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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

NASA ―宇宙開発の60年 (中公新書) by 佐藤靖

NASAの宇宙施策はアポロが終わりISSの運用が始まったあと、何を目指しているのかよくわからない。無人探査を推し進めるのか? それとも有人で火星に人を送り込むのか? 送り込むとしてちょっと地面に足をつけて帰ってくるのか? 本格的に人間を「住まわせる」のか? それ以前に地球軌道上の設備を充実させるべきでは? といろいろな方針がぶつかっているような状況だ。

要因はやはり連邦機関であることからくる予算の制約、政治的配慮、大統領がころころと変わり同時に方針も大きく変わってきたことによる足並みの揃わなさと、さまざまにあげられるだろう。有人火星探査などの案も上がっているが、探査機のレベルがここまであがった時代にあえて有人で火星に送り込む理由があるとはどうしても思えない。やるなら火星移住だろうが、急いでやる理由もない。

本書はNASAが1958年に設立されてからどのような歴史を辿って、どのような具体的な成果を出してきたか。また数万人規模の巨大な技術集団がどのように人員を管理し、組織を運営してきたかという組織の歴史書である。NASAといっても月探査もしていればチャレンジャー号の空中分解もありISS設立もありとイベントが目白押しで、それぞれのイベントだけで一冊になってしまうような情報量になってしまう。

そこで本書はあくまでも歴史として見た時にそれぞれのイベントがNASAにどのような影響を与えてきたのかを概略していくことでNASAが政治的にどのような配慮を続けてきて、どのような変化を遂げてきた組織なのかがざっくりと把握できるようになっている。欲をいえば終章とは別に「これからのNASA」という章で実際この後NASAが取りうる具体的な施策に何があるのかといった情報が欲しかったけど、良書だ。

しかしNASAってまだ出来てから56年しか経ってないんだねえ。もうずっとある組織のような気がしていたのだけど、まあそれだけ存在感のある組織ということだろう。誤報というか飛ばし記事も多かったけどNASAが設立されてからの宇宙での大発見も野心的な挑戦もほとんどがNASAの情報だったし(これはただの主観なので実際どの程度がNASA情報なのかよくわからないけど)。今はロシアはもちろんのこと中国も存在感を増しているし、何より民間が強い。

宇宙開発については、これから先地球軌道上の開発などは国ではなくそれぞれの企業メインで発展していくだろう。かつて車や鉄道、飛行機といった移動系の技術はすべて国の管理から市場の管理に移った時にはじめて爆発的な発展を遂げてきた経緯を考えても「ここからが本番だぜ」ッて感じ(歴史をみて常にその最初期には事故が多発するが)。だからこそ、ここらでいったん科学技術と連邦機関であることの限界を提示しているNASAの歴史を振り返ってみるのは、これからを考えるのに役に立つと思う。

とにかく問題は金なのだ。科学的探求にしろ象徴としての達成にせよ基本的に金が儲かるわけではないのだから、その為の予算を確保しなければならない。キーパーソンと予算の確約をとりつけたからといって大統領が変わってしまえばまた白紙。しかも別に直接的に何か宇宙探査が我々の生活に寄与されるわけではない。有人月探査のように国民が熱狂し冷戦に恐怖し象徴としての精神的主柱を求めている時ならまだしも、一度冷戦の恐怖から解き放たれてしまえば巨大な金食い虫にすぎない。夢をみるのにも金がいるわけで、宇宙探査は夢もデカイが金も喰う。

有人月探査をクリアし、ロシアを冷戦後の新しい世界秩序へ組み入れるためのISSにおける米露協調と宇宙開発が国際的に象徴としての意味合いを持っていた時代はもう終わりつつある。組織としても、打ち上げ回数など目標値が明確に決められていたからこそ無理な打ち上げを敢行し事故に至るチャレンジャー号のケースなど、巨大技術組織としての側面と政治との折り合いの難しさを感じさせる。成果も大きかったが、その裏では常に資金をいかに確保するかの政治的格闘と、事故に伴う組織改革とで揺れ続けていた。

それでもなおNASAは180億ドルもの莫大な資金を与えられているのだから、まだその役目は終わっていない。本書ではこうした政治的・経済的な理由及び科学技術の複雑化に対応するために、モジュール化の追求や組織運営、組織管理の面まで含めて分権的に進めていくべきだろうと結論づけているが、まあそれはそうで問題は「それで何をやるのか」ってとこなんだよねえ。いろんな方針が錯綜し、研究者も様々な案を提示する中でもっとも有効な手はなんなのか。「これから」の章が欲しかったと書いたのはそれについての考えが読みたかったということだ。

ハッブル望遠鏡がとってきた数々の銀河系の映像、宇宙膨張に関する情報、惑星探査機ボイジャー1号が太陽系外脱出、火星探査機が送ってきた火星の鮮明な映像の数々、ISSに月探査とNASAが成し遂げてきた数々の調査はどれも僕の意識を宇宙へと引きずり上げてくれる超絶楽しい経験であった。この後NASAが有人火星探査にしろ、月有人基地の設立にせよ、軌道上に文化圏を設立する、無人探査機の充実などどの方面に舵をとっていくのかはいまいちわからないが、挑戦と達成を繰り返していくことを願ってやまない。

NASA ―宇宙開発の60年 (中公新書)

NASA ―宇宙開発の60年 (中公新書)