいだろうと思う。資本主義の論理も競争し、成長することが基本にある。だから日本のメディアや政治をみても「少子化をなんとかしなければならない」という「増やす」「成長させる」議論ばかり目につくようになる。

 単純に全体的な数値をみていこう。現在世界の人口は年間8000万人増えている。このままのペースが維持されれば12年間で10億人が地球に新しく増えるだろう。その中でも計画していない女性たちは年間8000万件の予定外の妊娠をし、その半分4000万件は中絶され、そのうち半数以上が危険な方法で行われる。そして1000万件が流産に至り、3000万件は出産されるが生まれた赤ん坊のうち600万人は最初の誕生日を迎えられずに死ぬ。ぐっとマーカー研究所と国連人口基金によれば、2012年半ばの時点で、発展途上国において、性交渉はあるが、向こう年間は妊娠しないようにしている女性の75パーセントがすでに避妊の手段を利用している。それによって年間2億1800万件の予定外の妊娠が予防され、1億3800万件の中絶、2500万件の流産、出産や闇の妊娠中絶が原因の合併症による11万8000人の母親の死亡が回避されたという。

 要はできることはまだまだある、ということだ。アラン・ワイズマンは別の著作『人類が消えた世界』で、地球から人類が消えた場合どうなるのかといっただいたんな疑問をたて、それを描写してみせたがその手腕は本作にも活かされている。たとえば全世界が明日から一人っ子政策をとるとすると──今世紀の終わりまでに世界の人口は16億人、1900年の水準に戻る、といったふうに。全世界が明日から一人っ子政策をとるなど不可能だが、そうした仮定をおくことで想像が広がり、大胆な発想が出てくるものだ。本書の試算をすべて真に受ける必要はないので、いろいろな仮定を頭のなかに思い浮かべる想像力起爆剤としての役割として読むといいだろう。

滅亡へのカウントダウン(上): 人口大爆発とわれわれの未来

滅亡へのカウントダウン(上): 人口大爆発とわれわれの未来

滅亡へのカウントダウン(下): 人口大爆発とわれわれの未来

滅亡へのカウントダウン(下): 人口大爆発とわれわれの未来