基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

ユリイカ 2014年11月号 特集=森 博嗣 -『すべてがFになる』『スカイ・クロラ』から『MORI LOG ACADEMY』まで・・・クラフトマンの機知

『すべてがFになる』ドラマ化に合わせて、ユリイカが森博嗣さん特集だった。森博嗣さん当人へのメールインタビュー、清涼院流水さんと杉江松恋さんの対談、萩尾望都さん、山田章博さん、コジマケンさん、浅田寅ヲさん、スズキユカさんのイラストエッセイがあるとなれば当然ながら買わないはずがない。それ以外にも、森博嗣さんの膨大な仕事、エッセイや工作系、日記シリーズまで含めたものを点検していくような内容になっていて、インタビュー以外もなかなかの満足度だ。『すべてがFになる』のドラマはまだ見られておらず、ファンからは厳しい声も飛んでいるようだが、まあこういう特集が組まれるようになるだけでもいいじゃないかと思う。

メールインタビューなので、話の流れもなく事前に質問を作りこむことも出来るだろうと思う。それでも森博嗣さんとくれば大量のエッセイシリーズがあるわけで、良い質問を盛り込むのはなかなか容易ではない。どちらかといえばコア向けの内容が求められていることもあるだろうし、インタビュアーは大変だっただろうが、基本的に誠実に仕事をされていると思いました。雑誌、批評、詩とそれぞれテーマをしぼって質問をされて、それなりの分量答えていってくれるので振り返りとしても面白いですね。ほとんどはやはりどこかで語られていたりすることだったけれども、教育についてと小説を書いている時の意識の流れについて語っているところは面白かったな。

次に面白かったのが清涼院流水さんと杉江松恋さんの対談。最近あまり即座に表に出るような仕事をしていない(英訳プロジェクトなどの方に注力しているのだろうが)清涼院流水さんは昔からの森博嗣ファン(と友人)として、杉江松恋さんも初期からそのキャリアを追っている書評家の一人として、森博嗣さんが自身を語る以外、他者からの視点を持ち込んでいて面白かったです。森博嗣さんは基本的にはインタビューでもエッセイでも情報を統制し、制御し、与える印象を演出していく側面があるので、こうやって身近な人間からの現場の印象みたいなものは読んでいるとまた見え方が違って良い。

結果的には生の森博嗣像が見られるというか、猛烈な森博嗣ファンが森博嗣作品に対して楽しくおしゃべりしているといった感が強いわけですが。清涼院流水さんの読みなど、僕はいろいろと大いに異論のあるところでもあるけれど、まあそういうズレがあったほうが読んでいて刺激になったり気付きになる。スカイ・クロラやMORI LOG時代の話が多く、ヴォイド・シェイパや赤目姫の潮解のような最近の作品に触れられている部分が少なかったのがちょっと残念だったかな。一読者の目からするとヴォイド・シェイパシリーズと赤目姫の潮解は過去の作品を引き離して新たなステージに上がったぐらいに認識している凄い作品だったから。

現代社会は小説的リアリティの成立しない時代か?

ただ清涼院流水さんがヴォイド・シェイパについて語っていた中で面白かった部分もあって、彼がいうには現代社会は小説的リアリティの成立しない時代になっている、だからこそ意識したにせよまったくしていないにせよ、同時代的に村上春樹さんは1Q84を書いたし、村上龍さんは歌うクジラを書いたし、森博嗣さんはヴォイド・シェイパを書いたのだと。なぜ小説で現代を書けないのかといえば、ブログやTwitter、SNSのようなもの抜きでは現代社会は語れないのだが、Twitterのリアルタイム感やFacebookのつながっている感じを小説で出すのは不可能だからだという。

なんとなくわからんでもない。TwitterやFacebookのようなSNSのリアル感……SNS独特の文体とでもいうべきか。こういうものを小説の中でそれっぽく書いても「どうしてもウソっぽくなってしまう」のはわかる。また作品の中で自然と調和させるのも、特に小説では難しいだろう。何かあるたびに○○はTwittrerで「○○○」と書き込んだ、とか描写するわけにもいかんし。が、まあ結局それだってやりようによるんじゃないの、と思わんでもない。歴史物とSFばかりで現代小説を全く読んでいない僕はその反証例を出すことも出来ないのだが……。真っ先に思いつくSNS感を明確に作品構造に取り入れているのはシュタインズ・ゲートやロボティクス・ノーツのノベルゲーム分野で、ゲームシステムとして取り入れている物だしな。コレもアニメになるとすっかり面白味が失われちゃっている。アニメの場合はTwitterやブログのようなSNSを画面に映す演出(文字を読ませる)がやりにくいからというのもあるだろう。

もう一つ面白かったのは海外を見据えているという話。それは最初の引用部が日本語ではなく、英語で書かれている一事からも明らかだが、確かに本人の言葉として語られているとしっくりくる。

 もう一点は海外を見据えていらっしゃる。これはご本人からうかがったので間違いないんですが、「なぜああいうことをやられるんですか」とお尋ねしたときに、やっぱり本当に英語圏に通用するのはこういうものじゃないかというお話をされていました。それは実際の歴史に根付いた歴史小説である必要はなくて、いわゆる時代小説とか剣豪ものとか、外国人に受けるにはそういうものでいいわけですよ。

それ以外

さて……それ以外だが……1ページの漫画エッセイやよしもとばななさんのエッセイ以外はあんまり興味がなくて読んでいない……。いくつかぱらぱらっとめくった限りでは、飯田一史さんの『小説の印税で一〇億円以上稼いあと、森博嗣はエッセイで何を言っているのか。そしてそれ読んで正直どう思ったか』はSFマガジンなどでの気合の入った分析と比べると炭酸の抜けたコーラのようなもので、内容はどうでもいいのだが挑発的な部分が面白かった。

ま、ファンからすればインタビューや清涼院流水杉江松恋対談、関係漫画家陣の絵だけでも充分満足できるレベルだと思うし、ブックガイド的な側面でも全シリーズ紹介など最近読み始めた人にもそれなりにカバーされていると思う。