基本読書

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サイタ×サイタ (講談社ノベルス) by 森博嗣

Xシリーズ最新刊。レトロでシンプル。今回はあらすじだけを読むと、なかなか飛ばしているというか派手な感じ。なにしろ連続で発火現象を起こす危うい奴が街にいるのだからなんだかもうそれだけで危ない。爆弾ではなくたんに発火現象を起こしているだけだから、実質的な被害としては特にそう多くはないのだけれども、世間的にいえば発火も爆発もそう大差ないのだから大いに盛り上がることになる。

対するいつものメンバー、小川に真鍋、永田に鷹知はそれぞれ依頼を受けて、なんだか頭がよさ気な男を尾行し、張り込みをして監視することになる。そうしたらそいつがなかなか怪しい奴で……どうなっちゃうんだー!? シンプルさにおいて、Xシリーズの中では今作が一番好きかもしれないな。なんてことのない依頼から一転、普通に仕事をしているつもりがどんどんきな臭い雰囲気の大きな山につながっていくようなノリが良い。まっとうな探偵物のあるべき姿のようなイメージだ。

そして延々と無駄話をしながら張り込みを続ける4人の微妙な距離感がまた良い。4人で張り込みをするわけではないので、2人ペアの交代制になるわけだけれども、小川&真鍋ペアなら問題なくともその場合永田&鷹知ペアになったり、もしくは真鍋&鷹知ペアで探るようなトークが繰り広げられたり。ようはあんまりペアにならない同士がペアになった時が、会話のトーンが一変してなかなか面白いのだ。人間と人間がいるとなぜだかわからないけれどコミュニケーションしたほうがいいような気になるのはなぜなんだろう。無言でも特に問題ないはずなのだが、何か話したほうがいいような気がしてくる。

あとは尾行・張り込みという地味な……いってみればついていって、何か動きがあるまで待機しているだけなので、それ以外何も描写することもなさそうな作業の描写も興味深かった。いやまあほとんど喋っているだけなんだけど。あーでもないこーでもないと事件についての可能性を語っているだけで面白い人間の意見なのだけど。喋っている部分以外でいえば、詳しくは書かないけれどもふぅーんこうやって尾行をするんだなーと、これが実際かどうかもわからないけれども感心してしまった。まあ尾行も張り込みも、そんなにパターンがあるわけではないから誰がやったってバリエーションは出ないんじゃないかなと思いますけどね。

ミステリにおいて「この探偵の助手になりたい」とか思ったことは一度もないけれども、このXシリーズのメンバーとは一緒に張り込みや美術品の記録取りみたいな仕事をしてみたいなあという自然さがある。何が何でも成し遂げなければいけないという気負いもないが、かといってまったくもってやる気がないわけでもない。仕事だからやっているけど、特に上司が現場で見張っているわけでもないからそこそこ自由にやれている、そんなノリがいいのかもしれない。Vシリーズの面々が住んでいる場所で一室借りたいかどうかと考えたこともあるが、あのメンツはキャラクタが濃すぎて、いるだけでひどいめに会いそうなので迷うところである。でも麻雀はしたい。

Xシリーズの中でこの作品を特に好きだと思うのは事件の複雑性と、そこになんらかの理屈をつけていこうとするバランスの良さだ。事件が起こる、解決するためにはそれが確かにAによってBが起きたという証拠を抑えるしかなく、逆にそこさえ抑えておけば事件はいったんは終結するものだ。起こしていたものが排除されたのだからもう起こらないという理屈である。しかしそこにいったいどんな作用が働いていたのか? 化学的なプロセスで発火現象が起こるのとはまた違ったプロセスがあり、余人には窺い知れないし当人にだってわからないものだ。真鍋くんも小川さんもあーでもないこーでもないと言い合って、最終的にそれっぽい、個人的な納得を胸に自分の中でケリをつけていく。

本作は特別目立つ、爆弾魔や殺人事件のインパクトある題材を扱いながらも作中ではオフビートで進行し、淡々と普通の人間達の不可解さを暴いていくようなシンプルさがある。人それぞれ、何十年も生きていれば人間関係があり、根の深い問題もあり、歴史がある。そうした複雑に絡み合った人間の歴史と積み重なったものからくる行動としての発露は明快な結論や理解に落ち着くものではない。かといって本作はそれが「ぜんぜんりかいできませーん」ともやもやが残るような、放り出したような書き方ではなく、「普通の人間の不可解さ」を理解できるものとしてではなく、不可解なものを不可解なものとして書く──そんな秀逸なバランス感覚の元、組み立てられるのが凄まじいと思った。

サイタ×サイタ (講談社ノベルス)

サイタ×サイタ (講談社ノベルス)