基本読書

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誰得読書会『NOVA+ バベル: 書き下ろし日本SFコレクション』開催レポート

本日、SF短編アンソロジー『NOVA+ バベル: 書き下ろし日本SFコレクション』で読書会を開催してきました。告知記事はこちら⇒誰得読書会@新宿付近 10月25日(土)課題本:『NOVA+ バベル: 書き下ろし日本SFコレクション』のお知らせ - 基本読書

天気もよく気温もそこまで寒くなく良い感じだったかなと。誰得読書会では基本的に短編アンソロジーを軸にして、一人一人がその短編につけた点数(10点満点)’とその点数の根拠、感想を言い合って回していくスタイルでやっています。今回八人にご参加いただきまして、これはかなり多い方ですね。今回の課題本NOVA+は、これまでずっと出されてきたNOVA全10巻をいったん終わりにして、新しく一から新生し、プラスがついて蘇ってきたアンソロジー。第一発目ということで執筆陣もみな一球入魂気味だったり癖がありすぎたりする短編を書いており、一編一編のエネルギー量がとても高かったけれども読書会自体もそうした作品のエネルギーに負けじとテンションが高かったです。

NOVA+の執筆者は掲載順で宮部みゆき、月村了衛、藤井太洋、宮内悠介、野崎まど、酉島伝法、長谷敏司、円城塔という布陣。僕個人としては、長谷敏司『バベル』、野崎まど『第五の地平』あたりはみな平均的に評価が高いだろうという予想、なので藤井太洋『ノー・パラドクス』、円城塔『Φ』あたりの作品の良さを語れたらいいなと思っていたのですけど、メンツ的にみんな評価が大きく分かれ、あまりSFを読まない方からのSF観・評価や、逆にハードSF押し、自身の専門分野観点からのリアリティの欠如の指摘だったり、読み方・愉しみ方の多様さが面白かった会になりました。

会の流れとか、盛り上がったポイントとかの概略

宮部みゆきさんの短編「戦闘員」の間口の広さと、ジジイ小説としての完成度の高さ(老後暇になった老人が何をするのかという現代的なテーマ性もある)、これまでの宮部みゆき作品で共通して書かれてきた年寄りと子供との相関などなどをはじめとして、月村了衛さんの機龍警察は果たしてSFなのか!? そしてシリーズ未読者はこの短編だけを読んでわかるのか? と話題になったり(読んでない人の方が若干多かったかな?)序盤から大盛り上がり。

藤井太洋さんの『ノー・パラドクス』は一読して話の流れや理屈を飲み込むのが大変困難であり、後に出てくる野崎まど作品との関連で「図が欲しい、ないとわからない」や「あると逆にわかりやすすぎてしまうのでは」といった議論から、作品の根幹であるタイムトラベル理論や作品中で説明されている理屈の説明がホワイトボードを使ってわからない人向けに解説が入ったりして、なんか読書会っぽかったですね(ぽかったってなんだ)。非常に評価の高い人もいれば、低い人もいてそのどっちの言い分もわかるという良い作品です。僕はこの情報の塊で読者を殴りつけていくスタイルは大変好きでした。

宮内悠介さんはスペース金融道シリーズに連なる短編で、作品のコミカルさ、金融ネタなどを話すのが楽しかった。作中で描写される金融ネタ、これがアリなのかナシなのか? ホラとして成立しているのか? ありえるとしてどのような形がありえるのか? といったところや、過去作との関連・比較してこれはどうなのか? といった議論に。続いて野崎まどさんの『第五の地平』、これも藤井太洋さんの作品ばりに評価が割れた部分もありましたが、純粋に面白く、文章は軽快で、図まで含めた大法螺と真面目さの両立が評価され大絶賛。作品解説というよりかはどこで笑ったか、どこが特に面白かったかという話で盛り上がりました。

酉島伝法さんの『奏で手のヌフレツン』は造語のオンパレード短編。造語をつくって現代地球とは似ても似つかない世界を構築し、まるでついていけない描写が続きながらもやっていることはだんじり祭であるという摩訶不思議な短編で話題もやっぱりこの描写は受け付けられるのか」、はたしてこの描写は本当に面白いのか、話がよくわからん、漫画化したら面白いんじゃないか、著者はこんなものを書いていて嫌にならないのかとやんややんや言い合っていく。描写の一つ一つがやはりみな印象的なようで、ここでは様々な描写が取り上げられていました。

次に、長谷敏司さんのバベルが今回の読書会では野崎まどさんの作品についで得点数が高かった作品。組織内の理屈と組織内個人の理屈が相反し、この時個人が感じるストレスや、どうしたらいいのかといった普遍的な葛藤にSF的な回答を与えていくのが話の骨子であり、バベルというタイトルの作中で語られている内容への解説や主人公以外のキャラクタが記号的すぎるのではといった議題、こんなビッグデータの活用ができるのかと、他にも語ることがいくらでもありかかなり白熱した話が繰り広げられ、全体として好評でした。あとお話の下敷きにSF作家クラブ周りのごたごたがあったらしい〜という話からの、ただし問題としては普遍的な部分へ落とし込まれていることが作品に影を落とさずに成立させているといった話も出ました。

最後に円城塔さんの短編『Φ』ですがちょっと時間がなくなってしまったので一人一人の感想は飛ばし気味に。三時間あっても八人で語ると時間が足りない。段落ごとに文字数が減っていくという小説内ルールについては当然ながら筒井康隆『残像に口紅を』への言及などを取り上げつつ、円城塔さんの独自性はどこかを語ったり、単純にグラフィカルな面白さの話だったりとこの作品も全体的に評価が高かった。

僕個人の記憶を元に書いているので、実際はもっと面白い話題やポイントがたくさんあったはずですが、とりあえずざっくり書いてみました。思い出したら追記します。僕個人の感想は明日あたり記事をわけてそこそこ詳細に書いていこうと思っています。

誰得賞

というわけでまとめると今回一番点数の高かった野崎まど『第五の地平』には第十回だ誰得賞が贈られます。ぱちぱちぱちぱち。いつもであれば誰が得するんだよこの短編賞というひどい賞も最低得点の作品に贈られるのですが、今回はどれも力作だったこともあり見送りました。これまたぱちぱちぱちぱちですね。これだけレベルの高い短編アンソロジーだとは読む前は正直思っておらず、嬉しい誤算でしたね。よかったよかった。

話題にあがった本

みな熱心に話をしていて、都度都度「こんな本を思い出させる」とか「こんな本も面白い」と関連書籍の名前があがりますので、僕が覚えている限りですがここに列挙していきます(どちらかと言えば今回の参加者向け)。

宮部みゆき「戦闘員」で話題にあがった本;岸恵子『わりなき恋』
月村了衛「機龍警察 化生」で(ry;機龍警察シリーズ、パトレイバー
藤井太洋「ノー・パラドクス」;ブライアン・グリーン『隠れていた宇宙』『エレガントな宇宙』、ミチオ•カク「パラレルワールド―11次元の宇宙から超空間へ」「サイエンスインポッシブル」
宮内悠介「スペース珊瑚礁」;他のスペース金融道シリーズ(そのうち単行本化?)、宮内悠介「ヨハネスブルグの天使たち」、ダグラス・アダムス『銀河ヒッチハイクガイド』
野崎まど「第五の地平」;野崎まど「独創短編シリーズ 野﨑まど劇場」
酉島伝法「奏で手のヌフレツン」;弐瓶勉「シドニアの騎士」、小林泰三「海を見る人」、筒井康隆「幻想の未来」
長谷敏司「バベル」;長谷敏司『My Humanity』、小川一水「第六大陸」
円城塔「Φ」;筒井康隆「残像に口紅を」グレッグ・イーガン「順列都市」

などなど。また思い出したら追記していきます。


NOVA+ バベル: 書き下ろし日本SFコレクション (河出文庫)

NOVA+ バベル: 書き下ろし日本SFコレクション (河出文庫)

  • 作者: 宮部みゆき,月村了衛,藤井太洋,宮内悠介,野崎まど,酉島伝法,長谷敏司,円城塔,大森望
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2014/10/07
  • メディア: 文庫
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