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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

読書会『SFマガジン700【海外篇】』の開催報告書

昨日8月3日に大阪駅周辺にて『SFマガジン700【海外篇】』を題材にして読書会をやってきました。無事6名の方に参加表明いただき(当日体調不良1名発生により読書会自体は5名)、だんだん賑わってきました。この読書会、正式名称は誰得読書会というのですが、最初の方は2人とかザラだったのでこうして人数が集まるようになったのはたいへん嬉しいことであります。知らない人ばかりの読書会に飛び込むのは結構勇気のいることだと思うのですが、だいたいみなすぐに打ち解けられるので面白いです。

開催自体は「この日にこの本をテーマにしてやります。やり方はこうです」とだけ決めて告知をブログなりツイッターなりで行い、人が集まってくるのを待つだけでいいので、主催者側は簡単です。場所も東京だったらルノワールのマイスペースがかなり安く借りられるし、6人程度だったらあらかじめ場所を確保する必要はあれど喫茶店で大丈夫でしょう。今回も場所は大阪付近の喫茶店に場所をとって行いました。二次会の手配などが入ってくると面倒なことになると思いますが、面倒なので僕はやっていません。

今回本は『SFマガジン700【海外篇】』ということで、実はこれ「今まで文庫などに収録されていない短編」を集めたもの。それゆえ面白さ的に微妙なものが揃うのではないか、と思っていたのですが平均的に面白いもの揃っていて、かなり良いアンソロジーでしたね。さすがに50年近く前の作品とかは古臭さが際立って今読むと面白くなかったりするのだけど、曲者あり傑作ありで読書会も盛り上がりました。

誰得賞

読書会の形式として、各短編ごとに自分の感想と、点数をつけているのですが今回の最も点数が高かった短編は1位が『息吹/テッド・チャン』でした。ぱちぱちぱち。第九回誰得賞の受賞作となります。今回はすごかった。5人中得点の入り方が10,10,10,9,9となり、その誰もが大絶賛という誰得読書会始まって以来のハイアベレージ。これまでで一番大絶賛を浴びた短編および最高の平均点だったでしょう。事実その内容は、非の打ち所のない完璧なものでありわずか25ページのうちにこの宇宙の終わりとそれでも終わらない知性へ思いを馳せざるをえないような、そんな想像力の飛躍をさせてくれる面白さがあります。

第二位が39点で『ポータルズ・ノンストップ/コニー・ウィリス』数々の賞を受賞しているエンターテイメントSFではぶっちぎりの人気を誇るコニー・ウィリスの楽しさが前面に出たような短編で、めちゃくちゃ面白かった。しかもこれの凄いところは、この短編がSF作家ジャック・ウィリアムスンへのトリビュート・アンソロジーで寄稿されたものってことなんですよね。普通こういうのって「トリビュート・アンソロジーを目当てにしている人達にとって」面白いものであることが多く、こういうフリー部門での面白さはやはり減じてしまうことが多い。それを吹き飛ばす普遍的な面白さを持つ、ミステリな構造を持ったSFで(SFネタがミステリオチにつながる)非常に上手い一編。

マジで誰が得するんだよこれ賞

さて、心苦しいですが一番点数が低かったものも発表しておきましょう。『遭難者/アーサー・C・クラーク』でした。第九回誰が得するんだよこれ賞を授与されました。ぱちぱちぱちぱち。おま、SF界の巨匠に何を言ってるんだという感じですが、実はそこまで評価が低いわけではなかった。50点満点で19点。この読書会では割合最低の評価となると「6人全員が0点をつけた」とかわりとあるのですが、そうかんがえると最低が19点というのはけっこうすごい。全体的に平均の高いアンソロジーだと最初に書きましたが、こういうところからもそれがわかります。

評価自体は──クラークのファーストコンタクト物。それが劇的に描かれるのではなく、両者が一瞬接近するといった形で書かれている、ただほんとに「それだけ」であり、異星生物側の思考が描写されているところなどちょっと面白いところはあるけれど、全体的に古臭く今読むと何も面白くないといった評価が多かった。発表が1947年、しかもデビューの翌年ということで決してクラーク自身の評価に傷がつくようなものではありませんが、まあ記念的な物として読むとなかなか面白いかんじ。

作品の評価

僕が個人的に好きだったのはル・グインの『孤独』。ぶっちゃけあんまりSFであることを必要としない、なんだったら設定をそのまま未開部族の研究者とかにしても何ら問題ないようなものなんですが、それでも僕はこれが息吹を除けばこの短篇集で一番おもしろかったな。お話はわりあい単純で、文明が未発達の星に調査のためにやってきた家族が、娘と息子はその土地に馴染んで「魔法が存在する」世界観を形成していったのに対し母親は科学文明に早く戻りたいと願っている、そのズレが物語の軸になっていく。母親からしたらこんな危ないところからは調査が終わったら早く出て行きたいし、未開部族がいうところの「魔法」は科学でしかない。

それでも娘からすればそこは自分の価値観の源であり、今更科学文明へ戻れと言われても困る。「科学」の結晶である宇宙船やさまざまな技術も彼女にとっては「魔法」としか思えない。親と子の確執でどちらの言い分も非常によく理解でき、感情的に罵り合うのでもなく二人が自分たちの納得するぎりぎりの線を担って対話をしていくのがよかった。ル・グインはやっぱりゲド戦記などでもわかりますが、「架空の世界」を構築していくのが半端無く上手い。魔法を信じる世界と、科学を信じる世界の両立が、たいへん素晴らしかった。

あとはやっぱり『息吹』ね。テッド・チャン。テッド・チャン大好きな人からの短編評価として「これまでの中でも最上位」とあったり。その評価は僕も変わらず。どんな話なのか? 我々が暮らす世界とは全く別の世界。冒頭の段落の文章から引用すれば『ここに刻むこの文章は、わたしが生命の真の源を理解し、ひいては、いずれ生命がどのようにして終わるかを知るにいたった、その経緯を記したものである。』となる。この世界は我々の世界とは異なるので、この文章を書いている生命体は空気から生命を得ている。毎日空になった肺を自分の胸郭から取り出し、空気をいっぱいにみたした二個の肺を消費する。

単純な事実から、この世界が実は「いつか終わるのではないか」という仮説が導き出されていくのだが……。観察された個々の事実から、意味を普遍化させ、もっと広い範囲に適用させてみせる。目の前の事象を抽象化し別の事象にも当てはめることができるかもしれないと考えられるのは知性の、想像力の力の源だ。その普遍のプロセスによって、この我々の世界とは全く異なる成り立ちを持った世界が我々の世界と接続をとげる瞬間がもう素晴らしい出来。わずか25ページの短編なのだが、後半部のドライブ感は圧巻で、この短篇集はぶっちゃけ、この息吹を読むためだけにでも買って読んでもらいたい、それぐらいの短編(ハードル上げすぎた)。

最後に本の交換会も行いました。みんながオススメの本を持ってきて交換する形式。今回はみんな持ってきたのはSF。特に縛っているわけではないのだけど。長谷敏司作品がかぶった(本はかぶらず)のがちょっと笑った。
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ではでは。これで興味をもってもらった方がもしいらっしゃいましたら、次回もまたこのブログやツイッターで告知しますので是非参加してくださいね。今回は大阪でしたが、東京でも開催しています。

SFマガジン700【海外篇】 (ハヤカワ文庫SF)

SFマガジン700【海外篇】 (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: アーサー・C・クラーク,ロバート・シェクリイ,ジョージ・R・R・マーティン,ラリイ・ニーヴン,ブルース・スターリング,ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア,イアン・マクドナルド,グレッグ・イーガン,アーシュラ・K・ル・グィン,コニー・ウィリス,パオロ・バチガルピ,テッド・チャン,山岸真,小隅黎,中村融,酒井昭伸,小川隆,伊藤典夫,古沢嘉通,小尾芙佐,大森望,中原尚哉
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2014/05/23
  • メディア: 文庫
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